18日(日).昨日の朝,近所の数少ない木の上で蝉が鳴いていました.短い命を惜しんでか「おーしい,つくづく,おーしい,つくづく」と聴こえました 街のあちこちではお神輿の山車を引く子どもたちの姿が見られました.まだ残暑厳しい毎日が続きますが,秋はすぐ目の前にやってきていると感じます
昨夕、サントリーホールで東京交響楽団第592回定期演奏会を聴いてきました 指揮は大友直人.チェロは宮田大.プログラムは①シューマン「チェロ協奏曲イ短調」②ブラームス作曲・シェーンベルク編曲「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」の2曲です.
1曲目のシューマン「チェロ協奏曲」を生演奏で聴くのは初めてです.滅多に演奏されませんので.チェロ協奏曲と言えば,ドボルザーク,ハイドン,エルガーが有名ですが,この曲はその次に名前が挙がってもいいと思うほどロマン的で感動的な曲です.1850年9月に40歳のシューマンが作曲しました.全体は3つの楽章から構成されていますが,切れ目なく演奏されます.
チェロの宮田大は1986年生まれといいますから,ジュネーブ国際コンクールのピアノ部門の優勝者・萩原麻未と同世代です.2009年チェロ部門の最高峰と言われる第9回ロストロポービィチ国際チェロコンクールでの日本人初の優勝者です.
宮田は,歌わせるところは朗々と歌わせ,切り込むところは鋭く切り込んで,この曲のロマン的な表情を明らかにしていきます 彼のお蔭でこの曲の真価が発見できました
2曲目のブラームス「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」はシェーンベルクが管弦楽用に編曲したものです.プログラムの解説によると,シェーンベルクは,調性を放棄して無調や十二音技法を志向しましたが,ブラームスを「師」と仰いでいたといいます.シェーンベルクはこの編曲について「ブラームスの第5(交響曲)」と呼んでいたといいます.あの進歩的なシェーンベルクがあの保守的なブラームスをねぇ,と意外な感じがしました 一見保守的と見られているブラームスの音楽には先進的な試みが至る所に見られると言うことでしょうか
シェーンベルクは,ナチスがドイツで政権を取ったことに伴い,教鞭をとっていた芸術アカデミーの職を辞し,アメリカに渡りました.その地で,古くからの友人の指揮者オットー・クレンペラーが,経済的な支援のためにシェーンベルクに編曲作品を依頼しました.その際にシェーンベルクが選んだのがブラームスの「ピアノ四重奏曲第1番」だったのです.
シェーンベルクは,この作品を選んだ理由として「1.この作品が好きだから.2.めったに演奏されないから.3.ピアニストが優れているほど大きな音で演奏し,弦楽器がまったく聞こえないから」と言っています.
オリジナルのピアノ四重奏曲と管弦楽用編曲版とを比べると,色彩に例えれば,オリジナルが”モノクローム”だとすれば,編曲版は”フルカラー”だと言えるでしょう ラベルがムソルグスキーのピアノ曲「展覧会の絵」を管弦楽用に編曲して色彩感豊かな曲に仕立て上げたのと同じです.
この曲は弦楽器,管楽器,打楽器,それぞれの特性がフルに生かされるように編曲されています.大友=東響はその特性を十分に生かして,圧倒的な推進力をもってブラームス=シェーンベルクの音の世界を表出していました