思惟石

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『塩を食う女たち』 パワー系インタビュー本

2022-12-07 15:51:44 | 日記
『塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性』
藤本和子

著者の藤本さんは、結婚してアメリカで暮らしている翻訳家。
1980年前後アメリカ国内に暮らす黒人女性たちへ取材した
聞き書きのまとめが本書。

「黒人」であり「女性」である彼女たちの生き方を
インタビューした内容そのままに近い状態でまとめています。

初版は1982年。
実際に取材を行ったのはそれ以前なので、
アメリカの社会は変化していると思うけれど、
世事に疎い私には新鮮な衝撃と学びのある本だった。

アトランタ在住104歳のアニーおばあちゃんは、
祖母の奴隷解放宣言(1863年)の経験を語る。
19世紀が地続きのインタビューは、とにかく強い。

彼女たちの声には、いわゆる女々しさが全然なくて
(むしろ男たちより力強いものを感じる)、
いろんな角度から心を打たれる。

著者は学者さんでもないし、聞き書きというスタンスでいるので、
総論みたいなものは無く、わかりやすい結論もないのだけれど
荒削りで強い本だと思う。
ファクトでぶん殴られる感じと言いますか。
めちゃパワー系文学笑

不思議なタイトルの『塩を食う女たち』は、
トニ・ケイド・バンバーラの長編小説のオマージュだそうです。
以下、引用。

塩にたとえられるべき辛苦を経験するものたちのことであると同時に、
塩を食べて傷を癒すものたちでもある。
「蛇の毒」は塩を食って中和する。
「蛇の毒」は黒人を差別し抑圧する社会の毒である。


ちなみに「ゲットー」という言葉が普通に使われていて、
私はナチスの強制収用所のイメージしかなかったので戸惑った。
アメリカの大都市(ニューヨーク、サンフランシスコ)における
黒人密集居住地域を指しているらしい
(言葉としては、マイノリティの密集居住地域を指すので、
黒人居住区という意味ではない)。

他にも現代日本に暮らしていると分かりにくい単語はあったので、
2018年刊行の岩波現代文庫版では
注釈をつけても良かったんじゃなかろうか。
ちょっともったいない。
コメント
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