豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』(岩波現代文庫、2012年)を読む。
石原都知事(当時)が扇動し、日本政府が購入した島は、魚釣島、北小島、南小島の3島。しかし、大正島と久場島は対象に含まれていない(本書の表紙も久場島)。それはなぜか。この2島が、射撃場として日本政府から米軍に提供されているからである(数十年も使われていない)。
すなわち、米国にはひたすらに追従する姿勢であり、このことは、さして活発な軍事活動を行うわけでない横田基地(多摩地域)のために、成田・羽田ともに大きく迂回して離着陸せざるを得ず、それを放置し続けている姿勢とも共通する。
著者は、石原知事の目的が、主権を守ることなどにあったのではなく、ただ中国を怒らせることにあったのだとする。すなわち、現在の軋轢は、結果ではなく目的であった。子供じみたマッチョな行動により国家主権を危機に陥れ、予想されたはずの日本経済への打撃を敢えて呼び込むことは、普段謳っている国益や国家主権とはまったく逆ベクトルである。これは、米国の意向に必要以上に沿ったものであった。
本書の主張は、尖閣問題は米国問題に他ならないということだ。米国は、戦後、敢えて曖昧な態度を維持することによって日中間に緊張を作りだし、世界への影響力をいかに大きくするかということにのみ腐心してきた。北方領土も同様に、解決せず日ソが接近しないような仕組であった。そしてまた、革命後のイランを牽制するためにサダム・フセインを育て、アフガニスタンのソ連勢力に対抗するためにオサマ・ビン・ラディンを育て、彼らがモンスターと化したら敵として攻撃する。
これこそが、米国の「オフショア・バランシング」の本質だというわけである。そして日本は、米国のマッチポンプたる湾岸戦争やアフガニスタン攻撃に、国際貢献と称して乗ってきた。いままた、北朝鮮の「ミサイル」の脅威が喧伝されるのも、同じ文脈でとらえられる。
著者は、そのように米国の意向を必要以上に汲むという硬直化した方針によってではなく、ひとつずつ問題を現実的に片付けていくしか、日本の生き残りの道はないとする。まったくの同感である。ならば、中国、韓国、北朝鮮の脅威をひたすらに煽り、軍備増強を狙い、米国を「親」として位置づけるような政治家たちが伸長してしまっては、日本がさらなるダメージを受けることは確かだ。
良書。ぜひ多くの人に読んでほしい。
●参照
○孫崎享『日本の国境問題』
○朝まで生テレビ「国民に"国を守る義務"が有るのか!?」
○斎藤貴男『東京を弄んだ男 「空疎な小皇帝」石原慎太郎』
○ダイヤモンドと東洋経済の中国特集
○国分良成編『中国は、いま』
○天児慧『中国・アジア・日本』
○『世界』の特集「巨大な隣人・中国とともに生きる」
○『情況』の、「現代中国論」特集
○堀江則雄『ユーラシア胎動』
○L・ヤーコブソン+D・ノックス『中国の新しい対外政策』
○2010年12月のシンポジウム「沖縄は、どこへ向かうのか」