NYハーレム地区にあるハーレム・スタジオ美術館に今回も行ってきた。
マタナ・ロバーツのプロジェクト「breathe...」でも明らかなことだが、このような政治への働きかけはもとよりヴィヴィッドであり、それを衝き動かす危機感はさらに増している。
■ ポール・スティーヴン・ベンジャミン「God Bless America」
ポール・スティーヴン・ベンジャミン(Paul Stephen Benjamin)は1966年シカゴ生まれ、アトランタ在住。このヴィデオ・インスタレーションの中心には、ジミー・カーターの大統領就任式(1977年)において「God Bless America」を唄うアレサ・フランクリン。周りのモニターで明滅する赤と青は、2013年のトレイボン・マーティン射殺事件(自警団のジョージ・ジマーマンがアフリカン・アメリカンの高校生を射殺した)を暗示しているという。
悪夢のようでありながら現実と歴史が眼前にある社会。これをインスタグラムにアップしたところ、作家からの反応があった。既にSNSでは糸電話がつながっているいま、音楽やアートから政治を切り離せというナイーヴな社会との壁はどのように突き崩されてゆくだろう。
■ アンディ・ロバート「Call II Mecca」
アンディ・ロバートは1984年ハイチ生まれ。かれの作品では、フランスのフォービズムが現在のアメリカとつながっているようである。メトロもそうだが街のマチエールをこのような形にする活動に新鮮さを覚えた。
■ シェリル・ローランド「The Jumpsuit Project」
シェリル・ローランド(Sherrill Roland)は1984年ノースカロライナの生まれ育ち。かれは学生時代に投獄された経験があり、その社会的意味を問うために、キャンパスにおいて、囚人服を着て、通りがかる人たちと毎日接するプロジェクトをはじめた。
■ メシャック・ガバ「Lipstick Building」
メシャック・ガバ(Meschac Gaba)は1961年ベニン生まれ。確かにこのヘアスタイルにはどうしても目が吸い寄せられてしまう。
■ デイヴ・マッケンジー「We Shall Overcome」
1977年ジャマイカ生まれのデイヴ・マッケンジー(Dave McKenzie)による2004年のヴィデオ作品。白人のお面を被った男がハーレムを練り歩き、背後には「We Shall Oversome」が流れる。2004年といえばジョージ・ブッシュが再選された年である。その前の大統領選で敗れたアル・ゴアの顔にもみえる。嫌悪感や諦念が社会が覆っていたのだろうか。
■ アリソン・ジャネー・ハミルトン「Foresta」
アリソン・ジャネー・ハミルトン(Allison janae Hamilton)は1984年レキシントン生まれ、NY在住。このインスタレーションでは、葦、流木、動物が配され、壁には水面の映像が映し出されている。国ではなく土地への想いが形になっているようである。
●参照
ハーレム・スタジオ美術館再訪(2015年9月)
ハーレム・スタジオ美術館(2014年6月)
MOMA PS1の「ゼロ・トレランス」、ワエル・シャウキー、またしてもビョーク(ロレイン・オグラディ)
ナショナル・アカデミー美術館の「\'self\」展(ハーレムで活動するトイン・オドゥトラ)
マニー・ピットソン『ミニー・ザ・ムーチャー』、ウィリアム・マイルズ『I Remember Harlem』
ジーン・バック『A Great Day in Harlem』
2015年9月、ニューヨーク(2) ハーレム
2014年6月、ニューヨーク(4) ハーレム