思惟石

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ループもののパイオニア『リプレイ』ケン・グリムウッド

2017-11-16 12:37:44 | 日記
SFやファンタジーによくありますね、「ループもの」。

元をただすと『ファウスト』にも見られるように
かなり古くからある設定らしいのですが、
1987年出版のケン・グリムウッド『リプレイ』の世界的ヒットが
「ループもの」設定が一般化したきっかけなのだとか。

この小説は、主人公のジェフが
1988年10月18日に43歳で死ぬところから始まり、
大学生から人生をやり直す。何度も。
というお話し。

ループの仕組みとか理屈付けはありません。
最近だと同設定作品の飽和からか、
そういう説明も求められがちですよね。
そこは先駆けの特権ということで。

1回目のリプレイでジェフがやったことは、
賭けや投資による財産づくりでした。
オリジナルの歴史にはない大企業をつくり、
ついでにケネディ暗殺も防ごうとする。
(何らかの力で防げないけれど)

ここらへんを読んでいるときに思ったのは、
外的な影響や変化を求める感じが男臭いなあ…ということ。

ジェフは、オリジナルの人生では夫婦仲も冷めている
うだつのあがらないラジオ番組ディレクター。

「違う人生をリスタートできるチャンス」
と捉えて、やることが、未来の記憶を活かしたお金づくり。
そこに努力とか学習とか成長とか無用なわけです。
大会社つくっても、自分の部屋で小説読んだりして時間を潰してるだけ。
で、折を見て投資の指示だしをする。

…楽しいのか?

以降のリプレイでは愛や心の平穏を求めたり
内的思索にふけったり、現状の打開に努めたり、
ループするごとにジェフが人として深まる過程が
この物語の軸でもあるんですが。

前半の「ジェフ君、そう生きるかあ…」という感じが
私との性別の違いなのか性格の違いなのかわかりませんが、
なんか酒飲んで絡んでやりたいわ、と思った次第。

3回目のリプレイでジェフは同じ境遇の女性パメラに出会います。
彼女はオリジナルで平凡な主婦として生き、
最初のリプレイでは「自分を変える」ことを目的として
勉強をやり直して女医になります。
その次に、何度も繰り返されると悟って勉強への意欲を削がれても、
芸術方面や自己表現に取り組んだりして
「自分」が「どう生きるか」を考えるというか。
読んでいて、私はこちらの姿勢に共感を覚えました。
(まあ、映画で民衆を啓蒙する、というのは
違うんじゃないかなと思ったけど)

もうひとつ小説を読んでいて考えさせられたのが、
前人生と同じ存在は得られるのか、ということ。
ジェフは1回目のリプレイで愛情のない結婚をしたのだけど、
そこで生まれた娘のことは溺愛していたんですね。
で、また43歳で死んで振り出しに戻るわけです。
その絶望は恐ろしいよなと思って震えました。

次の人生でも娘に会いたいと思ったらどうすればいいんだろう、
と、私は考えこんでしまったんです。

そのためには、前回の人生をすべて
なぞらなければいけないのかなと。
愛情を感じられない妻との出会いと結婚から
繰り返さなければならないのか。
もしかして、それ以前に付き合ったしょーもない女とも
もう一回付き合わなければならないのか、とか。
数十年という長い歳月を細心の注意を払って生きても、
たぶん、すべてが同一にはなり得ない。
生まれるこどもは女の子ではないかもしれない。
愛した娘そのものと完全に一致する人間ではないかもしれない。

そこまで考えたら、絶望でくらくらしました。

実際の小説では、ジェフは2回目のリプレイで
私の妄想とはまったく違う生き方を選ぶんですけどね。

お前とは気が合わないな!!!

というわけであまり共感できない性格のジェフ君でしたが、
人生を繰り返すということの苦悩や
それでもなお選択をして生きるということや
人との付き合い方や、ついでに10代の不自由さやら、
いろいろと面白く読みました。

「よくある設定」と言いつつ、
あまりファンタジーものを読まないので
新鮮だったのかもしれないけど。
良い読書時間でした。
コメント
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