梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之京都日記・10『渡りぜりふ』

2005年12月06日 | 芝居
今月私は、『五斗三番叟』でも、『京人形』でも、セリフを頂いております。
立ち回りが始まる前に、シンの俳優さんを左右から取り囲んで、これからお前をやっつけてやる、という旨のセリフを、短いセンテンスに分けて数人で言ってゆくのですが、こういうセリフの形態を<渡りぜりふ>と申します。
『五斗三番叟』ですと、シンの亀井六郎役、音羽屋(松緑)さんが、
「こりゃあわいらは何とするのだ」とおっしゃいますと、
奴1「何とするとはしれたこと」
奴2「御前間近く推参なし」
奴3「館をうかごう不敵の曲者」
奴4「いざ尋常に、腕」
奴全員「まわせ」
となります。
また、『京人形』では、左甚五郎役の音羽屋(菊五郎)さんが、
「こりゃあうぬらは何とするのだ」となると、
大工1「なんとするとはしれたこと」
大工2「今日の祭りを幸いに」
大工3「群衆(ぐんじゅ)の中に紛れ込み」
大工4「これから姫を腕ずくで」
大工5「連れてゆくから」
大工全員「覚悟しろ」
というふうになるのです。

私は奴3「館を~」と、大工5「連れて~」をさせて頂いております。<渡り>というくらいですので、セリフを言う各人のイキ、テンポを合わせるのはもちろんのこと、声の高さも、なるべく1の人に合わせなくては、ひとつの流れにはなりません。また『五斗三番叟』のような時代物と『京人形』のような世話物でも、言い回しに変化があります。時代物ならやや武張ったように、世話物ならあっさり軽く、という具合です。
そして一番肝心なのは、セリフがあるとはいえ、あくまで主演者に対して脇役が言うコトバなわけですから、変に芝居っ気をだしたりせず、重くせず、控えめに言うということです。これを間違うと、行儀の悪いセリフになってしまいます。

本当に短い一言を言うだけなのですが、やはり緊張いたします。セリフを噛まないか、ど忘れしないか、そして今回は二演目とも同じセリフで始まるので、ごっちゃにならないか。一つのテンポの流れにあわせて言わなくてはならないこの<渡りぜりふ>は、はらはらどきどき、スリルがございます。
私、もとより滑舌がよくなく、言いにくい音が続く単語ではいつも苦労しております。今回は<ヤカタ>が言いにくいので苦戦中です。落ち着いて、焦らなければ大丈夫なんですけれど、まだまだ未熟ですので、お客様にきちんと聞こえているかどうか、不安です。しかし、これも修行です! 今月中には克服いたしましょう!