梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

櫓も降りて雨の楽

2008年11月25日 | 芝居
歌舞伎座11月興行<吉例顔見世大歌舞伎>、無事千穐楽を迎えることができました。
本年2度目となる『吉田屋』の仲居、夕霧の病鉢巻きをとる仕事も、失敗やアクシデントもなく勤め上げることができました。有難いことでございます。

前回(本年3月)のおりは、舞台に出る前も出てからも、この作業のことで頭がいっぱいで、「うまくいくかな」「しくじったらどうしよう」とそればかりになってしまい、気持ちがなおざりになってしまいましたし、落ち着きなくバタバタした仕事になってしまったのが悔やまれました。再度の挑戦となる今回は、あくまで仲居としてこの仕事を勤められるよう、「このようなことは普段からしょっちゅうやってるのよ」というくらいの気持ちで、焦らずできるように心がけました。

前回とは段取りが違うこともあり(後日追記する予定です)、急がなくてもよくなったぶん、よりリラックスして勤めることができましたが、舞台上での鉢巻き外しと打掛を着せるというお役目は、半分は仲居であっても、もう半分は後見としての要素もあるようにも思えまして、さりげなさ、とか、目立たぬように、という後見の注意点を、こういうお役を演じるうえでも活かせれば、より<イイ仕事>ができるのかな、と思うようにもなりました。
どこかで冷静な目を、一歩引いた気持ちを残しつつ…。
これからの課題といたします。

…『寺子屋』『嫗山姥』での黒衣後見も、大過なく。
『寺子屋』のことで記録しておきたいのは、師匠演じます武部源蔵が、「いろは送り」の前に、自ら焼香道具を持ってくる段取りで今回演じられたことです。多くの場合は、門火の用意も焼香の用意も、みな戸浪が行い、源蔵は舞台にいっぱなしですが、源蔵がいったんのれん口から引っ込み、焼香に参列するということで羽織を着なおした上で、手ずから焼香道具を持ってくるのです(経机は使わず、小太郎の文机を使う)。
主演の皆様で相談されてこのかたちになったのですが、こういうなさり方は存じませんでしたので、大変勉強になりました。

なんだか今月はあっという間に終わってしまった感じです。
皆様には、東京4座競演の顔見世月、ご堪能頂けましたでしょうか?

更新がとびとびになってしまったことをお詫びいたします。