先日、図書館の本棚で
たまたま見つけて反射的に手に取った。
中学生の頃に読んでずっと心に突き刺さったままの本だった。
まだ15歳の私には衝撃的すぎる本だった。
北條民雄の名作「いのちの初夜」である。
さほど読書好きでもなかったボンクラ中学生が
この本を手に取ったのは多分に性的興味からだったと思う。(笑)
ところがそこに書かれている内容は
人間の凄まじいばかりの「醜さ」であり「悲しみ」であり
世の中にはこれほど絶望的な「業の病」があるのかという驚きであった。
この短編小説を読んで感動した作家・川端康成が
自ら「いのちの初夜」のタイトルを贈ったという話はずっと後になって知った。
北條民雄の体験に基づく私小説である。
主人公の尾田高雄はハンセン病の宣告を受けた23歳の青年である。
この小説が書かれた当時(昭和11年)は
ハンセン病は「癩(らい病」と呼ばれる慢性の伝染病で
有効な治療方法のない不治の病であった。
末梢神経や皮膚が冒され、知覚麻痺や神経痛、手足の変形など
さまざまな症状に苦しみながら死に至る。
郊外の療養所に強制的に収容された尾田は恐怖と絶望の中で
何度も自殺を試みるが死にきれない。
政府によるこの誤った「隔離政策」が後にさまざまな偏見と差別を生み出し
ハンセン病患者の迫害を招いたのはご存じの通りである。
治療法が確立し新規患者がゼロになった今も
その差別は連綿として続いている。
ハンセン病と言えば・・・
どうしても映画「砂の器」を思い出してしまう。
癩(らい)病に冒された父親とともに世間から身を隠すように
お遍路姿で放浪生活を続ける少年。
この忌まわしい過去を知られたくない一心から
世界的な名声を得た音楽家・和賀英良は殺人に手を染めてしまう。
そんな彼が逮捕を前に発表した新曲が
美しくも哀しい旋律で謳いあげる交響曲「宿命」だった。
日本映画を代表する名作だが
その背景にあるハンセン病者たちの苦難をあらためて思ってしまう。
人間はどんなことがあっても生き続ける「宿命」にある。
そんなメツセージがこめられた小説も映画も
ぜひ今の若い人たちにも触れて欲しいと思うのである。