孝震恐、召太尉曰、將奈何。太尉曰無傷也。請辭於軍。孝使數十人從太尉。太尉盡辭去、解佩刀、選老躄者一人持馬、至晞門下。甲者出。太尉笑且入曰、殺一老卒何甲也。吾載吾頭來矣。甲者愕。因諭曰、尚書固負若屬耶。副元帥固負若屬耶。奈何欲以亂敗郭氏。爲白尚書、出聽我言。
晞出見太尉。太尉曰、副元帥勲塞天地、當務始終。今尚書恣卒爲暴、暴且亂。亂天子邊、欲誰歸罪。罪且及副元帥。今邠人惡子弟、以貨竄名軍籍中、殺害人。如是不止、幾日不大亂。大亂由尚書出、人皆曰、尚書倚副元帥不戢士。然則郭氏功名、其與存者幾何。言未畢、晞再拜曰、公幸教晞以道。恩甚大。願奉軍以從。顧叱左右曰、皆解甲散還火伍中。敢譁者死。太尉曰、吾未哺食。請假設草具。既食曰、吾疾作。願留宿門下。命持馬者去旦日來、遂臥軍中。晞不解衣、戒候卒、撃柝衞太尉。旦倶至孝所、謝不能、請改過。邠州由是無禍。
孝徳震恐(しんきょう)す。太尉を召して曰く「将に奈何(いかん)せんとす」と。太尉曰く「傷(いた)むこと無きなり。請う軍に辞せん」と。孝徳数十人をして太尉に従わしむ。太尉尽く辞し去り、佩刀を解き、老躄(ろうへき)なる者一人を選んで馬を持せしめ、晞の門下に至る。甲者出ず。太尉笑い且つ入りて曰く「一老卒を殺すに何ぞ甲するや。吾、吾が頭を戴いて来たれり」と。甲者驚く。因りて諭して曰く「尚書固(まこと)に若(なんじ)が属に負(そむ)くか。奈何(いかん)ぞ以って郭氏を乱敗せんと欲する。為に尚書に白(もう)せ、出でて我が言を聴け」と。
晞出でて太尉を見る。太尉曰く「副元帥の勲は天地を塞ぐ。当(まさ)に始終を務むべし。今尚書卒を恣(ほしいまま)にして暴を為し、暴にして且つ乱れんとす。天子の辺を乱さば、誰にか罪を帰せんと欲する。罪且(まさ)に副元帥に及ばんとす。今邠人の悪子弟、貨を以って名を軍籍の中に竄(かく)して、人を殺害す。是の如くにして止まずんば、幾日か大いに乱れざらん。大乱尚書より出ずれば、人皆曰わん「尚書は副元帥を倚(たの)みて士を戢(おさ)めず」と。然らば則ち郭氏の功名、その与(ため)に存するもの幾何(いくばく)ぞ」と。言未だ畢(おわ)らざるに、晞再拝して曰く「公幸いに晞に教うるに道を以ってす。恩甚だ大なり。願わくは軍を奉じて以って従わん」と。顧みて左右を叱(しっ)して曰く「皆甲を解いて散じて火伍(かご)の中に還れ。敢えて譁(さわ)ぐ者は死せん」と。太尉曰く「吾未だ哺食(ほしょく)せず。請う仮に草具を設けんことを」と。
既に食して曰く「吾疾(やまい)作(おこ)れり。願わくは門下に留宿せん」と。馬を持する者に、去って旦日(たんじつ)に来れと命じ、遂に軍中に臥す。晞、衣を解かず、候卒を戒め、柝(たく)を撃ちて太尉を衛(まも)る。旦(あした)に倶(とも)に孝徳の所に至り、不能を謝し、過ちを改めんと請う。邠州是に由って禍い無し。
辞 説明すること。 老躄 老いて足の悪い兵。 甲者 武装した兵士。 属 仲間。 倚 たのむ。 戢 おさめる。 火伍 火は十人伍は五人 小部隊。 哺食 哺は含む。 草具 粗末な食事。 候卒 候は見張り。 柝 拍子木。
白孝徳は震え上がって太尉を呼びつけ「どうするつもりだ」と言った。太尉は「心配いりません。どうか私に軍に出向き説明させてください」と言った。白孝徳は数十人を選び太尉に付けた。太尉はこれを断り、刀をはずして足の悪い老卒一人に馬を引かせ郭晞の城門の下にやって来た。武装した兵が出てくると、笑いながら門をくぐって言った「老兵一人を殺すに何でものものしく武装する。わたしは自分の頭をこうして載せてきた」と。兵卒は驚いた。それで太尉は言い聞かせた「郭尚書は本当にそなた達の仲間にそむく事をしたのか。父の副元帥は本当にそなた達の仲間にそむく事をしたのか。どうして郭家を混乱させ不名誉なことをしようとするのか。尚書に取り次いでくれ、私の言うことに耳を傾けてくれと」
