すべてがうまくいく
望む未来は、すでに存在している。
カナダの感謝祭で連休の今週末、我が家にお客サマが来ている。
お隣のうちの、トイプードルの女の子。
まだ3歳なのでチャキチャキで、家中を走り回っている。とっても小さいので、掃除機をかけるときにうっかり吸い込まないよう注意している(笑)
前にも何度か預かったので、この子も慣れていてまるで自分ちというか別荘みたいにリラックスしているから笑える。
お隣のうちは子供二人を連れて、今週末は旦那さんの実家で過ごしている。いつも泊りがけで出かけるときは、洗濯室にトイレシートを敷きつめ、餌と水を置き、犬を入れてドアを閉めて出るのだそう。だけど今回は5日以上も留守にするので、さすがにそれはかわいそう。で、うちで預かることにしたのだ。
おとなりのうちは子供がまだ小さい上に夫婦共働きなので手が回らず、犬を散歩につれていくとか庭で遊ばせるとかは全くやらない。だけど我が家にお客に来たからには、我が家の方針でなんでもやる。まず、リードをつけて歩くことから教えなくてはならず、初めて預かったときはちょっと大変だった。
でも、今はだいぶ慣れたみたい。
今回の議題は、車に乗せて買い物につれていくことだ。
なんせ車に乗ることにあまり慣れていない子なので(たぶん、車に乗るといったらグルーマーや獣医に行くときだけ)、もう興奮しちゃって大変。キャンキャン鳴きながら窓から飛び出そうとするので、ハーネスをしっかり握ってないと駄目なのだ。ま、それもなんとか一日目の終わりには慣れてきた様子。
今、さすがに疲れたのかピンク色の自分のベッドでスヤスヤと眠っている。静かなときが一番かわいいよね。やれやれ。
今朝は、ポッポちゃんの姿がなかった。
水も餌も、全く手を付けていない。フンもしてなくて、久しぶりにキレイなデッキだ。
お昼ごろにはまた来るかな、と話していたのだが、訪れるのは相変わらず野生動物ばかり。「やっと旅立つ決心がついたのだろうね」と、夫婦で顔を見合わす。お隣の旦那さんは、「今朝早く、白っぽい鳥が西に向かって飛んでいくのを見たよ」と言う。ポッポちゃんかな。無事に帰れるといいね。
ポッポちゃんのおかげで、伝書バトについていろいろ調べて勉強になった。
日本では、伝書バトを輸送する専用の箱があるのだそうだ。
これに関してはこの記事に詳しく書かれてあるのだけど、鳩を送る輸送会社がペリカン便っていうのが笑える。おりこうな伝書バトは、おとなしく箱に入って長旅ができるのね。
ちなみにアメリカやカナダでは、鳩を段ボール箱に入れて宅配輸送するのは禁止されている。国土が広いから、東から西まで輸送するのに何日もかかって鳩の命が危うくなるだろうしね。
迷子の鳩って、どのくらいいるんだろうか?
と調べて見つけたのが、この記事。
北海道で放たれた日本のレース鳩(当時1歳)が、なんと7,000キロも離れたカナダの西海岸で発見されたという。飛べないくらい弱ってて、見つかった空軍基地から鳩の保護団体へうつされ、動物病院で寄生虫駆除などの処置をしてもらったり食べ物を与えられたりして回復。足輪から飼い主が判明した。
日本の飼い主さんはビックリしたらしい。まさか太平洋を越えていくなんてね。しかも、一週間以上もほとんど飲まず食わず。ま、途中で輸送船とかに降り立って休憩したんでしょうけども。
飼い主さんは喜んだけど、鳩を日本へ返すにはまた飛行機を乗り継いでの長旅。やっと健康が回復したばかりのこの子に、大変なストレスだ。生きて帰れないかもしれない。ということで、カナダのレース鳩団体に里親になってもらうことにしたらしい。
ところがカナダの検疫は、「ちゃんとした検疫証明書がないから、入国は許可できない」と言って殺処分を決定。えーっ、せっかく大変な思いをして助かったのに。。。役人ってやつはよ。
そこでカナダのレース鳩団体がかけあって、鳩の健康状態が今では良好なことなどを理由に説得し、なんとか殺処分を逃れたのだそうだ。めでたし、めでたし。
ちなみにこの子のお母さん鳩は、同じレースに一緒に出て優勝したとか。とてもいい血統の鳩さんなのね。太平洋を渡るという前代未聞のことを達成したのだし、この鳩の子孫は優秀なレース鳩となることでしょうね。
ポッポちゃんは、羽を一枚のこしていった。
元気でね、ポッポちゃん。また迷ったら、うちでご飯食べてってね。
ポッポちゃんは、夜はどこかに隠れて眠り、昼間はうちの庭で過ごすのが定着したようだ。
私達も、朝食の準備をしながらパティオに目をやり、ポッポちゃんの姿を見つけて「あ、今日も元気で良かった」と安心するのが日課になった。
うちのパティオで朝ゴハンを食べたポッポちゃんは、午前中の気温がまだ高くない間は庭に降りて歩き回り、なにかをついばんだりしている。消化を助けるために砂とか小石とか食べてるのかもしれない。
日差しが強くなってくると、うちのパティオに来て日陰で休みながら庭を眺めている。ペタン、とデッキにお座りしている姿を私は「鳩パンケーキ」と呼んでいるのだが、とっても可愛らしい。
ペットショップでポッポちゃんのために、ヒマワリの種を細かくしたものを買ってきた。あげてみたら、大喜びでパクパク。ポッポちゃんのおちょぼ口だと大きい種は食べにくいみたいだが、こうして小さくしたものだと食べやすいんだろうね。そこで、TABIパパはトウモロコシとかピーナツも叩いて砕いて、一緒に混ぜて餌皿に入れてあげた。
ポッポちゃんのための餌を、裏の森に住むありとあらゆる動物たちが食べにくる。
リス、シマリス、野良の鳩、そして野生の七面鳥まで!
