松本清張、平岩弓枝 、陣出達朗、伊藤桂一、北原亞以子、笹沢左保、泡坂妻夫、佐藤雅美
2004年8月発行
菊池仁監修の、江戸情緒溢れる、人情捕物帳の傑作10編。
むかしの男(鬼平犯科帳シリーズ) 池波正太郎
鬼灯遊女(加田三七捕物帳シリーズ) 村上元三
七種粥(紅刷り江戸噂シリーズ) 松本清張
さいかち坂上の恋人(はやぶさ新八御用帳シリーズ) 平岩弓枝
蛇を刺す蛙 陣出達朗
絵師の死ぬとき 伊藤桂一
終りのない階段 北原亞以子
浮世絵の女 笹沢左保
からくり富(夢裡庵先生捕物帳シリーズ) 泡坂妻夫
落ちた玉いくつウ 佐藤雅美
むかしの男 池波正太郎
平蔵が江戸を留守にしている間に、妻の久栄の元へ、20年前に久栄の操を散らした近藤勘四郎からの文が届く。だが、勘四郎の狙いは久栄ではなく、お順を勾引す事にあった。
人気シリーズ「鬼平犯科帳」の余話的物語で、平蔵と久栄が夫婦になった経緯が描かれている。
主要登場人物
長谷川平蔵...前火付盗賊改方長官、現無役
久栄...平蔵の妻
辰蔵...平蔵の嫡男
近藤勘四郎...浪人
佐嶋忠介...付盗賊改方与力
酒井祐助...付盗賊改方同心
山田市太郎...付盗賊改方同心
お順...平蔵の養女、盗賊助次郎の娘
おすめ...茶見世の老婆
鬼灯遊女 村上元三
見世すががき
桃色の扱帯
女郎の達引
花魁道中
吉野屋佐兵衛に誘われ吉原に出向いた加田三七は、偶然にも花魁九重の自刃に関わり合う。だが、調べを続ける内に、明らかになる九重の死の謎。
絡繰りは単純だが、丁寧に死因を探り、吉原の仕組みや町並みが明確に記されている。
主要登場人物
加田三七...南町奉行所定廻り同心
お民...三七の妻
吉野屋佐兵衛...日本橋石町呉服問屋の主
清五郎...日本橋銀町の岡っ引き
幸助...本所石原町の岡っ引き
勘助...吉原大まがき大黒屋の主
治平...大黒屋の妓夫
大淀...大黒屋の花魁
七種粥 松本清張
七草粥を食べた大津屋では、主の庄兵衛始め奉公人まで、酷い吐き下しで、庄兵衛と番頭の友吉夫妻が命を落とす惨事に見舞われた。そして店はお千勢が仕切る事に。
後味の悪い、怖い話である。やはり男性が書いただけあり、忠助の残忍さには胆が冷える思いである。
サブに「人情捕物帳傑作選」とあるが、この作品は、岡っ引きが事件を解決しながらも、名もなく単に岡っ引きと記されており、捕り物話と言うより、ミステリー色が濃い。
主要登場人物
大津屋庄兵衛...日本橋堀留関東織物問屋
お千勢...庄兵衛の後妻
忠助...大津屋の手代→番頭
お絹...忠助の女房
丑六...人足
さいかち坂上の恋人 平岩弓枝
旗本石川八十之助が、家宝の短刀を札差に渡してしまい、取り戻す策はないかと持ち掛けられた根岸肥前守鎮衛。それを聞いて隼新八郎は、探索を進めるが、次第に札差の板倉屋、同じく大口屋と石川家の因縁が明らかになる。
タイトルの「さいかち坂上の恋人」は、若かりし頃の根岸肥前守鎮衛の思い人が住まっていた場であり、札差と旗本の因縁を探るうちに、その小町娘だった思い人が、とんでもない意地悪な婆さんになってしまっていた。
月日の流れを感じさせる話で締め括っているが、わざわざ根岸肥前守鎮衛を持ち出すなら、「耳袋」に触れても良かったのではないだろうか。
主要登場人物
根岸肥前守鎮衛...南町奉行
隼新八郎...肥前守鎮衛の養子
お鯉...肥前守鎮衛の傍使え
石川八十之助...神田駿河台の旗本
板倉屋仁兵衛...蔵前札差の主
お道...仁兵衛の娘
大口屋新左衛門 蔵前札差の主
鈴木九太夫 旗本
