「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

シリーズ「防災の常識・非常識」始めました:第1回は「ベストの危機管理とは何か」

2014-10-12 18:59:48 | シリーズ「防災の常識・非常識」
思うところあって、「防災の常識・非常識」について、
「旅の坊主」なりに整理して提示する連続企画を始めてみたいと思う。
時間があったらの話ゆえ、アップは不定期になろうし、何項目書けるかもまだわからない。
間違いや勘違いがないともないとは言えないが、ともあれ、批判を恐れず、まずは書くことを始めたい。
このブログを読んで下さっている方々、コメントなどいただければ大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
(なお、シリーズ「防災の常識・非常識」は、語りかけ口調で書くことにします。)

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第1回のテーマには、「ベストの危機管理とは何か」を選びました。
さて、読者の皆さんの「腑に落ちる」語りが出来ましたならばご喝采、ということで。

この言葉、英語のCrisis Managementの直訳ですが、
元々は軍事・国際関係の世界で使われていたとのこと。
危機とは、キューバ危機のような、国と国との間のもめ事を意味します。
(注:米ソが核戦争一歩手前まで行ったと言われる1962年10月の事件)

国益追求は国家の本性ですから、お互いの国益追求が時に衝突を生むのはある意味では必然ともいえます。
しかし、相手の意図の読み間違えや相手からのサインの見落としなどから、
双方ともが望まない結果(甚だしくは核戦争)に陥っては困る訳です。
危機管理とは、そうならないよう、もめ事をうまく処理していくための知恵の集大成、
と考えればよいと思います。

軍事・国際関係上の危機において、双方ともが望まないエスカレーションを避ける、
というのが元々の意味だとして、
日本でこの言葉が防災と絡む形で使われるようになったのは、
やはり1995年の阪神淡路大震災以降のことでしょう。

ただ、そこに、不幸な誤解、あるいは理解の浅さがあったように思えてなりません。

危機管理という知恵の集大成においても、基本は予防、
すなわち危機に陥らないことの重要性が謳われています。
ではなぜ、日本において、防災・危機管理と2つの言葉が並んで使われるようになっても、
予防の重要性が強調されず、危機(災害)へどう対応するかが重要なのだ、
というような間違った解釈がされるようになってしまったのでしょう。
その理由は、私にもわかりません。

「予防に勝る防災なし」「災害対応に防災の本質なし」と、
私は「馬鹿の一つ覚え」のように言い続けていますが、まだまだ理解されていません。

相変わらず、学校の防災訓練は避難訓練です。

「防災行動力を身に付けよう!」という議論はあっても、
「災害危険度の低い場所に住もう!」という主張はほとんど聞きません。

津波に遭い土砂災害の被害を受け、避難やそのタイミング、避難に向けての情報提供のあり方が問われることはあっても、
そもそもその場所がどういう場所かという議論は聞きません。

地震についても「非常用持ち出し袋を持って避難所に行く」と刷り込まれている人が圧倒的多数で、
地震防災の本質は潰れない家に住むこと、と理解している人がどれだけいることやら……。

これでは、東日本大震災という巨大な被害を受けても、
防災・危機管理の本質を理解していない、と非難されても、仕方がないと思います。

「ベストの危機管理は危機に陥らないこと」すなわち「予防に勝る防災なし」。

では予防のポイントは?これは次の機会に。

防災ボランティアによる災害図上訓練にあたり

2014-10-12 15:50:04 | 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)


10月8日(水)午後の話。

防災ボランティアの世界では良く知られている話であるが、
毎年3月最初の土日、静岡で、
ボランティアによる救援活動のための図上訓練が400名規模で行われている。
来年3月で10回を迎える。

この日、そのための委員会が開かれる。
業界に詳しい人であれば「オッ!」と思うような豪華なメンバーが集まったのだが、
それはそれとして。

図上訓練のプログラムは、
これからワーキンググループが詰めていくことになるが、
基本の基本は外してはならない、

ということで、委員会の場での発言を少しかみ砕いた形でここにも記しておく。

1 リアルな被災イメージを持つことの重要性。

「地震・津波がいつ起こるか」は「神のみぞ知る」の世界だが、
「地震・津波が起きたらどうなるか」は人知の世界。
図上訓練の前提として、どこでどういう被害が出ると覚悟しておくべきか、
その質と量、場所について、リアルなイメージを持つこと。
そのイメージ抜きに「こうなったらどうしますか?」の対応を問うのは「訓練ごっこ」。
(現実には、この「訓練ごっこ」レベルの訓練が多いとは思うが)。

2 被災者が求めるものの質と量、そして時間の経過にともなうそれらの変化について、
リアルなイメージを持つことの重要性。

言葉になった(=表に出てきた)ニーズに対応するのは当然として、
過去の被災経験・支援経験を元に、あらかじめ、支援者の側で、
(表に出ていない)ニーズを拾い出すための網としての、
「多分、こういうことで困っているだろう」という先読みが出来るまで、
被災者が求めるもののイメージをしっかり持つこと。

いずれも簡単な作業ではないが、これらがあってこその図上訓練であってほしいし、
またそうでなくてはなるまい。
この図上訓練の監修をやってきた身としては、
このような訓練(ワークショップと呼ぶべきか)プログラムの標準化について、
さらなる努力が求められる、ということでもある。