梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

小菊という女

2007年06月12日 | 芝居
『妹背山婦女庭訓』の「小松原」「吉野川」に登場する、雛鳥付き腰元<桔梗>と<小菊>。
しっかりものの桔梗と、ちょっと間抜けで三枚目の小菊。ふたりの演技が、重苦しくなりがちな義太夫狂言の雰囲気を大いに和ませてくれます。
このふたり、同役ながら扮装は若干違えてありまして、鬘は同じ<文金>ですが、小菊の方が飾り物が多く派手になっています。見比べると小菊の方が若やいでみえるかもしれませんが、これは小菊というお役のもつ幼稚さの表現と、この鬘に頬を赤くした化粧というギャップのおかしみを出す効果があるわけでしょう。

「吉野川」では桔梗が藤色、小菊が鶸(ひわ)色の振袖ですが、歌舞伎では鶸色の衣裳を着る女は大抵三枚目です。『紅葉狩』の岩橋、『嫗山姥』のお歌など…。これもひとつの約束事といえるかもしれませんね。

小菊の演技はいろいろとおかしみの動きや台詞が多うございますが、「小松原」など、本行(文楽)の方ではけっこうキワドい台詞が出てくるようです。さすがに歌舞伎ではそういうところは簡潔にしています。
「吉野川」でも、あまり三枚目っぽくみせないやりかたもございますが、6世中村歌右衛門の大旦那の芸談を拝読しますと、『小松原から通してやるときは、三枚目風にしなくてはいけないでしょう』という旨のお言葉がございました。