治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
少しでもラクになる方法を考える場です。

原発とグループホーム

2011-07-05 06:05:21 | 日記
昨日ある人と話していてグループホームの現状ってどうなの? ときかれたが
そっち方面に詳しくはない。
ときどき入った(入れた)人の体験談を聴いたり
先進地域と呼ばれるところの支援者の講演会を聴いたりした経験があるだけだ。

でもそう訊かれて、数年前佐々木正美先生が
ノースカロライナのアルバマーレという町にあるGHAというグループホームの方を横浜に連れてこられたことがあり
その講演会のときに色々メモを取ったのを思い出した。
で、PCの中からすくいだしました。

そのときにつくづく思ったのは、福祉の大規模な事業体とは公共事業だということだ。
運営を支えるのは慈悲の精神だけではないし、人権意識だけではない。
地域に恩恵をもたらして、そして地域に受け入れられる。
なんというか、そういう意味において、新幹線の駅を作ったり、原発を作ったりするのとあまり変わりない。
きれいごとではないこの事実を、すぱっと明快に認めるのがいいなあと思った。

そもそもこのアルバマーレという町は、二万人弱の小さな町でありながら
自前の発電所と治水施設を持っているという。
すごいな~、と思った。
たぶんこういう精神が、障害者福祉にもつながっているんだよね。

かなり率直なメモですけど、そのとき浮かんだ疑問をそのまま貼り付けます。
福祉のプロの人たちの参考になるかどうかわかりませんが。

怒る人いそうですが。まあいつものことで。

通貨の単位は円とドルとか混ざってます。そのときのレートで私が勝手に頭の中で換算していたらしいですね。

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1 福祉法人という名の「事業体」について

 GHAがローカルコミュニティで大事にされているのは、1万7千人の町で165人を雇用している貴重な雇用主だという面が大きいのでは? ビデオインタビューの中に出てくる地元の商店の人たちや、YMCAの人、経済担当の役所の人等の発言にも何度もそれが出てくる。GHAの予算は6億円で、そのほとんどをメディケイドが出している。つまり、公的な資金6億円を小さな町にもってきてくれる大事な事業体、一大産業なわけで、大事にされるのはある意味当たり前。6億もってきて、そのうち78%を人件費にあてて地元に雇用を創出し、その人たちがYMCAに入会して泳いだり、地元のダイナーで食事したり、お金をぐるぐる回している。
 GHAが町の雇用数トップ25団体に入っているという表が資料に添付されていたが、トップのほうがいずれも地方自治体が占めていた。要するに、目だった産業がなく、住民のほとんどが大学関係者・医療関係者等で、静かな町。住民向けのサービスが最大の産業のよう。そういうところで国のお金を6億もって来るっていうのは、新幹線を通してくれる地元の議員さんみたいな存在かも。


2 女性の就労と福祉の人材確保について

 役所の経済担当の人の発言によると、GHAが雇用している人数は165人で給与の総額は386万ドル。一人頭280万円。パートの人もいるだろうが、上位職はもっととっているだろうし、まあ大した給料ではない。そのせいとは言わなかったけど、95%の職員が女性だという。アメリカでは女性がcare-takerとみなされているからという理由と、いい環境を用意しているので男性が力で抑えつけなければいけない強度行動障害がないからという説明があった。
 私がアメリカの女性に感じるのは、ある意味就業が「義務」とされていることだ。日本の女性にとって働くかどうかはたぶんに「選択」の問題である。さほど家計に余裕のない家でも、おかあさんは専業主婦で家計を切り詰め、お父さんは一日あたりのお小遣いを渡されるなんてのはざら。それでも日本のお父さんは怒らない。アメリカでは妻が働かず夫婦が余裕のある生活を享受できないと、夫が妻に就業を迫ったり離婚を迫ったりする例も見ている。とくに米国人と結婚した日本人女性は、よくこの件でもめているらしい。
 アメリカは女性が働かなければいけないという意識が強い→その分の雇用を創出する必要がある→そのためには公共事業をやらなくてはいけない→障害者の支援なども進む、のではないだろうか。日本は女性が働かなくていい代わりに、障害者や高齢者などふつうより手がかかる人は家で面倒みてね、っていう社会システムになってきたのではないだろうか。

