「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

「今、地震が起こったらどうしますか?」という子供たちへの問いは、もう止めにしないか?

2017-03-24 22:27:24 | 防災教育
一昨年の今頃、東日本大震災五周年を期しての刊行を目指して、防災教育本の執筆を行っていた。
タイトルも決まていたし、大きな方向性も決まっていた。
でも、生来の怠け癖が出てしまって、30万字?を書けずに今に至っている。

今年は、阪神淡路大震災から二十三回忌、かつ、東日本大震災から七回忌。
今年の上半期までに脱稿出来るなら、「証文の出し遅れ」ではあるが、ぎりぎり許容範囲では、と。

で、防災教育について改めて考え、大学が春休みであることにも支えられ、
1時間1000字を目途に文章化をしているところ。

「避難することが防災」とは、未だに抜けがたいものなれど、日本の防災教育の致命的な欠点。

「避難をしなくて済む場所に住もう」
「避難できない人が住んでいる施設は、災害リスクのない場所に建てよう」
「仕事柄、避難してはいけない人の勤務先は、災害リスクのない場所になくてはならない」

これらを教えること抜きに、何が防災教育だか!

「今、地震が起こったら?」という設問は、
「地震大国日本ゆえ、全国どこであれ、いつであれ、震度6強の揺れはあるものと覚悟しておくべき」
という意味では、問いかけとして成り立つ。

だが、その問いへの百点満点の答えは「何もしません」だと思う。

より正しくは、

「普段から、とりわけ立地や構造の意味で、被害を受けない環境を作って来ましたので、
今さら、何をする必要もありません。
ただ、平常心を失わないよう、臍下丹田に両手を当てつつ、深呼吸をしています。」

辺りではないか、と。

三角定規を使いつつ、
「これは、固定していなかった場合、30度の傾斜で滑りますか?倒れますか?」
「45度の傾斜だったら?」
「60度の傾斜でも滑らず倒れずになるよう固定してありますか?」
そんな、「家庭内DIG」ならぬ「教室内DIG」による防災教育プログラムを、
文科省は推奨していたっけ???

「学校は、地域の拠点です。
ですから、想定され得る災害リスクから可能な限り離れた場所に建てられなくてはなりません。
この校舎は、考えられる限りの災害リスクのない場所に建てられています。」

教員は、子供たちに、「ここにいる限りはあわてることはない」と言えるような状況を作るべく、
ベストを尽くすべき、と思うのだが……。

ついでに言えば、

「そのような学校にしてくれた先輩方への感謝の念を忘れないようにして下さい。」

そこまで言えれば花丸だと思う。

(3月27日 記す)

「生まれてくる子どもたちへの約束:巨大災害が襲ってくるまでに○○します!」

2015-10-09 23:49:40 | 防災教育
毎週金曜は2限が「災害医療システム」、3、4限が「防災実習」。
これらのコマを終えて一息ついた17時半過ぎ、
富士市立富士南中学校から3名の先生が研究室を訪れて来てくれた。

訪問の主旨は、11月20日(金)午後に実施予定の、
3年生8クラス約270名を対象とする地震・津波防災DIGの打ち合わせ。

仮に2038年の発災と考えるならば、今の中3生はその時38歳。
結婚が早ければ、今の自分と同じ年の息子・娘を抱えている時の被災、となる。
その時、日本を襲う巨大災害の「広さ」と「激しさ」をどのようにイメージさせればよいのか。
社会経済的な影響までイメージさせることは難しいとしても、
せめて、「広さ」と「激しさ」、この双方はイメージさせたい。
そしてそれにより、避難や備蓄を中心とするような防災教育ではどうにも太刀打ちできない、
被害の量の差、質の差について、しっかりと考えさせなくてはならない。

本気で防災教育に携わる者であれば誰もが直面する、極めて大きな課題、と思っている。
(そのような認識を持っていないで防災教育に携わっている者も、残念ながらそれなりにいるが……。)

打ち合わせの結果、

1 その週の火曜日(11月17日)午後、3年生全員を体育館に集め、
「旅の坊主」自身が、例の5万図を展開させて被災範囲の「広さ」をイメージさせるセミナーを行う。
2 それを受け、当日11月20日午後、クラスに分かれ、学生をファシリテーターとして派遣、
5~6名/グループに分け、地震の揺れの「激しさ」と、対策の基本的方向性を考えるワークをさせる。