そうした動物たちをポッポちゃんは威嚇することもなく、お行儀よく道をゆずって自分のご飯を盗んでゆく連中を静かに眺めている。なんとおっとりしたお坊ちゃま!いつも自宅では、たっぷりご飯を食べさせてもらってて、ひもじい思いをしたことがないのだろう。
このコは高貴なひとの生まれ変わりかもしれない。
さて、ポッポちゃんのブリーダーさんから電話があり、飼い主さんはうちから車で6時間ほどの場所に住んでいることがわかったという。ちょっと迎えにくるのは大変そうだね。とりあえずポッポちゃんは元気そうだし、すっかり回復すれば自分で時期を見計らって自宅へ向けて飛び立つだろうから、そのまま二、三日置いといてくれないか、と言う。もし週末になっても居続けるようなら、ブリーダーさんの知り合いが我が家の近くにいるので、その人がポッポちゃんを連れて行ってくれるらしい。
そうね、私達もポッポちゃんがいると楽しいけど、やっぱり現役のレース鳩だからそれなりの特別な餌が必要だろうし、おうちに帰ったほうがいいものね。寝るときも、鳩小屋なら外敵から攻撃されることはないし。
どちらにせよポッポちゃんが我が家のお客さまなのは、今週末まで。大好きなヒマワリの種を、たーくさん餌皿に入れてあげた。
迷子の伝書バトは、まだ我が家にお泊りしている。
初日はフラフラしていたので心配したが、だいぶ回復してしっかり立って歩けるようになった。また、屋根くらいの高さなら問題なく飛び立てる。食欲もあり、野鳥用のトウモロコシやピーナッツ、混合餌などをパクパク食べる。
アマゾンの箱はお気に召さなかったらしく、入ってくれない。夜はどこで寝ているのか?このへんは地上は狐が出るし、空中は鷹が狙っているから、裏の森の樹上に隠れて寝ているのかもしれない。
よく見ると、本当に美しい鳥だ。そのへんの野良とは違う気品が漂っている。
「野生の動物を保護したら、名前は決してつけてはいけない。つけると情が移り、いずれ野生に帰すときにつらいから」と言われる。だけど、やっぱり呼び名がないと不便なので、「ポッポ」と命名(笑)
フンのほうは下痢がおさまり、固形っぽくなってきた。助かったよ、ここ3日ほどは三時間おきくらいに医療用手袋をはめ、消毒用ウェットティッシュでデッキについたフンを拭き取ることの繰り返し。鳩のフンは腐食作用があるから、すぐ拭かないと金属の表面なんかすぐ剥げてしまう。
いつまでもうちで世話をするわけにいかないから、野鳥の保護団体に連絡してみたら、「足輪がついている鳩は野鳥ではないので、うちでは手を出せない」と言われてしまった。うーん、むずかしいのね。
そこでネットで調べたところ、足輪がついている鳩はレース競技用鳩だということがわかった。この足輪に、所属団体や飼い主の情報が載っているという。
そこで夫婦でポッポをつかまえ、足元を見てみることにした。
って、これがもう大変。フラフラしてた初日にやれば簡単だったかもしれないが、もう元気になってきたのですぐ逃げてしまう。あきらめて、餌を食べている間にTABIパパがそっと近づいて写真を撮り、拡大することにした。
緑の方には何も書いてないが、オレンジの方は数字やアルファベットが並んでいる。ネット検索すると、この鳩は Canadian Racing Pigeons Union というレース鳩団体に所属していることが判明。
ネットで団体のサイトを検索し、「迷子のレース鳩を見つけたらここへ連絡して」という電話番号にかけてみた。
ところが、応対に出た女性は迷子鳩には全く興味がないとのことで、飼い主の連絡先すらも教えてくれない。まさにけんもほろろの態度。自分とこの団体所属の鳩なのに、あんまりじゃない?
仕方ないのでまたネットで、足輪の情報を入れて検索。すると、別の連絡先が出てきた。そこへかけてみたら男性が出て、飼い主さんかと思ったらなんと、この鳩のブリーダーさん!
この人はとても親切で、いろいろ丁寧に教えてくれた。この鳩は、ブリーダーさんのところからよそへ買われていったとか。ポッポちゃんは、現役のレース鳩なのだった。先週、隣の州でレースが行われたのだが、なにかが原因で迷ってうちへ来てしまったらしい。猛禽類に追われて逃げてるうちに迷ったり、磁場の影響で帰巣本能が狂ったり、いろいろあるみたい。
緑の足輪は、実はICチップが内蔵されており、レースの際にはスタートラインを越えるときにセンサーがチップを読み取り、タイマーがスタートする。フィニッシュラインでは同様にセンサーがチップを読み取り、タイムを計測する。イカサマができないようになっている仕組みなのだそうだ。
レース団体の女性とは両極端で、このおじさんはとても気さくだし、鳩のことを心から気にかけている様子だった。「ピーナツとかあげてるけど、大丈夫かな?」と聞くと、「ああ、あの子はピーナツ大好きだから。野鳥の餌に混ぜて食べさせてね」とか、愛情を感じる。
電話したときブリーダーさんは出先だったので、帰宅してから飼い主の情報など調べて折り返し連絡してくれることになった。
良かったね、ポッポ!
なんとかお家へ帰れそうだよ。