人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

片山杜秀著「片山杜秀の クラシック大音楽家 15講」を読む ~ バッハ・モーツアルト・ベートーヴェンからカラヤン・グールド・吉田秀和まで 極私的かつ縦横無尽に語る

2023年03月06日 06時24分52秒 | 日記

6日(月)。わが家に来てから今日で2974日目を迎え、2024年の米大統領選の共和党候補者指名争いに立候補しているトランプ前大統領(76)は4日、ワシントン近郊で開かれた保守系政治行動会議(CPAC)の年次総会で演説し、「私は第3次世界大戦を防ぐことを約束できる唯一の候補だ」と訴えた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     プーチンと独裁主義者同士でうまくやれると思っているようだが 手玉に取られるね

 

         

 

片山杜秀著「片山杜秀の クラシック大音楽家  15講」(河出文庫)を読み終わりました 片山杜秀(かたやま  もりひで)は1963年仙台生まれ、東京育ち。思想史家、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。同大学大学院研究科後期博士課程単位取得退学。専攻は近代政治思想史、政治文化論。吉田秀和賞、サントリー学芸賞、司馬遼太郎賞を受賞 「音盤考現学」「ゴジラと日の丸」など著書多数

 

     

 

本書は片山杜秀「クラシックの核心ーバッハからグールドまで」(河出書房新社:2014年3月刊)に、あらたに6篇を加え、加筆修正したものです

この本で扱っている15人の「大音楽家」を目次でご紹介すると以下の通りです

1.バッハ ~ 精緻な平等という夢の担い手

2.モーツアルト ~ 寄る辺なき不安からの疾走

3.ベートーヴェン ~ 日本人の楽聖受容

4.ショパン ~ メロドラマと”遠距離思慕”

5.ワーグナー ~ フォルクからの世界統合

6.マーラー ~ 童謡・音響・カオス

7.トスカニーニ ~ 朽ちざる偶像

8.フルトヴェングラー ~ ディオニソスの加速と減速

9.カラヤン ~ サウンドの覇権主義

10.バーンスタイン ~ 俗なるものの聖化への挑戦と挫折

11.マリア・カラス ~ この世を超えて異界へと誘う巫女の声

12.カール・リヒター ~ 今こそ、そのバッハが見合う時代!?

13.カルロス・クライバー ~ 生動する無

14.グレン・グールド ~ 線の変容

15.吉田秀和 ~ 心に底流していた声を聴く

上に掲げた見出しの通り、「大音楽家」といっても、作曲家もいれば指揮者や演奏家もいるし、さらには音楽評論家まで取り上げられています そこが現代の「知の巨人」片山杜秀らしい特徴です

著者は「あとがき」で「子どもの頃から日本の伊福部昭という作曲家が大好きでした 伊福部に関連するところから、内外の近現代の作曲家をたどって聴いてゆきました そこからロマン派や古典派やバロックに遡る。民族音楽にもつなげる。そうやって音楽への興味を広げました」と書いている通り、一般の音楽評論家とはまったく逆の方向からクラシック音楽にアプローチしています ごく普通の音楽愛好家はバロック ⇒ 古典派 ⇒ ロマン派 ⇒ 近・現代という流れで聴いていくのが一般的だと思われますが、片山氏はまず伊福部昭、芥川也寸志、柴田南雄など日本人の作曲家の音楽から入り、ヒンデミットやストラヴィンスキーやベルクやシェーンベルクやリゲティなど20世紀の音楽に広げていき、ロマン派や古典派を聴くようになっていったというのです

したがって、片山氏の一番得意の分野は近・現代音楽のはずですが、本書で取り上げられているのは、クラシック愛好家なら誰もが知っている著名な音楽家たちなのです そこに片山氏の自信が表れているように思います    それにしても、よく似ているなあ、と思うのは表紙の漫画です。片山氏の特徴をよくとらえています

本書は河出書房新社の担当者から「『文藝別冊』で西洋クラシック音楽史上の大物を取り上げるので、書いてほしい」と依頼され、「そんな偉い人たちのことはなかなか書き原稿ではおそれおおくて」と答えると、「談話で良いから」と提案され、それならということで「放談」を繰り返し、それを文字に起こしたものに手を入れる形で出来上がった、ということです したがって、文章は片山氏が実際にしゃべった通りの「話し言葉」で書かれており、親しみを感じます 片山氏は毎週土曜日午後7時20分からNHK-FMで放送されている「クラシックの迷宮」という番組のパーソナリティーを務めていますが、まさに番組で話している通りの言葉使い(例えば「〇〇でございます」という丁寧語)で書かれています

本書で取り上げられている15人の音楽家についてのコメントは、片山氏の極めて個人的な経験を絡ませながら、堅物の音楽評論家とは一線を画す片山氏ならではの視点から語られているので、どれもが面白く、思わずうなずいてしまいます

最初に収録されている「バッハ」などは、「かえるの合唱」「レインボーマン」「月光仮面」などから語り始めていて、懐かしさとともに共感を覚えます 私が大好きなマーラーについては次のように書いています

「要するにマーラーとは大パノラマですよ。大スクリーンで観ないと真価の感じられない大スペクタル映画みたいなものです 一般に大編成のオーケストラ音楽というのは、マーラーに限らず大音量で聴かないことには、細かいところまでわからない。それはストラヴィンスキーでもブルックナーでも同じといえば同じです。でもそういう一般論とは違うんです。柴田南雄の弟子の作曲家、水野修孝が書いていますけれども、マーラーはLPレコードが登場して以降に人気が出た作曲家だと あるいは、録音媒体がLPレコードに進化してステレオ録音になり、家庭が家具調ステレオを持つようになって、近所との兼ね合いもありますが、とにかく大音量再生への道が開ける そこまで行って初めて理解されるようになった作曲家だと ここで突然、音量の話から時間の話にそれますが、SPレコードの片面は3分から5分くらいでしょう。マーラーに限らずモーツアルトやベートーヴェンのソナタや交響曲でも、ひとつの楽章はそれでは収まらない 本来つながっている音楽をいちいちひっくり返して時間的にぶつぎりに鑑賞することになる。でもモーツアルトやベートーヴェンだと、提示部とか展開部とかテーマのかたちとかが見えやすいですから、時間的に切れても頭でつないで鑑賞しやすい脳内補正が容易である でもマーラーは混とんとした壮大なパノラマでしょう。大河的なうねりですよ。ぶつぎりになるとつかまえにくくなる 楽章の途中で裏返さなければならないようだとマーラーは分からないんですね LPレコードは片面の収録時間が長い。半時間は楽に入る。これでようやくマーラーがOKになってくる。受容可能になる で、話が音量に戻ります・・・・・」

私がマーラーを聴くたびに思っていることを端的に表現しています

片山氏は漫談調の語りから「クラシックの核心」に迫っていきます クラシックを長く聴いている愛好家にとっても、初心者にとっても、あっという間に読み終わってしまう「超面白本」です。強くお薦めします

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