という基本線が固まった。

標題は、その「対策の基本的方向性」を考えるグループワークをまとめるにあたってのキーワード。

今は厳しくても、理想の状態になくても、それはそれで受け止める以外にない。
そう遠くない将来、自分は学びの過程を終えて実社会に出ていく訳だが、
その実社会での活動次第で、この極めて巨大な災害の被害を予防することが出来るかもしれない。
やがて家庭を持ち、子どもを持つことになるだろうが、
まだ親(つまり自分)の庇護下にある段階でこの巨大災害に見舞われる自分の子どもには、
辛い思いをさせずに済むよう、出来る限りのことはやっておきたい。

そんなことを考えてもらえるならば、教える側として嬉しいのだが……。

被災範囲の広さは、床に置いた神奈川から大分・宮崎までの地図の上を歩くよりも、
2階の「キャットウォーク」から見下ろしたほうが、うまく理解してもらえるかもしれない。
最近はやりのドローンでの空撮、という手もあるかもしれない。

「激しさ」を考えてもらうDIGは、これはいつものパターンでよかろう。
課題は、そのファシリテーター役を担う学生を鍛えることが間に合うかどうか、だが……。
まぁ、学生を鍛えることは大学教員の本業中の本業ゆえ、何とかするしかない。
ともあれ、この秋の活動も、消費者教育としての防災というテーマに加えてもう一つ、
面白いテーマに挑戦出来そうである。

(10月14日 記す)

「防災教育のあるべき姿と地震・津波防災DIG・土砂災害対策DIG」(その9、最終回)

2015-10-07 23:51:27 | 防災教育
毎月第1水曜日の午後は学部教授会のある日。
この日、小村ゼミ3年生の2人の転籍が教授会で承認され、両名は正式に小村ゼミを去って行った。

本格始動なったゼミブログには「来る者拒まず、去る者追わず」の文字があり、
その訳語 Those who come are welcome, those who leave are not regretted.も載せてもらってある。
ではあるが……。
「去る者追わず」と言ってはいるものの、not regrettedの気分ではない

逃げ癖が身に付いてしまっている彼らである。
fight or flightの決断の場に立たされたら、これからも、努力ではなく、安易な道を選ぶだろう。
そしてその結果が何をもたらすか、その恐ろしさを彼らは知らない。
ゼミを変わっても、学びを続ける姿勢があり、そして学びの方法論を持っているならば、
まだ取り戻せるかもしれないが……。

まぁ、すでに答えが出てしまったことである。彼らのことを今後は言うまい。
残された者をしっかり鍛え、社会人の卵として、まともなスタート地点に立たせることが出来るか。
小村ゼミの目標を改めて見据え直さなくては、である。

9回に分けて掲載した防災教育についての拙稿も、今回で最後となる。
この原稿書きの機会で、新たな想を得ることが出来た。
これをいかに発展させた上で文章にまとめるか。次の大きな課題である。

*****

DIGを用いた防災教育のポイント(その2):土砂災害対策DIG

地震・津波防災のみならず、今後は土砂災害(広くは風水害)のリスクも高まっていくことになる。
そのため、ここ1、2年は土砂災害対策DIGの依頼も出てきている。

(1)もっとも重要な着想:「住む場所選びの目を育む」ということ

土砂災害、中でも土石流災害は、その流速が速く、かつ予兆現象があるとは限らないため、事後対応では間に合わない。
そこで子どもたちには、

「土砂災害が発生する場所は限られている。だから、
そのようなリスクのある(高い)場所には住まないことが土砂災害対策の大原則である」

ということを教えなくてはならない。

土砂災害対策DIGは、気象予警報や前兆現象、避難指示等々の理解よりも、
「住む場所選びの目を育む」を目標にかかげ、
災害リスクの有無・大小を判断できる力を身に着けさせることに重きを置いたプログラムである。

(2)模擬地図で土地理解の基本を学ぶ

地図判読の基礎は小学校5年生で学ぶことになっているが、実のところ、
地形図を読む力は大人でもかなり心もとない。
土砂災害対策DIGでは、最終的にはそれぞれの地域の地図に取り組んでもらうのだが、
その前に地形図判読のイロハを教える必要がある。
筆者らは、消防庁消防大学校による「自主防災教育指導者用教本」
http://www.fdma.go.jp/html/intro/form/daigaku/kyouhon/index.htm)に収録されている
DIG用模擬地図を用いるのを常としている。

