うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

江戸浮世風~人情捕物帳傑作選~

2012年07月29日 | ほか作家、アンソロジーなど
松本清張、平岩弓枝 、陣出達朗、伊藤桂一、北原亞以子、笹沢左保、泡坂妻夫、佐藤雅美


 2004年8月発行

 菊池仁監修の、江戸情緒溢れる、人情捕物帳の傑作10編。

むかしの男(鬼平犯科帳シリーズ) 池波正太郎
鬼灯遊女(加田三七捕物帳シリーズ) 村上元三
七種粥(紅刷り江戸噂シリーズ) 松本清張
さいかち坂上の恋人(はやぶさ新八御用帳シリーズ) 平岩弓枝
蛇を刺す蛙 陣出達朗
絵師の死ぬとき 伊藤桂一
終りのない階段 北原亞以子
浮世絵の女 笹沢左保
からくり富(夢裡庵先生捕物帳シリーズ) 泡坂妻夫
落ちた玉いくつウ 佐藤雅美

むかしの男 池波正太郎
 平蔵が江戸を留守にしている間に、妻の久栄の元へ、20年前に久栄の操を散らした近藤勘四郎からの文が届く。だが、勘四郎の狙いは久栄ではなく、お順を勾引す事にあった。
 人気シリーズ「鬼平犯科帳」の余話的物語で、平蔵と久栄が夫婦になった経緯が描かれている。
 
主要登場人物
 長谷川平蔵...前火付盗賊改方長官、現無役
 久栄...平蔵の妻
 辰蔵...平蔵の嫡男
 近藤勘四郎...浪人
 佐嶋忠介...付盗賊改方与力
 酒井祐助...付盗賊改方同心
 山田市太郎...付盗賊改方同心
 お順...平蔵の養女、盗賊助次郎の娘
 おすめ...茶見世の老婆

鬼灯遊女 村上元三
 見世すががき
 桃色の扱帯
 女郎の達引
 花魁道中

 吉野屋佐兵衛に誘われ吉原に出向いた加田三七は、偶然にも花魁九重の自刃に関わり合う。だが、調べを続ける内に、明らかになる九重の死の謎。
 絡繰りは単純だが、丁寧に死因を探り、吉原の仕組みや町並みが明確に記されている。
 
主要登場人物
 加田三七...南町奉行所定廻り同心
 お民...三七の妻
 吉野屋佐兵衛...日本橋石町呉服問屋の主
 清五郎...日本橋銀町の岡っ引き
 幸助...本所石原町の岡っ引き
 勘助...吉原大まがき大黒屋の主
 治平...大黒屋の妓夫
 大淀...大黒屋の花魁

七種粥 松本清張
 七草粥を食べた大津屋では、主の庄兵衛始め奉公人まで、酷い吐き下しで、庄兵衛と番頭の友吉夫妻が命を落とす惨事に見舞われた。そして店はお千勢が仕切る事に。
 後味の悪い、怖い話である。やはり男性が書いただけあり、忠助の残忍さには胆が冷える思いである。
 サブに「人情捕物帳傑作選」とあるが、この作品は、岡っ引きが事件を解決しながらも、名もなく単に岡っ引きと記されており、捕り物話と言うより、ミステリー色が濃い。

主要登場人物
 大津屋庄兵衛...日本橋堀留関東織物問屋
 お千勢...庄兵衛の後妻
 忠助...大津屋の手代→番頭
 お絹...忠助の女房
 丑六...人足

さいかち坂上の恋人 平岩弓枝
 旗本石川八十之助が、家宝の短刀を札差に渡してしまい、取り戻す策はないかと持ち掛けられた根岸肥前守鎮衛。それを聞いて隼新八郎は、探索を進めるが、次第に札差の板倉屋、同じく大口屋と石川家の因縁が明らかになる。
 タイトルの「さいかち坂上の恋人」は、若かりし頃の根岸肥前守鎮衛の思い人が住まっていた場であり、札差と旗本の因縁を探るうちに、その小町娘だった思い人が、とんでもない意地悪な婆さんになってしまっていた。
 月日の流れを感じさせる話で締め括っているが、わざわざ根岸肥前守鎮衛を持ち出すなら、「耳袋」に触れても良かったのではないだろうか。

主要登場人物
 根岸肥前守鎮衛...南町奉行
 隼新八郎...肥前守鎮衛の養子
 お鯉...肥前守鎮衛の傍使え
 石川八十之助...神田駿河台の旗本
 板倉屋仁兵衛...蔵前札差の主
 お道...仁兵衛の娘
 大口屋新左衛門 蔵前札差の主
 鈴木九太夫 旗本
 大久保源太 南町奉行所定町廻り同心

