一度に２つはできない

　子どもたちの姿をよりよくしたいと思うと子どもたちに伝えたいことがたくさん見つかる。そして、子どもの前で話す機会があるとついつい一度に多くのことを話してしまう。しかし、話を聞いて、心に残ることはせいぜい２つか３つ。それ以上は無理。そして、実際にその中の１つでも行動できればいい方だ。
　だから、いくつも話しても子どもには通じない。（ひょっとすると大人にも当てはまるかもしれない。）そのため、子どもたちは、話が長くなる先生を嫌う。
　次から次へと自分の思いを伝えようとしても、受け皿が小さければ受け取れない。子どもに過度な期待をしても無理。できれば、１つに絞り込んだ話がよい。
　一瞬一瞬を見ていると私たちは一度に２つのことはしていない。いくつか行動する場合でも順番を決めて、順番に行ったり交互に行ったりして必ず一度は１つのことをしているだけだ。子どもが相手だとそれが顕著にわかる。「ああ、分かっていないな。」と思える姿が行動として現れる。子どもは受け取るにもかなりのエネルギーを使う。まして、複数の内容を子どもに受け取れという方が無理。
　丁寧に１つ話して、理解を求め、次に進む。この丁寧さが分かりやすさにつながる。
　１つの機会に１つの話と決めると子どもは分かりやすい。逆に話す側としては辛い。いくつも話したいのに話せないからだ。ここが大きなポイント。つまり、一番伝えたいことは何かを自分で判断して話さなければならなくなるからだ。じっくり考えてから話さなければならない。言葉を選んで話さなければならない。これも繰り返して身に付く。子どもの姿に即反応して言葉を子どもにぶつけているうちはできない。話す前に一瞬立ち止まって「待てよ。これでいいか？」と空白を作ると言葉を選ぶことができる。精選した言葉を使えるようになると子どもの動きもはっきりしてくる。子どもたちの動きが揃うようになる。聞かない子どもが悪いと責めても無理。聞ける子どもには感謝したいほどだ。
　私たちは子ども以上に繰り返し話し、話すことに慣れてきた。そんな私たちがあたかも同じ経験をしてきたかのように子どもに向かって話すとしたらこれは横柄な態度だと思う。まだまだ経験不足の子どもたち。子どもたちに経験させるつもりで、１つ１つ丁寧に言葉を投げかけたい。