3 税金のシステムについて

 ドーンさんは何度も「quality resource」が大事だと言っていた。そして、これはビジネスですとはっきり言っていた。メディケイドをもらえる代わりに、アメリカ政府の要求するaccountabilityは相当厳しい。専従を何人か置かないと無理だろう。
 日本の個人による寄付金は2000億、アメリカは22兆だという。ただしアメリカではdonationが税控除されるので、わけのわからないことに使われる税金を払うよりは自分の応援したい団体に送るのは自然な流れだと思う。日本もそうなればいいと思うが、一方で考慮に入れなければならないことは、donationによる税控除が増えればその分税収が減るということだ。

4 うらやましがり癖等について

 質問コーナーで、アスペルガーや高機能が(精神障害以外の)手帳をもらえないという問題が(また)論議されていた。それに対してGHAの人たちは、アメリカでは(NCでは)自閉症スペクトラムの診断が下れば公的支援の対象になると言っていた。質問した親御さんはそれをうらやましいと言っていた。もちろん、相当せっぱつまってのことだろうが、アスペルガーや高機能が手帳の対象にならないというのは日本の人権意識の問題ではないと思う。障害だという認識が十分されていないからだと思う。知識の欠如を人権意識の欠如ととらえて無駄にうらやましがっている親御さんは多いような気がしている。もちろん切羽詰ってのことだと思うが。
 あと、GHAのようなグループホームに入るのに自己負担はあるのかという質問が出ていた。この質問をした人には成人になったアスペルガーの息子がいる。大学在学中に診断がついたという。そして卒業後は就職せずグループホームに入ったという。その費用は市からの援助と障害者年金でまかなっているという。それに対してGHAの人のこたえは「全額メディケイドから出ます」だった。そして質問者はうらやましがっていた。
 納税者・一般市民から見ると、これはちょっとヘンだ。メディケイドだろうが障害者年金+市からの補助金だろうが、公金は公金。いわば、一般市民からの血税。実質同じように見える。もちろん支援法のからみもあって自己負担に敏感になっているのだろうが、障害者年金や市からの補助金はありがたくないということなのだろうか?
 講演会全体を通して、GHA側が何度も「これは事業です」という強調をしていたのに対し、そしてビデオに出てくるローカルコミュニティの人たちが「貴重な産業である」「雇用主である」と再三言っていたにもかかわらず、聞いているほうに「なるほど感」が驚くほどなかった。佐々木先生は横浜でもこういう動きを起こせるのではとencourageしていらっしゃったが、どこまでその声が届いただろうか。ただグループホームという形を作ることだけしか見ていないのではないだろうか。大都市の問題は、6億もってきて平均賃金200万円代で165人雇用してもさほど貴重な事業体だとはみなされないことだ。
 途中でうらやましがりのお父さんが一人立ち上がり、「日米の福祉予算がこんなにちがうとは!」と叫んでいた。私の計算だと6億で55人のレジデンスの面倒+デイケアを見ているということは、むしろ日本の現状より安上がりだと思った。そしてGHAの人たちが「州がやるより安上がりよ」というのをセールストークにしていると聞いて納得していたので、そのお父さんの激昂の仕方がわからなかったが、結局そのお父さんは桁を一つ間違えていたと後で自己申告していた。
 日本の親はどうしてこうもうらやましがりなのだろう。アメリカに対してだけではなく、佐賀だとか横浜だとか、国内同士でもとにかくうらやましがる。どこも先人たちの努力があってようやく今がある。アスペの成人男性に、どこの自治体でもグループホームに実質無料で入れる補助金をくれるわけではないだろう。
 福祉を事業としてとらえ「私たちのほうが安上がり」という交渉ができるようになれば、それは強いと思う。

5 公的年金や老後の保障が貧困なアメリカでなぜ障害者福祉が確保されているか?

 これは実は佐々木先生にきいてみたかった。医療や年金の面で、日本は今のところアメリカよりずっといい。そして比較的公平なシステムがある。国民皆保険があるし、救急車は無料で来るし、保険証をもっていけばどこの病院でも原則は受け入れてくれる。アメリカのように保険が民間で病院が保険を選んだりしないし、ガンになったら破産する必要も無い。介護保険もスタートした。
 社会保障が乏しい、「小さな政府」のアメリカで、どうして障害者支援だけが手厚いのだろう。これはつねに疑問だ。
 一つの答えは、やはり女性が就業することにあるのではないかという気がする。つまり、障害者福祉を産業としてとらえているということだ。
 この疑問はずっと追っていきたいし、いろいろな人の考えを聞きたい。