蛇を刺す蛙 陣出達朗
 根津権現門前の岡場所大和田の女郎のおろくが、不忍池に上がった。岡っ引きの新五は、下手人は黒沢岩十郎であると目星を付ける。
 気っ風の良い江戸の岡っ引き捕り物劇と言えるだろう。新五、長兵衛の岡っ引きコンビが粋で良い。

主要登場人物
 銀次...魚屋
 お艶...根津権現門前の岡場所大和田の女将
 おつる...大和田の女郎
 おみよ...おつるの妹
 朝吉...建具職人
 黒沢岩十郎(まむしの岩十郎)...南町奉行所同心
 新五...駒形の岡っ引き、大場伝蔵の小者
 長兵衛...花川戸の岡っ引き

絵師の死ぬとき 伊藤桂一
 元は根津の浜吉とまで唄われたが、十手を返して風車売りを生業としている浜吉。そこに、朋友喜助の手下の留造が、絵師の玉村朱蝶殺しの手助けを求めやって来る。次第に岡っ引き魂に火の付く浜吉の見事な冴えが光る。
 女流作家の場合、大方は推理が見事に犯人を誘き出すといった結末だが、伊藤桂一氏は、推理の裏を留造にきちんと取らせている。物語は淡々と進み、山場はないが、きっかりと人情も取り入れ、大人の作品と言えるだろう。

主要登場人物
 浜吉...風車売り、元根津の岡っ引き
 留造...岡っ引き小日向の喜助の手下
 お時...浜吉の女房
 松太郎...浜吉の息子
 玉村朱蝶...浮世絵師
 丹次、卯助...盗賊闇烏の一味

終りのない階段 北原亞以子
 怠け者の父親や、男にだらしない出戻りの姉、身形に構わない母親。そんな暮らしから抜け出したいおつやは、おあきとの縁組みの決まっている正六を奪い取るのだった。
 「終りのない階段」とは、正に女の飽くなき欲望を描いている。

主要登場人物
 おつや...新銭座町の長屋の店子、縫子
 おあき...新銭座町の長屋の店子、大工の娘
 爽太...露月町の岡っ引き、鰻屋十三川の入り婿
 正六...歯磨売り

浮世絵の女 笹沢左保
 巷を賑わす浮世絵美人のお染の噂は引っ切りなしだが、伊勢屋に奉公するお秀から、店の娘がそのお染と恋仲であると、耳にした源太。その矢先にお袖が陵辱された惨たらしい屍となった。
 同性愛からの意外な結末は斬新ではあるが、物語に関連性のない登場人物の多さと、その説明が曖昧で、読み下すの難義した。

主要登場人物
 源太(音なしの源) 湯島居酒見世春駒の主、岡っ引き回向院の文次郎の手下
 お小夜...源太の女房
 お秀...大伝馬町太物問屋伊勢屋の女中
 紅川玉幸...浮世絵師
 お袖...佐野屋千之助の娘
 お染(清三郎)...浮世絵のモデル、紅川玉幸の弟子

からくり富 泡坂妻夫
 百両が当たる富突きに田誰もが夢中になっている。庄太も当たったなら、諸国を旅しながら俳句を読みたいと願っていた。
 江戸時代の富突きを知る上では、申し分ない説明である。だが、やはり物語と直接関係ない人物が多く、前項の笹沢左保氏と良く似ている。

主要登場人物
 俵助...東平野町料理屋青馬の主、岡っ引き
 千代...俵助の娘
 源七...俵助の手下
 富士宇衛門(夢裡庵)...北町奉行所同心
 文治...大工
 お竹...文治の女房
 庄太(蕉翁)...霊巌島石屋川喜多の息子
 増蔵...鉾寺の僧侶

落ちた玉いくつウ 佐藤雅美
 火事で両の親と店屋敷を失ってしまったお喜代。だが母親から生前に、古銭150両が地内に埋まっていると聞かされていた。その古銭と土地の価格を巡り、河内屋が
噛んでいると、藤木紋蔵は内状を探る。
 正直、作者は何を言いたかったのだろう? 登場しなくても十分物語は成り立つに関わらず、名前だけの登場人物や、話の筋も純粋に生きるお喜代を助け、腹黒い河内屋を暴こうとする同心の話だが、ぴんとくるものがなかった。

主要登場人物
 藤木紋蔵...南町奉行所例繰方同心
 三宅勝之進...南町奉行所吟味方下役同心
 坂田源吾左衛門...南町奉行所吟味方与力
 沢田六平...南町奉行年番方与力
 お喜代...瓦町油問屋河内屋の娘
 繁次郎...札差伊勢屋手代

 余談だがカバーのイラストの女性。右の袂に片方だけの襷を掛けているが、襷の向きが逆。これでは何ら役にたたない。それとも左利き?



書評・レビュー ブログランキングへ



にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へにほんブログ村


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。