Sightsong

自縄自縛日記

済州島四・三事件の慰霊碑と写真展

2018-04-23 00:18:10 | 韓国・朝鮮

済州島の南部の海岸あたりで、昼食を取ろうとてくてく歩いていると、突然、道端に四・三事件の慰霊碑が現れた。安徳面(面は行政区分のひとつの呼び方)という地域の犠牲者を慰霊する碑なのだった。裏側には犠牲者の方々の名前がびっしりと彫られている。

当時、アメリカ・韓国警察は済州島の住民の多くをパルゲンイ(アカ)だとみなし、焦土化作戦として海岸線から5kmより内陸に居るすべての者を「害虫」だとして、多くの住民を虐殺した。しかし、海岸に近いこの地でも犠牲者が多かったということになる。あるいは韓国のみの選挙への反対運動のために出ていった人たちも入っているのかもしれない。

慰霊碑建立に伴う言葉が隣の石に掘られている。韓国語ができる友人に送って大意を訳してもらった。そこには、盧武鉉大統領(当時)が2003年になって史実を認め謝罪したことに加え、こんなことが書かれている。犠牲者は共産主義の何たるかを知らず、白も黒もわからず、それなのに殺されたのだ、と。それでは共産主義者であり、確固とした思想を持っていたとしたらどうなのか。このあたりが、かつて「アカ」と言われることが死を意味した戦後韓国社会だからこそのように思えた。

この2日後に、済州市(島の北部)の済州文芸会館で開かれていた四・三事件の写真展を観た。70周年を記念したものであり、講演なども行われているようだった。

そこに行くつもりだとタクシーの運転手さんに話したところ、こんなことを言ってくれた。四・三事件についてはいろいろな説がある。きっかけが韓国の警察側であったという人、あるいは、金徳三(「暴徒の主導者」と位置付けられている)が口火を切ったのだという人。複雑だからいろいろと勉強しないとね、と。

昨年(2017年)に開かれた「済州島四・三事件69周年追悼の集い」によれば、四・三平和公園(今回は行けなかった)には被害者1万4200人ほどの名前が刻まれた位牌が祀られている。しかし、その金徳三の名前は入っていないのだという。安徳面の慰霊碑についても、そのような線引きと無関係ではないのかもしれない。

写真展は2つの展示室に分けられていた。最初の部屋には、山中でとらえられた人たちや、連行されて集められた人たちの姿がある。遺骨の写真もあるがちょっと正視できない。処刑されている人は、上の金徳三と同様に「暴徒の主導者」たる李徳九であった。第2の部屋に展示されている写真は、生き残った体験者たちの姿。ひどい後遺症が残った人もいる。また、毎年行われているシャーマンたちによる慰霊行事の様子もあった。

韓国では、2008年に李明博政権が発足してから四・三事件への視線が歴史修正主義的なものに歪んでいったという(いまの「犠牲者」の中にもパルゲンイがいるとの攻撃)。朴槿恵政権を経てふたたびリベラルの文在寅が大統領になったことは、少なくとも、四・三事件の真相究明に向けては良いことだったのだろう。

Nikon P7800

●参照
済州島の平和博物館
済州島四・三事件69周年追悼の集い〜講演とコンサートの夕べ
『済州島四・三事件 記憶と真実』、『悲劇の島チェジュ』
オ・ミヨル『チスル』、済州島四・三事件、金石範
文京洙『済州島四・三事件』
文京洙『新・韓国現代史』
金石範、金時鐘『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか 済州島四・三事件の記憶と文学』
金石範講演会「文学の闘争/闘争の文学」
金石範『万徳幽霊奇譚・詐欺師』 済州島のフォークロア
金石範『新編「在日」の思想』
水野直樹・文京洙『在日朝鮮人 歴史と現在』
済州島四・三事件と江汀海軍基地問題 入門編
金時鐘講演会「日本と朝鮮のはざまで」
金時鐘『朝鮮と日本に生きる』

金時鐘『境界の詩 猪飼野詩集/光州詩片』
細見和之『ディアスポラを生きる詩人 金時鐘』
『海鳴りの果てに~言葉・祈り・死者たち~』
『海鳴りのなかを~詩人・金時鐘の60年』
梁石日『魂の流れゆく果て』
(屋台時代の金石範)
仲里効『悲しき亜言語帯』(金時鐘への言及)
林海象『大阪ラブ&ソウル』(済州島をルーツとする鶴橋の男の物語)
金賛汀『異邦人は君ヶ代丸に乗って』(済州島から大阪への流れ)
藤田綾子『大阪「鶴橋」物語』
鶴橋でホルモン(与太話)
三河島コリアンタウンの伽耶とママチキン
尹東柱『空と風と星と詩』(金時鐘による翻訳)
『越境広場』創刊0号(丸川哲史による済州島への旅)
徐京植、高橋哲哉、韓洪九『フクシマ以後の思想をもとめて』(済州島での対談)
新崎盛暉『沖縄現代史』、シンポジウム『アジアの中で沖縄現代史を問い直す』(沖縄と済州島)
宮里一夫『沖縄「韓国レポート」』(沖縄と済州島)
長島と祝島(2) 練塀の島、祝島(祝島と済州島)
野村進『コリアン世界の旅』(つげ義春『李さん一家』の妻は済州島出身との指摘)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(「Nostalgia for Che-ju Island」)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』(「Nostalgia for Che-ju Island」)
吉増剛造「盲いた黄金の庭」、「まず、木浦Cineをみながら、韓の国とCheju-doのこと」
「岡谷神社学」の2冊


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。