Sightsong

自縄自縛日記

メリッサ・アルダナ@Birdland

2017-09-13 23:45:56 | アヴァンギャルド・ジャズ

Birdlandには23時からのステージがあり、まだ間に合うと急いで行った(2017/9/12)。メリッサ・アルダナがプレイしており、ちょっと聴きたかった。

Melissa Aldana (ts)
Philip Dizack (tp)
Sam Harris (p)
Pablo Menares (b)
Tommy Crane (ds)

ひとことで言えば期待外れ。

確かにアルダナのトーンはダークでとてもいいし、ベンドして周波数に濃淡を付けた演奏「Ask Me Now」は良かった(これだけベース、ドラムスとのトリオ)。

しかし終始それであり、突破力がなく、(トリオだったらまだしも)イケメンの毒にも薬にもならないトランぺッターと一緒に吹いては面白さも何もあったものではない。アンブローズ・アキンムシーレのグループでも弾いているサム・ハリスのピアノは上品で悪くなかったが、このしょうもないサウンドの刺激剤にはならない。

つまらないのでビールをお代わりし、梨のコンポートを食べた。

Nikon P7800

●メリッサ・アルダナ
メリッサ・アルダナ『Back Home』(2015年)

●サム・ハリス
アンブローズ・アキンムシーレ『A Rift in Decorum: Live at the Village Vanguard』
(2017年)
アンブローズ・アキンムシーレ『The Imagined Savior is Far Easier to Paint』(2014年)
ルディ・ロイストン『303』(2013年)


マーク・ドレッサー7@The Stone

2017-09-13 22:15:38 | アヴァンギャルド・ジャズ

The Stoneにおいてマーク・ドレッサーのレジデンシー。初日の「Mark Dresser 7」に足を運んだ(2017/9/12)。

2日前にクレイグ・テイボーンのソロピアノで行列が出来ていたので、警戒して1時間前に行ったところ2番目だった。

Nicole Mitchell (flutes)
Marty Ehrlich (cl, bcl)
David Morales Boroff (vln)
Michael Dessen (tb)
Joshua White (p)
Jim Black (ds)
Mark Dresser (b, compositions)

最初は変なタイトルの「Hobby Lobby Horse」。静かなイントロから、ドレッサーが弦を叩くのを合図として有機的につながりはじめた。アンサンブルは実にユニークかつ巧妙であり、ユニゾンやソロの合間にベースの示す方向性が浮かび上がる。ニコール・ミッチェルのフルートは話しているようだ。マーティ・アーリックのクラ、デイヴィッド・モラレスのヴァイオリン、マイケル・デッセンのトロンボーン、ジョシュア・ホワイトのピアノとソロが続いた。しかし単純なソロ回しなどではなく、各人は大胆な方針のもと入ってくる。ジム・ブラックのガジェット的なドラムスが走った。

次に「Sedimental」。息を吹き込む楽器の面々はみんなグロウル、そのうち断片が蝶のように軽やかに集まりサウンドを形成していった。トロンボーン、ピアノ、ドラムス、ここにフルートなどが入ってくる。ドレッサーのベースソロになると、左右の手のコンビネーションがまるで雅楽のように響いた。かれの音は実に明確に分割されており、弦の音のあとに胴体の音がやってくるような感覚をもった。ブラックがタオル2本で叩きはじめた。

3曲目は「TrumpinPutinStoopin」(聴いたときには「Trumpet Stupid」かと思った。あとでCDの曲目を確認したら1曲目から同じ順だった)。ミュートを使ったトロンボーンから始まり、ベースとドラムスとがリズムを明確に刻むように入り、そして全員が入った。アンサンブルのあとピアノトリオとなり、ブラックの一音一音がばちんばちんと痛い感じで面白く響く。ここから各人が同じような旋律のフラグメンツを創出し、アーリックのバスクラ、フルート、ヴァイオリンが加わった。ベースソロを経てまた全員でのアンサンブル。本当に巧妙でうっとりさせられる。