この模擬地図を用いて、

①地形の特徴、
②災害リスクが示唆される地名、
③土石流が及ぶ範囲や堤防決壊リスクの高い場所・浸水範囲等を、

地図から読み取る訓練した後、実際の地形図に取り組ませている。

(3)旧版地図と防災ジオラマによる地形理解と実被害図の対比

都市化が進んだ地域では、現行の地形図から災害リスクを読み取りやすい「素の地形」を読み取ることはなかなか難しい。
だが、今より人口が少なく都市化も進んでいなかった大正年間まで遡り、その時代の地図を用いれば、
その地域・地形が潜在的に持つ「地形に起因する災害リスク」は比較的読み取りやすい。
幸か不幸か「模範解答が用意されている練習問題」が一例あるので、それに取り組むことをお勧めしたい。
それが、国土地理院による1/25000地形図「祇園」(2014年の広島土砂災害箇所を図郭内に持つ)であり、
空中写真による写真判読図(http://www.gsi.go.jp/common/000095316.pdf)である。

周知のように国土地理院では、古くは明治年間にまで遡ることが出来る旧版地図と呼ばれる昔の地形図の謄本交付を行っている。
例えば、上述の「祇園」は、大正14年測図のものまで遡ることが出来る。
土砂災害リスク判読で最も重要な読図ポイントは尾根筋と谷筋なので、
この地図を使いて「尾根筋は赤」「谷筋は青」と色鉛筆を用いて確認させている。
作業のやりやすさを考えると版面をA3版、地図は150%程度に拡大すると良いだろう。
(著作権法上教育目的での地形図コピーは許容されている)。
実測被害図も縮尺を調整して地形図同様とすれば、「ビフォー&アフター」が出来る訳で、
地形図判読の上手下手を自身で確認することが可能となる。

土砂災害リスクの把握の上では、段ボールを用いたジオラマの活用(http://bosai-diorama.or.jp/)も効果的である。
3D地図であれば地形判読は直観的に可能となる訳で、紙地図同様尾根筋と谷筋に赤青のテープを貼ることで、
3D地形が2D地図ではどう表現されるのか、またその逆はどうなのかの理解も容易である。
これらの作業の後、地域の実際の地形図に取り組ませれば、土砂災害リスクの判読も、
さほどハードルの高いものとはならないであろう。

おわりに

以上、前半では今日求められている防災教育の中身とその体系性について、
「防災まちづくり・くにづくり教育」のあるべき姿にも触れつつ述べてきた。
「時代の宿命」としての南海トラフ地震・津波の被害範囲の広さと社会経済的影響の甚大さ、
さらに「20年ほどの時間的猶予」という唯一の希望を考える時、追求すべきはこの方向性以外にない、と筆者は確信している。
また後半では、前半で述べた総論を災害図上訓練DIGにおいて物語る上でのポイントを述べた。

詰め込み過ぎの感があったとすれば、それは筆者の責である。
機会があれば、改めてこのテーマについて語ってみたいと思っている。

*****

(10月13日 記す)

「防災教育のあるべき姿と地震・津波防災DIG・土砂災害対策DIG」(その8)

2015-10-06 23:54:46 | 防災教育
掟破りのバックデータも、何とか一週間差まで取り戻してきている。
リアルタイムでの活動報告に戻るまで、あともう一息。

この日(10月6日)午前は、沼津市の子育て支援サークル「tasuki」のママさん方から依頼を受け、
防災についての座談会を行っていた。

拙ブログの堅苦しい文言を読むよりも、
「tasuki」との仲介役を果たして下さった沼津市災害ボランティア協会「VCはまゆう」の高良綾乃さんの秀逸なブログに、
この時の話が掲載されているので、そちらを紹介することで報告に代えたい。

「小村先生との座談会 with tasuki開催されました!」
http://ameblo.jp/vege-takarabako/entry-12081372061.html

一つ、本気で考えさせられたことがあった。
この秋、消費者庁が静岡県に業務委託をしている消費者教育のプロジェクトをお手伝いすることになっている。
「静岡で消費者教育を、というのであれば、やはり防災でしょ?」、これは間違いなく正しい。
で、「こういうアバウトなものならば、やはり小村さんでは?」という担当者の議論があったかどうかは知らないが、
有り難いことに声をかけていただいた。
防災の基本は、まともな立地、まともな構造、つまりは自宅をどこに構えるのがよいか、ということ。

tasukiの方々に聞いてみたところ、意外なほどすでに家を購入している人が多かった。
未就園児を持つママさんが中心のtasukiゆえ、持家の人は1/3程度、
つまりは多くは30代後半か40代になったら購入では?と勝手に思っていたのだが、
ざっと3/4ほどがすでに家を構えておられた。