郭晞は出てきて太尉を見た。太尉は言った「副元帥の勲功は天地を覆うほど大きい。名誉は全うされなければなりません。今尚書は兵卒を放縦にし、乱暴狼藉を働き、反乱にまで発展しようとしています。天子の治める周辺に異変が起こった場合一体誰が責任をとるのでしょうか、遂には副元帥に及ぶことでしょう。今や邠人の悪党どもは、お金を遣って軍中に隠れ、遂に人まで殺害した。このまま放っておけば遂には大乱になることでしょう。この大乱が尚書閣下より起こるとすれば皆はなんと言うでしょう。尚書は副元帥の威光のもとに兵士を治められなかったと。そうとすれば郭氏の功名、すぐにも危ういものになりましょう」と。
太尉の言葉が終らぬうちに郭晞は拝礼して言った「貴公は幸い私に道義を以って教示してくれた。この恩は甚だ大きい。全軍貴公の言を奉じて以って従いましょう」左右の者を叱って言った「皆武装を解いて小隊に還れ。それでも騒ぐ者は命が無いと思え」と。太尉は「私は未だ食事をしていません。できれば簡単な食事を用意していただけたら有り難い」と言った。既に食事を終って「どうも体調がよろしくない、できれば門の下にでも寝かせて欲しい」と言い、馬を引く者に、明朝また来るように命じ、遂に軍中に臥す。郭晞は、衣を解かず、見張りの兵卒を戒め、拍子木を打って太尉の護衛を厳重にした。朝になり共に孝徳の所に出向き、不始末を謝し、過ちを改めることを請約した。邠州は太尉の働きによって事なきを得た。
晞出見太尉。太尉曰、副元帥勲塞天地、當務始終。今尚書恣卒爲暴、暴且亂。亂天子邊、欲誰歸罪。罪且及副元帥。今邠人惡子弟、以貨竄名軍籍中、殺害人。如是不止、幾日不大亂。大亂由尚書出、人皆曰、尚書倚副元帥不戢士。然則郭氏功名、其與存者幾何。言未畢、晞再拜曰、公幸教晞以道。恩甚大。願奉軍以從。顧叱左右曰、皆解甲散還火伍中。敢譁者死。太尉曰、吾未哺食。請假設草具。既食曰、吾疾作。願留宿門下。命持馬者去旦日來、遂臥軍中。晞不解衣、戒候卒、撃柝衞太尉。旦倶至孝所、謝不能、請改過。邠州由是無禍。
孝徳震恐(しんきょう)す。太尉を召して曰く「将に奈何(いかん)せんとす」と。太尉曰く「傷(いた)むこと無きなり。請う軍に辞せん」と。孝徳数十人をして太尉に従わしむ。太尉尽く辞し去り、佩刀を解き、老躄(ろうへき)なる者一人を選んで馬を持せしめ、晞の門下に至る。甲者出ず。太尉笑い且つ入りて曰く「一老卒を殺すに何ぞ甲するや。吾、吾が頭を戴いて来たれり」と。甲者驚く。因りて諭して曰く「尚書固(まこと)に若(なんじ)が属に負(そむ)くか。奈何(いかん)ぞ以って郭氏を乱敗せんと欲する。為に尚書に白(もう)せ、出でて我が言を聴け」と。
