Sightsong

自縄自縛日記

原貴美恵『サンフランシスコ平和条約の盲点』

2015-07-23 22:52:22 | 政治

原貴美恵『サンフランシスコ平和条約の盲点 ―アジア太平洋地域の冷戦と「戦後未解決の諸問題」―』(渓水社、2005年)を読む。

サンフランシスコ平和条約(講和条約)(1951年署名、1952年発効)は、言うまでもなく、全面講和ではない。これをもって敗戦国・日本は再び国としての主権を得た。しかし、ソ連がその内容への不満から参加せず、中国は国のかたちを変えたために議論を受け継ぐことができておらず(それまでの当事者は、敗北した国民党=中華民国であった)、韓国は交戦国でなかったために参加の希望を叶えられなかった。

したがって、ここには、結果的にアメリカの意向が色濃く反映されている。すなわち、急激に最大の課題と化した冷戦対応。社会主義陣営に渡すものを最小化すること、そのために日本を寛大に扱うこと。これによる甘えが、日本国内にいまだ巣食う歴史修正主義という怪物を生み出すとは、当時予想できなかったことに違いない。

カイロ会談(1943年)、ヤルタ会談(1945年)、ポツダム宣言(1945年)を経ての成果であるとしても、そのバイアスが原因となって、いまだ解決できない大きな問題が生み出されたのだということが、本書での検証を追っていくことでよくわかる。竹島、北方領土、尖閣諸島、沖縄、台湾という場所のすべてが、相手なき解決策として、敢えて曖昧な「楔」となったのである。これらの場所については、交渉段階から所属を明確化すべきとの主張がなされていたにも関わらず、国際動向に応じて便利に使えるような形となった。実際に、1956年には、北方領土二島返還という妥結が日ソ間でなされかけていたところ、ならば沖縄は戻さないとの脅しがアメリカから日本に伝えられ、破談に追い込まれている。日ソ間で仲良くされては困るからである。

そのようなオフショア・バランシングにやすやすと乗せられて、ナショナリズムを暴発させることが如何に愚かなことか、問われ続けているわけである。

●参照
孫崎享『日本の国境問題』
孫崎享・編『検証 尖閣問題』
豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』
豊下楢彦『昭和天皇・マッカーサー会見』
吉次公介『日米同盟はいかに作られたか』
水島朝穂「オキナワと憲法―その原点と現点」 琉球・沖縄研


エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール

2015-07-23 06:52:38 | アヴァンギャルド・ジャズ

草月ホールに足を運び、待ちに待ったコンサート(2015/7/22)。巨人ウィリアム・パーカー、土取利行ともにナマで目の当たりにするのははじめてだ。エヴァン・パーカーは、世田谷美術館でのソロ(1996年)、中野ZEROでのベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ(1996年)、新宿ピットインでのエレクトロ・アコースティック・アンサンブル(2000年)以来、4回目。それでも前回から15年が経っている。

Evan Parker (ts, ss)
土取利行 (ds, perc)
William Parker (b, 尺八, 弦楽器)

最近のエヴァン・パーカーの録音を聴いていると全盛期よりさすがにパワーが落ちたのかと思っていたが、いやいや、凄まじい強度である。主に循環呼吸奏法による延々と持続する音は、テナーでは何かを掴むような力を持ち、ソプラノではステージ上に巨大で透明な氷の城を築き上げるようだった。

ウィリアム・パーカーのベースは、期待以上に、「軽くて同時に重い」。軽々とステップを踏みながら、地響きと轟音を放出した。そして尺八、民族楽器風の弦楽器。それらの謎めいた音が、土取さんが様々なパーカッションから、まるで泥や芥を振動によってふるいにかけて次々に宝石を見出すように発するビートと相まって、皆が固唾を呑んで見守る時空間が創り上げられた。

途中でもその瞬間が訪れたのだが、2回目のアンコール演奏においても、エヴァンがリラックスしたように「曲」を奏でる時間があった。これもまた、なかなか聴くことができないものだった。

感激がさめないまま剛田武さん、橋本孝之さんとビールを飲んで、さらに地元でひとり飲み、クールダウン。

●参照
トニー・マラビー『Adobe』、『Somos Agua』(2003、2013年)(ウィリアム・パーカー参加)
Farmers by Nature『Love and Ghosts』(2011年)(ウィリアム・パーカー参加)
ウィリアム・パーカー『Uncle Joe's Spirit House』(2010年)
アンダース・ガーノルド『Live at Glenn Miller Cafe』(2008年)(ウィリアム・パーカー参加)
ブラクストン、グレイヴス、パーカー『Beyond Quantum』(2008年)
ウィリアム・パーカーのカーティス・メイフィールド集(2007年)
ダニエル・カーター『The Dream』、ウィリアム・パーカー『Fractured Dimensions』(2006、2003年)
ウィリアム・パーカー、オルイェミ・トーマス、ジョー・マクフィーら『Spiritworld』(2005年)
ウィリアム・パーカー『Luc's Lantern』(2005年)
ウィリアム・パーカーのベースの多様な色(1994、2004年)
Vision Festivalの映像『Vision Vol.3』(2003年)(ウィリアム・パーカー参加)
ESPの映像、『INSIDE OUT IN THE OPEN』(2001年)(ウィリアム・パーカー参加)
アレン/ドレイク/ジョーダン/パーカー/シルヴァ『The All-Star Game』(2000年)
ウィリアム・パーカー『... and William Danced』(2000年)
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(1985年)(ウィリアム・パーカー参加)
ウェイン・ホーヴィッツ+ブッチ・モリス+ウィリアム・パーカー『Some Order, Long Understood』(1982年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Gold is Where You Find It』(2008年)(エヴァン・パーカー参加)
シュリッペンバッハ・トリオ『Detto Fra Di Noi / Live in Pisa 1981』(1981年)(エヴァン・パーカー参加)
シュリッペンバッハ・トリオ『First Recordings』(1972年)(エヴァン・パーカー参加)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)(エヴァン・パーカー参加)
エヴァン・パーカー+ネッド・ローゼンバーグ『Monkey Puzzle』(1997年)
エヴァン・パーカー+吉沢元治『Two Chaps』(1996年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)(エヴァン・パーカー参加)
『Rocket Science』(2012年)(エヴァン・パーカー参加)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)(エヴァン・パーカー登場)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)(エヴァン・パーカー参加)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)(エヴァン・パーカー登場)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981-98年)(エヴァン・パーカー参加)