Sightsong

自縄自縛日記

トム・ハレル@Village Vanguard

2015-04-03 16:09:52 | アヴァンギャルド・ジャズ

次にVillage Vanguardに移動したところ(2015/4/2)、22時の開場の40分前だというのに既に列が出来ていた。トム・ハレル、凄い注目ぶりである(結局この回はソールドアウトとなった)。というのも、アンブローズ・アキンムシーレとのツイントランペットという仰天する組み合わせだからに違いない。この新グループは「Something Gold, Something Blue」と名づけられている。

しかも、運よくふたりのラッパの中まで見える最前列に座ることができた。

Tom Harrell (tp, flh)
Ambrose Akinmusire (tp)
Charles Altura (g)
Ugonna Okegwo (b)
Johnathan Blake (ds)

アキンムシーレのトランペットはじつに輝かしいもので、ダイヤモンドが飛び出してくるようだった。理知的であり、ソロのイメージがこんこんと溢れ出るように見えた。音も非常に多彩であり、キレもあり、ソロの終わりは潔い。誰もがソロの間と後に感嘆の溜息をついていたに違いない。

前日にThe Stone開場を待っている間、隣にいたポーランド人の女の子と話していたところ、既に彼氏に無理やり連れていかれたとのこと。彼女は、アキンムシーレの創り出す雰囲気がとても良かったと言った。

しかし、ハレルのソロはさらに別次元だった(本当)。震える手で、こもったような音を発しており、それは病のためかどうかわからないのだが、素晴らしく人間的なものだった。まるで雲の中で、帯電したイオンの群れが次々に形を成すようだった。そして、ふわりと小節の途中から入って出ていく独特のフレージング。どれだけの人がこの凄みと底無しの深さを体感したのだろう?気のせいか、アキンムシーレがハレルのソロを聴いて涙ぐんでいるように見えた。

最後は、意表をついたスタンダード曲「There Will Never Be Another You」。

この新グループでの録音はなされるのだろうか。一刻も早く出してほしい。

●参照
トム・ハレル『Trip』
トム・ハレル『Colors of a Dream』
アンブローズ・アキンムシーレ『The Imagined Savior is Far Easier to Paint』
アンブローズ・アキンムシーレ『Prelude』
ヴィジェイ・アイヤー『In What Language?』(アキンムシーレ参加)


ランディ・ウェストン African Rhythms Sextet @Jazz Standard

2015-04-03 15:38:43 | アヴァンギャルド・ジャズ

Jazz Standardにて、ランディ・ウェストンのAfrican Rhythms Sextetを観る(2015/4/2)。ウェストン89歳のお祝いも兼ねているようだ。

目玉は、われらがビリー・ハーパーである(実はわたしのアイドルだった)。

Billy Harper (ts)
TK Blue (as, fl)
Randy Weston (p)
Alex Blake (b)
Neil Clarke (perc)
Lewis Nash (ds)

ランディ・ウェストンがずっと昔から取り組んでいるアフリカ回帰をテーマとした音楽である。これまで何枚かのディスクで聴いてきた曲も、モンク曲のピアノソロもあった。これこそが聴きたいものであったはずなのだが、喜びが半分、残りの半分は肩透かしだった。

つまり、テーマを選択し押し出していくことが力として感じられるのではなく、もはや余裕を持ったエンタテインメントに他ならなくなっているということだ。アーシーなウェストンのソロは良い。アレックス・ブレイクの大暴れしてみせるベースも良い。ニール・クラークのアフリカン・パーカッションもエキサイティングだ。しかし、これは伝統芸能であった。先鋭なるものを、このように洗練されたジャズクラブにおいて期待するほうが間違いなのかもしれない。

ところで、ビリー・ハーパーのテナーの粘っこさは健在で、こればかりは無条件に嬉しかった。かつての演奏のように粘りすぎるとまでは言えなかったが。

●参照
ランディ・ウェストン+ビリー・ハーパー『The Roots of the Blues』
ランディ・ウェストンの『SAGA』
ビリー・ハーパーの新作『Blueprints of Jazz』、チャールズ・トリヴァーのビッグバンド
ビリー・ハーパーの映像


ナショナル・アカデミー美術館の「\'self\」展

2015-04-03 14:56:29 | アート・映画

グッゲンハイム美術館で河原温の回顧展を観ようと思ったら休館日。となりのナショナル・アカデミー美術館を覗いてみたところ、存外に興味深い展示だった。

「\'self\」展の副題は「Portraits of Artists in Their Absence」。アーティストがどのように自画像を描いてきたかという企画展である。

主に19世紀の肖像画家たちは、伝統的な肖像画の範囲内で、視てほしい自らの姿を描いた。ダニエル・ハンチントンという画家は、尊敬するティツィアーノの作品の印刷を手に持った姿で、自分を表現している。ささやかな自己主張だ。

ところが、20世紀以降の自画像なるものの変質ぶりが凄まじい。抽象化・キャラ化だけではない。あのアイ・ウェイウェイは中国当局に逮捕されたときの写真をスマホで撮り作品化しており、活動自体を自画像に取り込んでいる。戦略とも言えるのかもしれない。


アイ・ウェイウェイ「Illumination」

出自のアイデンティティを強烈に押し出す作品もある。Toyin Odutolaというナイジェリア出身の画家は、自画像ばかりを黒いペンで描いており、現在NYのハーレムで活動をしているようだ。また、エルサレム生まれのパレスチナ人Samia Halabyは、自身の顔をオリーブの木と一体化させており、平和への希求を強く感じさせるものになっている。


Toyin Odutola「Hold It in Your Mouth a Little Longer」


Samia Halaby「I Found Myself Growing Inside an Ancient Olive Tree in Galilee」