パンドラ訴訟「控訴理由書」を全文公開、...
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何度でも繰り返すが「パンドラ訴訟」の高裁判決は、次の点で画期的である。
(1)梅澤、赤松両隊長の名誉回復を果たした、
(2)新聞による言論支配(封殺)に風穴を明けた
こここまでは理解できるが、それでも裁判の詳細が今ひとつ飲み込めない、という読者が多い。
「事件」の概略はこうだ。
2007年、ドキュメンタリー作家上原正稔氏が執筆する琉球新報に長期連載中の沖縄戦記「パンドラの箱が開く時」が、慶良間編、最終回と二度にわたり(計5回分の原稿が)琉球新報により掲載拒否された。
同連載は、核心部分の慶良間編と最終回が欠落したまま終了した。
これを不服とする上原氏が2011年、琉球新報を相手取って「言論封殺」の訴訟をした。
第一審で、琉球新報は、慶良間編の掲載拒否の理由は「二重掲載だから」、最終回は「新味のない焼き直しだから」と合理性のない主張をした。
181回にもわたる長期連載の中で琉球新報が掲載拒否をした「慶良間編」と「最終回」の2箇所は、いずれも「集団自決は軍命ではなかった」と明確に記述された部分に限られている。
つまり掲載拒否された原稿はいずれも、上原氏が訴えたかったいわばこの連載の最重要部分だ。
琉球新報の意図が、「集団自決は軍命ではなかった」という沖縄戦の真実を、読者の目から隠蔽することにあったことは、誰の眼にも明らかだった。
(1)「2重掲載」の破綻
琉球新報は後付理由で上原氏の過去の著述に、慶良間に上陸した米兵・シアレス伍長の手紙が引用されていることを指して「2重掲載」と主張した。
だが、これは手紙という一次資料の引用であり、ドキュメンタリー作家が同じ資料の引用を禁止されることは、弁護士が同じ法令の条文を引用禁止されるに等しいほど理不尽な主張である。
そもそも琉球新報は、上原氏が翻訳した英文のシアレス伍長の手紙を「上原氏自身の文章」と勘違いしていた。
自分たちの勘違いに気付かず「2重掲載」と主張したが、原告側弁護士に「資料の引用」と指摘され、被告側証人が絶句するというお粗末な場面もあった。
追い詰められた琉球新報は「引用文が長すぎる」などと本来の主張(2重掲載)とは異なる発言をする混乱振りであった。
結局「2重掲載」という理由は、徳永弁護士の鋭い証人尋問で木っ端微塵に粉砕されてしまった。
だが、第一審では途中で裁判長が交代するという不運もあって、新たに担当した井上直哉裁判長は、琉球新報側の瑕疵だらけの主張を全面的に認め、上原氏に敗訴の判決を下した。
当然上原氏は控訴した。
上原氏や応援団は、控訴審の裁判長が特に優秀でなくとも、普通の判断力さえあれば、一審の審議記録だけで充分勝訴できると判断した。
だが、念には念を入れ、二審では「新味のない焼き直し」だとして削除された最終回に反撃の焦点を当て、必勝の作戦を立てた。
(2)「新味のない焼き直し」の破綻
作品の評価は読む人により異なる。
「新味のない焼き直し」とは琉球新報側の恣意的判断である。
外部作家の作品を一編集者の勝手な価値判断で、全文削除することは前代未聞である。
しかも最重要部分の「最終回」の全文を、である。
これを以って最終回の掲載拒否の理由としては不可と判断した琉球新報は、後付で、「(最終回の原稿は)「沖縄ショウダウン」(上原正稔著)の紹介であり「担当者が連載執筆契約の内容が初出の資料を用いた新連載である」と主張した。
にもかかわらず上原氏が同様の原稿を書いてきたため、書き直すように依頼したが、拒否されたため掲載を拒否したと主張した。
「新出の資料による執筆契約」など存在せず、担当者の前泊記者がついた真っ赤な嘘であった。
その根拠と主張した「前泊メモ」なるものは。日付その他に整合性を欠き、普通の判断力さえあれば、これが後で作成したデタラメなメモであることは一目瞭然だが、一審の井上裁判長はこれを鵜呑みにし琉球新報を勝訴にした。 だが、第二審では「前泊メモ」はは全面的に否定された。
百歩譲って第二審の今泉裁判長が、最終回(181回)を読んで、琉球新報と同じく「新味のない焼き直し」と判断したとしよう。
しかし、今泉裁判長が常識人である限り、それはあくまで個人の恣意的判断であり、新聞社が掲載中の長期連載記事の最終回を全面削除する理由にはならない、と判断するだろう。
今泉裁判長は、原告側の徳永弁護士が渾身の気迫で書き上げた「控訴理由書」を冷静に検証し、一審判決をすべて否定し、原告の全面勝訴の判決を下した。
今泉裁判長は常識のみならず、優れた資質の裁判官であると「判決文」の明快な論点の指摘を読んで、いまさらながら理解した。
徳永弁護士が書いた「控訴理由書」を読めばこの裁判の問題点が自ずと浮き上がってくる。
長い文章ではあるが読者の理解の一助として、「控訴理由書」を全文公開する。