梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

たしかに若年寄と言われますが!

2010年03月05日 | 芝居
帰宅時、自宅マンションのエレベーターで乗り合わせた母娘連れ。幼稚園生と思われるお嬢ちゃんはとっても可愛ゆく元気があって、微笑ましいものでした。
エレベーターが動き出しますと、私が押した階のボタンを指差して、お嬢ちゃんが言いました。

「ここ“おじちゃん”の家?」

おじちゃん…。

「そ、そうだよ~」と笑って応えたつもりですが、かなりショックを受けましたですよ、本当に。

中村梅之、本年三十路突入。
“なるべく”若くありたいと思ってマス。

アヤしい言葉

2010年03月04日 | 芝居
『菅原伝授手習鑑 加茂堤』の後半、逢い引きがバレてしまった斎世親王と苅屋姫がいずかたへと落ち延びてしまいますが、それを追いかける三好清行が、手にした笏が倒れた方向でどっちへ行ったかを占うくだりがございます。
そのときの台詞が

『てんげんこうりてんげんこうり 西か東か うしゃどっち』

というもので、これは上演台本通りなのですけれど、「てんげんこうり」ってなんだ? とかねがね思ってまして、今回調べてみました。
古代中国の占いの大典『易経』の「乾の伝」のはじまりに、「乾 元亨利貞」とありまして、これは「“乾(けん)”は元(おお)いに亨(とお)りて貞(ただ)しきに利(よ)ろし」と読み下すのだそうです。天の働きに従い正しい行いをすれば、多いに望みはかなう…みたいな意味になるとかや。

そして易占を行う者は、まずこの言葉を唱えるのがならわしになっているそうで、それは日本でも同様。しかしながら、時が下るにつれ易占がその形を変えながら庶民生活に浸透してゆくうちに、元々の意味合いと関係なく、一種の“おまじない”みたいなものにもなり、それにつれて語句そのものも「けんげんこうり」とか「けんげんこうりこうり」とかいうふうに変わったかたちになるもの(貞はどこへいった?)もあった。

廓界隈を流す辻占売りから買った神籤を開けるときにもこの言葉を唱えたみたいですから、庶民にもなじみのフレーズだったのだと思います。なるほど、落人の行方を占う清行がこの言葉を口にしてもおかしくはありませんね。

とは申せ、台本でも実際の舞台も「“てん”げんこうり」。これは近年の上演ではいつもそうでございます。
お芝居では、長い歴史のなかで言い回しが変わること、“歌舞伎訛り”になることはままございます。これもそういうことなのかもしれず、あるいは、今回は見つけられませんでしたが、世間で実際こういうふうに言っていた事例があるのかもしれませんね(辞書を引いても出てこないハズですな)。

今回、もとの意味がわかってスッキリいたしましたが、“けん”から“てん”への変遷の真相をお知りの方は、ぜひぜひお知らせくださいませ!

創作舞踊の会

2010年03月03日 | 芝居
舞台を終えてから、<ティアラこうとう>に向かいまして、友人の花柳幸舞音さんが出演された創作舞踊公演『雛彩々』を拝見してまいりました。
出演者自身が振付した7作品で構成されたもので、総監修は花柳寿南海師。ご自身も大喜利として『桃』と題して「山姥」の山巡りを舞われました。

創作舞踊は幸舞音さんと知り合ってから拝見するようになりました。曲や衣装、照明など、いろいろな面で自由な部分が多い一方で、やはりあくまで日本舞踊の創作ですから、難しいところもあるのだろうな…と、勝手に想像しておりますが、一観客として楽しく拝見させて頂きました。描くテーマとか動き、演出の面白さは、古典にはないこのジャンルだけのものですね。

カーテンコールもかねたフィナーレは、3月3日の公演ということで、寿南海師はじめすべての出演者でひな飾りに扮するという趣向の振り事。これがとっても可愛らしくて、隅々にまで心のこもった温かい舞台作りに感激いたしました!!


残り50余日…

2010年03月02日 | 芝居
『御名残三月大歌舞伎』、開幕です!

私にとりましては、久々の3部制興行ですが、働くぶんにはいつもとそれほど変わりはございません。開場時に演奏される"着到"のお囃子が、3回聞こえてくるので「そういえば」と思うくらいです。

お陰様で師匠の仕事も自分のお役も無事に勤まりました。いよいよ花粉シーズン到来、楽屋はもとより舞台でもくしゃみ鼻水との戦いが始まっておりますが、ご宗家の踊りのお稽古、勉強会の準備、また歌舞伎座解体を間近に控えての荷物整理など、いろいろ取り組まねばならないことがございますので、ひと月何ごともなく過ごせるよう、気を引き締めてまいります。

とうとうやってきた「歌舞伎座ファイナル」です。どうぞお出まし下さいますよう、お願い申上げます。

御名残三月稽古場日記・4

2010年03月01日 | 芝居
月が改まりまして、いよいよ初日直前。
『菅原伝授 加茂堤』『女暫』『白浪五人男』の<初日通り舞台稽古>でした。

『加茂堤』は一昨年に上演したばかりですので、後見の段取りはまごつくことなく無事に勤まりました。…一座しているいろんな方から“牛の声”の出し方について「あれどうやってるの?」と聞かれるのですが、企業秘密ですのでいっさいお答えできない…わけはなく、いたって簡単なことしかしておりませんので、きちんとご説明しておりますが、客席からご覧になる皆様には、興ざめになってしまってはこちらも不本意ですので、このブログではナイショとさせてくださいね。

『加茂堤』後にいそいで化粧をして、自分の出番『女暫』。正座は決してラクとは申せません。とはいえ十八番の『暫』より台本は若干短くなっておりますから、思ったより早く時が過ぎ去ってくれております。
“絵面(えめん)”でいることが存在意義みたいなお役ですので何もしませんけれど、それでも雰囲気があるように…!

『白浪五人男』。「勢揃い」に関わるのは初めてでしたので、小道具の傘(“志ら浪”と書いたアレ)の扱いですとか、肩にかける晒の手ぬぐいの幅とか、いろいろと知らないことだらけでした。
改めてこの場を拝見しますと、台詞のことでも下座のことでも、調べてみたいことがいっぱい出てまいりました。もしかしたら、この場でお伝えできるかもしれません…。

師匠と自分の仕事が済んでからの、『菅原伝授 道明寺』と『石橋』の舞台稽古を拝見してから帰宅しました。
サァ明日からついに「さよなら公演」のファイナルとなる『御名残大歌舞伎』が始まります!
3部制ですから、開演時間はお間違えなく!