ついでなので、私物で仕上げ待ちであったセイコー・マーベルをレストアしちゃいますね。マーベルは1956年から発売されたモデルで、それまでのスーパーなどに比べてスイス時計の精度に追いついた優秀な機械で、当時爆発的に売れたようです。石数、耐震装置の違いで多くの種類が存在しますが、この個体は1958年5月製造の14045 17石、チラネジ付テンプと耐震装置はダイヤショックとなっています。現状は油切れで停止状態。風防ガラス(トキライト)には内部崩壊の細かな傷が多く入っています。
この個体は、ケースのラグが1個所曲がっていて、それでオークションで入札がないものを入手しました。ラグは修正しましたが、14kケースのため、真鍮の腐食が少ないのが幸いしたか、文字盤への汗の侵入などがなく比較的良い状態を保っていました。現在は、部品の入れ替え個体も多いですが、この個体はオリジナル状態ではないかと思われます。
クラウンやグランドセイコーに通じる妥当な設計と仕上げですから、それ以前のスーパーと比較して組立精度は良好です。酷使された個体は、丸穴車などの摩耗が進んでいますが、この個体は摩耗は少ないですね。
初期の耐震装置なしからU型、E-2型、S-2型と頻繁に耐震装置が変更されたようですが、この個体はどれなんでしょうね。良く知りません。丁度、腕時計に耐震装置が付き始めた頃の試行錯誤が見て取れます。
12時下の「S」は初期型の印。6時にDIASHOCKと印刷がありますが、極初期の耐震装置なしには印刷されていません。太めの剣型針は私のお気に入りです。しかし、文字盤はまだ小さく、現在の目にはボーイズサイズで、後期になるとケースを大型化した製品となっていきます。私はこのサイズで丁度良い感じですが・・
組立中に気になっていたのは、磁気帯びのため角穴車などがドライバーに着いてくる状態でした。方位磁石を近づけると、やはり竜頭付近が磁気を帯びていることが分かりました。この後、消磁をしましたら、方位磁石には無反応となりました。帯磁は精度不安定となります。
裏蓋は中央がへこみ気味(裏蓋を閉めようとして?)でしたので修正をして軽くヘアラインを再生してあります。チラネジ付テンプですが、作動は安定して素性は良いと思います。
風防ガラスは交換ですが、ベゼルの接合面の研磨により、痩せた分を計算してワンサイズ大き目の風防を選んでおきました。よって、器具で絞って挿入してがっちりと嵌りました。
私がマーベルのイメージと言えば、チープな茶色のカーフベルトですね。小学6年の時に腕にしていたことがあるからです。と言うことで、デッドストックの茶ベルトを選択しました。この頃の手巻モデルを仕上げる時に、一番困るのが竜頭ですね。金メッキの竜頭は磨滅しているものが殆どで、交換の需要も多いと見えて、オークションなどでドンピタのものを見つけるのも至難になっています。14045は防汗竜頭ではなく、それ以前の防塵竜頭なので余計に現存数が少ないです。また、何故か、入手出来た竜頭のネジピッチが合わないことも多く、今回も合いません。巻芯はM1 ピッチ0.25mmですが、規格には0.2mmもあるようです。製造の時代によってなのか、亀戸のモデルとも違うこともあって、この辺りについては知識が無く判然としません。何用か不明ですが巻上げ性能の観点から直径が大きめの竜頭をつけておきます。一度も歩度調整をしていないのに、現在日差は平置きで+数秒以内と非常に優秀で、ゼンマイの持続時間も申し分ありません。腕に嵌めていても重さを感じず違和感もない。人の動きにフィットしたこの時代の時計は人間的で心が和みます。