ということは、自宅の立地と構造の重要さを説くには、もっと若いママさんに声をかけなくてはならない訳で、
とすれば、どのようなアプローチをすれば、そのような方々に情報(メッセージ)を届けることが出来るか、
そこが思案のしどころ、ということになる。

議論の中では、パパママ教室は子育て支援センターへのアプローチがあるのでは?となった。
大変重要かつ貴重なアイディアをいただいたように思った。

11月中旬、最初の委員会がある。それまでに、もう少し考え方を深められるだろうか……。

拙稿「防災教育のあるべき姿と地震・津波防災DIG・土砂災害対策DIG」の提示も、
各論その1である地震・津波防災DIGの後半まで来た。
以下にお示しする通りだが、拙ブログの読者各位には、すでにどこかで聞いた話かも。

*****

DIGを用いた防災教育のポイント(その1):地震・津波防災DIG
(3)3つ目の柱:地域の被害量を見積もりさせよ

地震防災のイロハのイは建物の耐震性確保。
とすれば、現時点で覚悟しておくべき被害を「当たらずしも遠からず」程度には見積もらせた上で、
「現状ではかくかくしかじかだが、これをどう変えて(少なくして)いくか」と問うことが、
地震防災の進展には不可欠である。
そこで、地域に残る古い耐震基準時代の家屋数を手がかりに、
建物倒壊による生き埋め者数(=要救出者数)、負傷者数、死者数を、簡単な掛け算のみで見積もらせる書式を導入、
参加者に被害量を算出させている。

子どもたちには「この分析はあくまで現時点での被害見積もりに過ぎない」という点を強調している。
建て替え(や二義的には耐震補強)により丈夫な家が多くなれば、地震の被害は減らせる。
この過程を通じて子どもたちには、「地震による被害は減らせるのだ!」という意識を持たせたい、
と思っている。

(4)4つ目の柱:残された時間を活かして地域をどう変えていくか
揺れのイメージを持たせ、全体状況を把握させ、個々の地域での被害量を見積もらせたからには、
残された課題は、残された時間を活かして地域をどう変えていくか、である。
ここではA0版程度の地域の地図を用いている。
地図は住宅地図メーカーのゼンリンがDIG用地図を販売しているのでそれを活用している。
版面はA0版、縮尺は1/1500なので、概ね東西1km、南北1・5kmが地図内に収まる。
中学校区程度と考えてもらえればよいだろう。
地域改善策の検討過程は模造紙に整理させている。
先に述べた被害量見積もりを①として、

②地域の強みと弱みの洗い出し、
③強みを活かし弱みを補うための提案を付箋紙で書き出させ、
④この地域を災害に強くするための参加者からのメッセージ、

としてまとめさせる、という具合である。

地震・津波防災DIGの標準的な流れはこのようなものだが、
これらの過程を踏むにはかなり切り詰めても3時間程度の時間を要する。
50分1コマや2コマでDIGをやってほしいという依頼もあるが、
まともな教育には相応の時間がかかるということは理解しておいてもらいたいと思う。

*****

(10月13日 記す)

「防災教育のあるべき姿と地震・津波防災DIG・土砂災害対策DIG」(その7)

2015-10-05 23:47:40 | 防災教育
この日は朝イチに20年来お世話になっている東京・四ッ谷の山口歯科を受診、
その後「いきなりステーキ」で肉分を多少なりとも補給した後、大学へ、という日だった。

原稿書きの大きな山を越え、多少なりとも新規案件に取り組める精神的余裕が出来た日。
ただ、振り返ってみれば、どれほどの新しい挑戦を始めることが出来たか、と問えば、
大したことが出来ていないようにも思う……。
それでも(いささか記憶が曖昧ではあるのだが)、スケジューラーを再稼働させたのはこの日と記憶している。
数日~数ヶ月という単位ではあるが多少は先を見てモノを考えよ、と、
己に言い聞かせるためのツールとしてのスケジューラー、と思っている。
後日、ゼミ生向けに「ゼミ活動カレンダー」も始動させた。
大学教員生活16年目にして、少しずつではあるが、などと言えた義理ではないが、
組織運営(ゼミ運営)にも「不断のカイゼン」を、である。

