梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之京都日記・「助六」さまざま

2009年12月01日 | 芝居
当月松嶋屋(仁左衛門)さんによります「助六」は、『助六曲輪初花桜(すけろく くるわのはつざくら)』ですが、音羽屋(菊五郎)さんのお家には『助六曲輪菊(すけろく くるわのももよぐさ)』があり、先年大和屋(三津五郎)さんが襲名披露でなすったのは『助六桜の二重帯(ふたえおび)』、そして市川宗家(成田屋)は、ご存じ『助六由縁江戸桜(すけろく ゆかりのえどざくら)』。

助六役をなさる方によって、外題が変わっているのが面白いのですが、歌舞伎十八番の内である『由縁江戸桜』は、荒事の元祖市川宗家のいわばオリジナル、登録商標みたいなものです。他のお家はそれに敬意を払って、それぞれ違う外題を用いているのだそうです。
単に外題だけでなく、助六の登場場面で演奏される音楽も、市川家が河東節を使うのに対して、松嶋屋の『曲輪初花桜』は長唄、音羽屋の『曲輪菊』は清元、大和屋の『桜の二重帯』は常磐津となっていますし、台本や役名にも相違があったりします(『曲輪菊』では助六が後半紙衣に着替えない・助六の母親が"織江"になる、など)。

逆にいえば、主演者それぞれが、「我が家の『助六』」をもっている、と考えることもできるかもしれませんね。お客様にも、見くらべる楽しみがございましょう。

私の初「助六」が、当月と同じ松嶋屋さんの『曲輪初花桜』でした。平成1〇年1〇月名古屋御園座でのご襲名の興行。まだ本名の頃で、同期全員でいわゆる"居残り新造"をさせていただきました。
右も左も分からない時分でしたから、周りの方々にはご迷惑をおかけしてしまいました。橘屋(羽左衛門)さんのくわんぺら門兵衛が、舞台上でさりげなく我々の行儀をチェックなさる! 怖かったなァ…。

その後市川家の『由縁江戸桜』では、幕内で"野郎め"で通っている、助六に棒っきれを持ってかかる若い者や、揚巻付きの振袖新造を勉強させていただき、今回が4回目の「助六」出演です。

出演者の総数が、一幕ものの演目ではおそらく歌舞伎界で一番だろうというくらいの大掛かりなものですから、そうそう上演されるものではありません。今後どのようなかたちで携わることになりますでしょうか。
今回も、いろいろと勉強させていただきたく思っております。