4曲目は「Well Well (for Ruswell Rudd)」。全員で哀切な旋律を奏でる。ピアノが静かにソロを弾き、ドレッサーが見事に美しい弓弾きをみせた。ここでもドレッサーの音はまったく濁らない。かれが弓から指弾きへと変えて、全員が入った。ミッチェルのフルートはとてもよく鳴り、アーリックのクラとの対比が鮮やかだった。ブラックはブラシを使ったのだが、かれらしくばきばきのブラシだった。ピアノとベースとが切ないような基盤を創った。

5曲目は言わなかったがCDと同じだとすれば「I Can Smell You Listening (For Alexandra Montano)」。ベースのアルコとヴァイオリンとのデュオから始まり、ミッチェルがユニゾンで入ってきた(なんて美しい)。そして各人がじわじわと入ってくるのだが、その段階でも、声をまじえて吹くミッチェルのフルートが本当に素晴らしい。このようなサウンドを聴かせてもらい途中で閾値を超える感覚をもつ。クラのソロ、ピアノトリオ、ドラムソロ、それらが順次組み合わさり、最後は静々とアンサンブルで終息した。

ここで既に20時半過ぎからスタートした演奏が21時50分頃になっていて、ドレッサーが「10時を回ってもいいのか?」と確認。6曲目も言わなかったが、同じく推測するに「Newtown Char」。アーリックのバスクラから始まり、ドレッサーのアルコ、そしてフルート、ヴァイオリン、トロンボーンが入った。やがてベース、ヴァイオリン、ピアノが残され、弦の重なりにピアノがかぶさることの快感。ドレッサーが指で弾き始めるとサウンドはドライヴモードとなった。アーリックが真ん中に進み出てきてクラのソロ、待ってましたという感じ(2015年に観たときには意外にふくよかだと感じたのだが、やはり突破的)。ブラックは絶好調、ドレッサーのベースにはさまざまなサブトーンが混じってくる。アンサンブル内でミッチェルが吹く幽玄なフルート、また話しながら吹いてもまったく濁らない。相変わらずドレッサーが主導するサウンドであり、終盤には、弦に手を叩きつける激しいソロもみせたのだが、それによるクラスターもカオスではなく明確に分解されるような特徴的な音に聴こえた。そして幾度となくストップ・アンド・ゴー。

7曲目、「ごく短く」と断りつつ、「Two Handful of Peace (For Daniel Jackson)」。アーリックのバスクラとミッチェルのフルートとが旋律を朗々と吹いた。

終わった時には22時15分。ずっと飽きず、この時間内で考えられないほどの変化があり、一貫してドレッサーの創るサウンドに他ならないものだった。オレゴンから来たという、隣に座ったご婦人は、感動を隠せないわたしに「exceptionalだった」と言った。しばらくは脳内でこの音が響き、後になって涙腺がゆるんできた。

演奏後にニコール・ミッチェルさんと話した。とても素敵な人だった。先日わたしがインタビュー記事を翻訳したあと、ミッチェルさんは、日本に行って演奏したい、坂田明さんをリスペクトしている、と書いてきたのだったが、その話をすると「いつか」と。

●マーク・ドレッサー
『苦悩の人々』再演
(2011年)
スティーヴ・リーマン『Interface』(2003年)
ジェリー・ヘミングウェイ『Down to the Wire』(1991年)
ジョン・ゾーン『Spy vs. Spy』(1988年)

●ニコール・ミッチェル
ニコール・ミッチェル『Mandorla Awakening II: Emerging Worlds』(2015年)
ニコール・ミッチェル『Awakening』、『Aquarius』(2011、12年)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/7/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/5/1)

●マーティ・アーリック
マイラ・メルフォード+マーティ・アーリック@The Stone(2015年)
ブッチ・モリス『Dust to Dust』(1991年)

●ジム・ブラック
ジム・ブラック『Malamute』(2016年)
アンドリュー・ディアンジェロ『Norman』(2014年)
ピーター・エヴァンス『Destiation: Void』(2013年)
ピーター・エヴァンス『Ghosts』(2011年)
Human Feel 『Galore』(2007年) 
ヒルマー・イエンソン『MEG NEM SA』、アンドリュー・ディアンジェロ『Skadra Degis』(2006、2007年)
三田の「みの」、ジム・ブラック(『Habyor』2004年、『Splay』2002年)
エド・シュラー『The Force』(1994年)