梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

研修時代・決断するまで

2005年05月16日 | 芝居
小学校五年生から歌舞伎に夢中になってしまった私。卒業文集の「私の夢」欄にも堂々と「歌舞伎役者」と書いたほどです。中学二年の春に関西に転校、歌舞伎の舞台とも遠ざかってしまいましたが、歌舞伎役者へ、との夢は膨らむ一方でした。すでに、国立劇場での「俳優研修」の存在は知っていましたが、研修生になるには試験を受けねばならず、その条件は「中学卒業以上二十四才まで」。私が中学を卒業する平成八年は、ちょうど二年に一回の募集の年でした。
三年生になり、友達が進学先をあれやこれやと考えているなかで、私は「国立劇場の研修生になり歌舞伎役者になる」という、担任も困ってしまうような「進路」を選ぼうとしておりました。もし、晴れて研修生になったとしても、最終学歴は「中卒」になってしまいます。研修生になれなかったことを考えても、高校受験だけは受けた方がよいのでは、いや高校を出てからでも研修生になるのには遅くはないのではないか、といわれましたが、私、ネがひねくれ者の頑固者、他人と同じ道を歩きたくないものでしたから、卒業したら絶対研修生になる、高校なんて行きたくない!とつっぱねておりました。
世間のことを何も知らないものでしたから、本人は大した考えもなく言い放ったわけでしたけれど、両親はじめ、まわりはさぞかし心配だったことでしょう。進路を本格的に決めなくてはならない時期に来て、ずいぶんと話し合いました。こちらも向こう見ずとはいえ、親の気持ちも痛いほどわかりましたし、でも自分にとっての高校進学の意味は見つからない。さりとて仲の良い友人との別れを考えたり、あるいは研修生になれなかったときのことを思ってしまったりすると、先行きの見えない不安。なんと申しましょうか、精神的に辛い、苦しい一時期もありました。
しかし、最後の最後には、両親の理解が得られ、私も自信をもって「国立劇場の研修所を受験する」と、決意することができたのです。ただし、受験に落ちた時のことを考えて、通信制の高校(無試験)に入学することにいたしました。
クラスメイトはずいぶん驚いておりましたけど、私が歌舞伎好きなのは知っていましたから、みんな応援してくれました。「有名になってね」なんて言葉が、どんなに励みになったかわかりません(まだ有名にはなってませんけどね)。
とまれ、中学三年生の春、私は「国立劇場歌舞伎俳優研修」の受験を決意いたしたのでございました。