晞出でて太尉を見る。太尉曰く「副元帥の勲は天地を塞ぐ。当(まさ)に始終を務むべし。今尚書卒を恣(ほしいまま)にして暴を為し、暴にして且つ乱れんとす。天子の辺を乱さば、誰にか罪を帰せんと欲する。罪且(まさ)に副元帥に及ばんとす。今邠人の悪子弟、貨を以って名を軍籍の中に竄(かく)して、人を殺害す。是の如くにして止まずんば、幾日か大いに乱れざらん。大乱尚書より出ずれば、人皆曰わん「尚書は副元帥を倚(たの)みて士を戢(おさ)めず」と。然らば則ち郭氏の功名、その与(ため)に存するもの幾何(いくばく)ぞ」と。言未だ畢(おわ)らざるに、晞再拝して曰く「公幸いに晞に教うるに道を以ってす。恩甚だ大なり。願わくは軍を奉じて以って従わん」と。顧みて左右を叱(しっ)して曰く「皆甲を解いて散じて火伍(かご)の中に還れ。敢えて譁(さわ)ぐ者は死せん」と。太尉曰く「吾未だ哺食(ほしょく)せず。請う仮に草具を設けんことを」と。
既に食して曰く「吾疾(やまい)作(おこ)れり。願わくは門下に留宿せん」と。馬を持する者に、去って旦日(たんじつ)に来れと命じ、遂に軍中に臥す。晞、衣を解かず、候卒を戒め、柝(たく)を撃ちて太尉を衛(まも)る。旦(あした)に倶(とも)に孝徳の所に至り、不能を謝し、過ちを改めんと請う。邠州是に由って禍い無し。
辞 説明すること。 老躄 老いて足の悪い兵。 甲者 武装した兵士。 属 仲間。 倚 たのむ。 戢 おさめる。 火伍 火は十人伍は五人 小部隊。 哺食 哺は含む。 草具 粗末な食事。 候卒 候は見張り。 柝 拍子木。
白孝徳は震え上がって太尉を呼びつけ「どうするつもりだ」と言った。太尉は「心配いりません。どうか私に軍に出向き説明させてください」と言った。白孝徳は数十人を選び太尉に付けた。太尉はこれを断り、刀をはずして足の悪い老卒一人に馬を引かせ郭晞の城門の下にやって来た。武装した兵が出てくると、笑いながら門をくぐって言った「老兵一人を殺すに何でものものしく武装する。わたしは自分の頭をこうして載せてきた」と。兵卒は驚いた。それで太尉は言い聞かせた「郭尚書は本当にそなた達の仲間にそむく事をしたのか。父の副元帥は本当にそなた達の仲間にそむく事をしたのか。どうして郭家を混乱させ不名誉なことをしようとするのか。尚書に取り次いでくれ、私の言うことに耳を傾けてくれと」
郭晞は出てきて太尉を見た。太尉は言った「副元帥の勲功は天地を覆うほど大きい。名誉は全うされなければなりません。今尚書は兵卒を放縦にし、乱暴狼藉を働き、反乱にまで発展しようとしています。天子の治める周辺に異変が起こった場合一体誰が責任をとるのでしょうか、遂には副元帥に及ぶことでしょう。今や邠人の悪党どもは、お金を遣って軍中に隠れ、遂に人まで殺害した。このまま放っておけば遂には大乱になることでしょう。この大乱が尚書閣下より起こるとすれば皆はなんと言うでしょう。尚書は副元帥の威光のもとに兵士を治められなかったと。そうとすれば郭氏の功名、すぐにも危ういものになりましょう」と。
太尉の言葉が終らぬうちに郭晞は拝礼して言った「貴公は幸い私に道義を以って教示してくれた。この恩は甚だ大きい。全軍貴公の言を奉じて以って従いましょう」左右の者を叱って言った「皆武装を解いて小隊に還れ。それでも騒ぐ者は命が無いと思え」と。太尉は「私は未だ食事をしていません。できれば簡単な食事を用意していただけたら有り難い」と言った。既に食事を終って「どうも体調がよろしくない、できれば門の下にでも寝かせて欲しい」と言い、馬を引く者に、明朝また来るように命じ、遂に軍中に臥す。郭晞は、衣を解かず、見張りの兵卒を戒め、拍子木を打って太尉の護衛を厳重にした。朝になり共に孝徳の所に出向き、不始末を謝し、過ちを改めることを請約した。邠州は太尉の働きによって事なきを得た。
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