鮎川俊介の「幕末・明治の日本を歩く」

渡辺崋山や中江兆民を中心に、幕末・明治の日本を旅行記や古写真、研究書などをもとにして歩き、その取材旅行の報告を行います。

2012.10月取材旅行「桐生~小倉山~要害山」 その1

2012-10-30 05:13:18 | Weblog
 JR桐生駅近くの駐車場に到着したのは6:58。

 妻沼・太田方面から初めて桐生市街に入った時は、市街の様子は初めてということもあってほとんど分かりませんでしたが、その後何回か桐生の町を歩いたことによって、町のようすは大体わかるようになってきました。

 すみずみを歩くことによって、その土地の「土地感覚」というものが生まれてくるし、また高い所からその土地の全体を見下ろすことによって、その土地のおおよその「地理感覚」というものもつかめてきます。

 崋山も、桐生の町をすみずみまで歩き、また雷電山に登ってその頂から町全体を俯瞰することによって、桐生の町への「土地感覚」や「地理感覚」を深めていったのでしょう。

 桐生は妹茂登(もと)が嫁ぎ、そして日々を過ごしている町。それだけでも桐生の町への関心はあるのですが、さらに当時の桐生は、絹買継や絹織物の生産によって数多くの豪商が出現し、周辺地域も含めて経済的にもまた文化的にも最も豊かであった頃の桐生でした。

 江戸周辺の「江戸地廻り経済圏」の中でも、最も豊かな町の一つであったのです。

 しかもその町は、出羽松山藩2万5千石という小藩の分領であって、陣屋にはわずかの役人(出羽松山藩士)しかおらず、実際の町政を担当していたのは有力町人たちであったのです。

 その繁栄・豊かさは何に由来しているのか。

 それを生み出した地理的条件とは何か。

 そこに住む人々は藩政をどのように見ているのか。

 三河田原藩という小藩の藩士ではあるけれども、藩政に深い関心と強い責任感を持つ崋山は、それらのことを桐生においても把握しようと努めています(かつての銚子滞在時においてもそうであったはずであり、またつい最近訪れたばかりの相州厚木町においてもそうであったはず)。

 崋山は一流の画家であり、鍛えられた観察眼を持っています。

 そのすぐれた観察眼で、歩きながら、そして多くの人々と接触しながら、情報を集積していくのですが、その行為は、どうしたら藩の財政を豊かで安定的なものにすることができるか、領内の人々の生活をどのようにすれば豊かで安定的なものにできるか、という問題意識とつながっています。

 別の言葉で言えば、「経世済民」の意識であり、あるいは「殖産興業」の意識であったでしょう。

 崋山は「経世家」であったのです。

 崋山の一連の旅は、崋山を一流の「経世家」として育てていく旅でもありました。

 崋山が、歩きながら何に着目し、土地の人々と接しながらどういう情報を集めたか、そのような観点から、彼の旅を捉えていくこともとても大切なことであると考えます。

 さて、前置きが長くなりました。

 JR桐生駅前の観光案内マップで、まず周辺地理を調べました。

 桐生川を渡った東側には「菱(観音山)コース」や「普門寺(だるま市)」という文字が見える。

 「観音山」というのは、桐生天満宮や桐生本町1、2丁目あたりから東側に見える山のこと。

 「足利」へと至る道は、その「普門寺」の南側を走っています。

 桐生駅の西側を見てみると、大間々へと至る道は、上毛電鉄の「丸山下駅」付近を過ぎたあたりで分岐し、一つは渡良瀬川の北側を延びています。

 高津戸峡で渡良瀬川を渡って大間々へと至っていますが、この渡良瀬川を渡るところに現在は高津戸橋が架かっています。かつて(江戸時代)は高津戸の渡しがあったところ。

 この渡良瀬川の北側を西へと進む道が、崋山一行が大間々要害山へと歩いた道だということになります。

 そういったことを確認して、JR桐生駅北口前を出発したのが7:10。

 まず上毛電鉄の「西桐生駅」へと足を向けました。

 ちょっとレトロな駅舎の中へ入ると、「当駅からの運賃表」というのがあって、この上毛電鉄は「天王宿」「赤城」「大胡」などの諸駅を経て「中央前橋駅」まで至ることがわかります。

 ちなみに「中央前橋駅」までは片道660円。

 また壁には表彰状のようなものがあり、よく見てみるとそれは、「関東の駅百選 認定書」でした。

 「西桐生駅 上毛電気鉄道株式会社殿 上記の駅は 愛され親しまれ人々の心に残る駅として鉄道の日記念 関東の駅百選の一つであることを認定します」

 というのがその文面。

 その「関東の駅百選 認定」の「西桐生駅」の南側に西方向へと延びる道があり、その道を大間々方面へと歩いていくことにしました。


 続く


○参考文献
・『渡辺崋山集 第1、2巻』(日本図書センター)


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