防災教育についての拙稿を何回かに分けて掲載している。
今回の更新では、各論のうち地震・津波防災DIGの前半を掲載する。
(例によって禁転載でお願いします。)

*****

DIGを用いた防災教育のポイント(その1):地震・津波防災DIG

災害図上訓練DIG(ディグ、Disaster Imagination Game)は、
1997年、当時三重県消防防災課に勤務していた平野昌氏と三重県在住の防災ボランティア、
そして防衛庁(当時)防衛研究所に勤務していた筆者の三者が作り上げた、
地図を使った参加型防災ワークショップのノウハウである。
地図を前に、どれだけ「防災の物語」を語るか、
参加者に「防災の物語」を考えさせることが出来るかの世界である、と言えば、
理解してもらえるだろうか。
本節と次節では、現場の中高教員を念頭に置きつつ、防災についての専門性を持たない方であっても、
DIGにおいて正しい「防災の物語」を語ってもらえるよう、その物語の勘所について述べてみたい。

(1)1つ目の柱:震度6強の揺れをイメージさせよ

「地震大国の日本ゆえ、全国どこであれ、震度6強の揺れはあるものと覚悟しておくべき。」
地震・津波防災DIGの冒頭、筆者はこのように訴えた上で、震度6強の揺れが何をもたらすのかを、
個人作業やグループワークで確認する作業を行わせている。

「地震で人は死なない。耐震性に欠ける建物に潰されて人は死ぬ。」

阪神淡路大震災最大の教訓であり、耐震性に欠ける建物は10秒も持たずに倒壊、下敷きとなった方々が犠牲になった。
震度6強(以上)の揺れにも耐えられる建物のほうが多数という時代にはなったものの、
弱い者(物)を選んだように襲いかかるのが災害である。
この現実からスタートせず、いきなり「避難場所・避難経路」云々から始まる地震・津波防災論議はニセモノである。

筆者が行う地震・津波防災DIGでは、最初の柱として、
「揺れが収まった後に」己が取るべき行動を個人ワークとグループワークで書き出してもらった後、
記録映像と実験映像で揺れと被害の実態を確認・検証させている。
これにより、自分達が思い描いていた揺れや被害のイメージはリアルなものか、
地域住民に求められる被害局限のための具体的な災害対応がしっかり意識化・明文化できていたかの自己採点が出来る。
さらにその後、求められる予防策・事前準備は何かを問い、
本来あるべき防災とは何かへと誘導するようにしている。

(2)2つ目の柱:「着眼大局:事態の深刻さをイメージさせよ」

2つ目の柱を、筆者は「着眼大局」と呼んでいる。
具体的には、首都圏から九州東岸までを含む1/20万の地勢図を展開し(6m×2mほどになる)、
駿河トラフ・南海トラフ沿いの地震・津波の被害が及ぶ範囲のイメージを持ってもらっている。
この縮尺では、阪神淡路大震災の被災範囲は手のひら2つ分。
これに対して、駿河トラフ・南海トラフ地震の被害範囲は大人2人が両手を広げたくらいとなる。
静岡、愛知、三重、和歌山、徳島、高知、愛媛、さらに大分と宮崎、
状況によっては大阪を含むその周辺の府県においても死者が発生しかねない超広域の災害である。
被災地域外からの支援にどれほどの「手厚さ」も期待できないと、一目で理解できるだろう。
広さの差のみならず、この地域の人口の多さと社会経済活動の活発さを想起するよう促せば、
この範囲が同時に被災地となる災害がどのようなものか、
事態の深刻さについて、イメージをもってもらえることと思う。

前述のように、この「被災範囲が極めて広く」「社会経済的インパクトも計り知れない」絶望的な巨大災害だが、
一つだけ救いがある。それが海溝型地震の周期性に鑑みての20年程度の準備期間である。
しかるべき準備(一義的には予防)に、十分ではないかもしれないが、
「まったく足りない」ではない程度の時間的余裕はある。
問題はその時間を活かせるか(あるいは活かせずに終わってしまうか)、である。
子どもたちにそのような意識付けをするためにも、
この1/20万地勢図を前に物語る「着眼大局」のワークには、是非是非取り組んでもらいたいと強く願っている。

*****

(10月13日 記す)