「アジアは新たなゴールドラッシュ時代に突入したと考えている。10年後には、中国やインドで10億人を超える中産階級が生まれる。2020年にはアジアで3兆円、世界で5兆円の売り上げを目標にしている」
カジュアル衣料ブランド「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長(62)は11日、ソウル市中区明洞に誕生したユニクロのアジア旗艦店のオープンに先立ち、韓国を訪れた。旗艦店となる明洞中央店は、面積3966平方メートルでアジア最大規模を誇る。世界では先月ニューヨーク5番街にオープンした店舗に次ぐ規模となる。
柳井会長は「明洞は世界中から多くの観光客が集まる場所で、アジアの首都、世界への入り口だと考え、ここに出店することにした」と説明した。ユニクロは2006年に韓国で第1号店をオープンし、売上高は毎年60?70%のペースで伸びている。2014年には韓国での売り上げ1兆ウォン(約690億円)を達成する構えだ。
「内需に満足する企業が多い国は不況に耐えられない。世界ではある場所が駄目になれば、ある場所が栄えるというサイクルがあるため、世界ブランドをいくつか保有すれば、一国の景気は底堅くなる」
2009年に経済専門誌『フォーブス』で日本一の富豪に選ばれた柳井会長の経営哲学は「海外へ」だ。
柳井会長は「日本は豊かだという錯覚に陥っているが、私の考えでは世界30位ほどでしかない。環太平洋連携協定(TPP)に参加しなければ日本は滅びるしかない」と述べ、韓国については「よくやっているのではないか。すでに日本を追い抜いたという話もある」と言って笑みを浮かべた。
柳井会長は1972年に父親が経営する小さな洋服店を継ぎ、衣料品事業を開始。84年には「ユニーク」な「クローズ(服)」というネーミングのブランド「ユニクロ」を立ち上げ、本格的に世界のファッション産業に参入した。90年代初め、日本ではユニクロで買った服だと知られれば恥ずかしいという意味の「ユニバレ」という言葉が流行したこともあったが、最近はユニクロの服を工夫して個性的に着こなす「デコクロ」という言葉が流行している。
柳井会長は「品質第一主義を目指し、繊維世界最大手の東レを説得したり、米航空宇宙局(NASA)と提携するなど、品質革新に向けさまざまな努力を重ねてきた。洋服は単なるファッションではなく、素材、機能の面でも優れていなければならないという考えが奏功した」と説明した。先端繊維で保温効果に優れた「ヒートテック」が代表的な商品だ。
柳井会長は「65歳になる年に経営から引退する。二世には社長の座を譲らない」と明言した。息子の能力が他の社長と似通っているなら、専門経営陣にチャンスを与えるべきとの考えからだ。
柳井会長は「『企業は顧客のために存在し、社員と共に成長し、市場と共に滅びる』という言葉を常に忘れてはならない。創業者の精神が消え、二世、三世が自分本位の経営を行えば、会社が滅びるのは火を見るより明らかだ」と語った。