三光PENとはどなたが言い出されたのか分かりませんが、その外観からの定義からは外れる初期生産分の個体ですね。実際には、見えない内部はエンドレスで改良のための変更が続いていまして、どこまでが三光とか言うお話しには私は加わりたくありませんね。全体的な外観はきれいだと思いますが、レンズの後玉には持病のコーティング白濁があります。これは除去することになります。
オーバーホールのご依頼を多数頂きますが、この作業の半分は掃除(部品洗浄)の工数になります。掃除屋なのです。私の経験では、その掃除をないがしろにして、見えるところだけ修理をしている個体を良く見ますが、そういう修理に限って首を傾げることが多いのです。この個体も、とにかく古いですから、内部は劣化したグリスや混入した埃でドロドロの状態。やっと、全ての部品を洗浄し終えたところです。
洗浄を終えたダイカスト本体。初期の三光の頃より金型成形がきれいに見えますね。すでにスプロケットとスプール軸を留めるナットは工具を掛ける切込みが太くなったタイプを使用しています。しかし、スプールのスベリ機構は改良前のままで、そのうちスプールにクラックが入ります。
長くなりますのでシャッター画像は割愛しますが、スローガバナーの扇状ギヤの動きが悪く、フルストローク作動していない状態でした。スプリングなどは非常に細いタイプを使用していますので、これだけ永い時間をテンションを維持するのは難しいところです。シャッターを組み込んで、2軸を組み立てます。駒数板下のギヤはウェーブワッシャー入りの、中期以降と同じタイプです。しかし、分解用の2孔は開いていません。片耳の特徴です。駒数板は汚れを清掃して組みます。
駒数板の針は初期型の特徴である金めっきタイプ。くすんでいましたので研磨をしてあります。巻上げダイヤルも初期の特徴である中心の留めビスは直接ダイヤルを締めていないタイプ。ねじ山はすでに左ネジです。ダイヤルの固定は対角に2つのビスで留まっています。その後の改良では、ダイヤルは中心ビスによって共締めをされ。固定のビスは1つだけとなります。ファインダーの対物レンズはガラス製に変更。何度も清掃をする場合はこの方が絶対に良いです。遮光カバーは紙タイプ。この後、問題が出てくる個所です。
じつは本体にトップカバーを取り付けて、シューにシューカバーを嵌めようとしましたが、これが嵌りません。分解して検証すると、元々カバーの寸法が小さめでシューにセットできません。たぶん、この状態だったのでしょう。製造時からこの状態とは考えられません。この時点では、カバーが換えられているだけと思ったのでした。
トップカバーを取り付けます。片耳の場合は右の吊環をねじ込むことによって、トップカバーを留めていますが、本体側のネジ切りと吊環のネジ切りは部品のセット管理がされている訳ではなくて、締め込んだ状態で吊環が縦にならない場合は、鋼製の調整ワッシャーで調整してあります。この個体の場合は、強引に締め込んでありましたが、材質が真鍮で、繰り返しのストレスを掛けていますので、再度締め込むのは破断の危険があると判断してワッシャーをオイルストーンで削りながら厚みを調整して縦位置となるようにします。(エンジンのタペット調整と同じ)この個体も、当初は、ワッシャーが入っていたと思われますが、途中の分解で無くされてしまったのでしょう。
結局、シューだけではなくて、ファインダーブロックとトップカバーの位置関係を調整する必要がありました。この辺りの部品がすべて入れ代っている可能性がありますね。巻き戻しダイヤルは初期の三光PENと違い、変更後のタイプとなっていますが、板バネを留めるビスは頭の高い三光PENの頃のままです。意外に片耳の吊環は両耳に変更されたのは遅かったということですかね。レリーズボタンは変更後、フィルム位置マークは〇に-は貫通しています。この個体も過去に分解歴がありますので、各部の仕様が必ず正しいとは限りません。