大久保源太 南町奉行所定町廻り同心
蛇を刺す蛙 陣出達朗
根津権現門前の岡場所大和田の女郎のおろくが、不忍池に上がった。岡っ引きの新五は、下手人は黒沢岩十郎であると目星を付ける。
気っ風の良い江戸の岡っ引き捕り物劇と言えるだろう。新五、長兵衛の岡っ引きコンビが粋で良い。
主要登場人物
銀次...魚屋
お艶...根津権現門前の岡場所大和田の女将
おつる...大和田の女郎
おみよ...おつるの妹
朝吉...建具職人
黒沢岩十郎(まむしの岩十郎)...南町奉行所同心
新五...駒形の岡っ引き、大場伝蔵の小者
長兵衛...花川戸の岡っ引き
絵師の死ぬとき 伊藤桂一
元は根津の浜吉とまで唄われたが、十手を返して風車売りを生業としている浜吉。そこに、朋友喜助の手下の留造が、絵師の玉村朱蝶殺しの手助けを求めやって来る。次第に岡っ引き魂に火の付く浜吉の見事な冴えが光る。
女流作家の場合、大方は推理が見事に犯人を誘き出すといった結末だが、伊藤桂一氏は、推理の裏を留造にきちんと取らせている。物語は淡々と進み、山場はないが、きっかりと人情も取り入れ、大人の作品と言えるだろう。
主要登場人物
浜吉...風車売り、元根津の岡っ引き
留造...岡っ引き小日向の喜助の手下
お時...浜吉の女房
松太郎...浜吉の息子
玉村朱蝶...浮世絵師
丹次、卯助...盗賊闇烏の一味
終りのない階段 北原亞以子
怠け者の父親や、男にだらしない出戻りの姉、身形に構わない母親。そんな暮らしから抜け出したいおつやは、おあきとの縁組みの決まっている正六を奪い取るのだった。
「終りのない階段」とは、正に女の飽くなき欲望を描いている。
主要登場人物
おつや...新銭座町の長屋の店子、縫子
おあき...新銭座町の長屋の店子、大工の娘
爽太...露月町の岡っ引き、鰻屋十三川の入り婿
正六...歯磨売り
浮世絵の女 笹沢左保
巷を賑わす浮世絵美人のお染の噂は引っ切りなしだが、伊勢屋に奉公するお秀から、店の娘がそのお染と恋仲であると、耳にした源太。その矢先にお袖が陵辱された惨たらしい屍となった。
同性愛からの意外な結末は斬新ではあるが、物語に関連性のない登場人物の多さと、その説明が曖昧で、読み下すの難義した。
主要登場人物
源太(音なしの源) 湯島居酒見世春駒の主、岡っ引き回向院の文次郎の手下
お小夜...源太の女房
お秀...大伝馬町太物問屋伊勢屋の女中
紅川玉幸...浮世絵師
お袖...佐野屋千之助の娘
お染(清三郎)...浮世絵のモデル、紅川玉幸の弟子
からくり富 泡坂妻夫
百両が当たる富突きに田誰もが夢中になっている。庄太も当たったなら、諸国を旅しながら俳句を読みたいと願っていた。
江戸時代の富突きを知る上では、申し分ない説明である。だが、やはり物語と直接関係ない人物が多く、前項の笹沢左保氏と良く似ている。
主要登場人物
俵助...東平野町料理屋青馬の主、岡っ引き
千代...俵助の娘
源七...俵助の手下
富士宇衛門(夢裡庵)...北町奉行所同心
文治...大工
お竹...文治の女房
庄太(蕉翁)...霊巌島石屋川喜多の息子
増蔵...鉾寺の僧侶
落ちた玉いくつウ 佐藤雅美
火事で両の親と店屋敷を失ってしまったお喜代。だが母親から生前に、古銭150両が地内に埋まっていると聞かされていた。その古銭と土地の価格を巡り、河内屋が
噛んでいると、藤木紋蔵は内状を探る。
正直、作者は何を言いたかったのだろう? 登場しなくても十分物語は成り立つに関わらず、名前だけの登場人物や、話の筋も純粋に生きるお喜代を助け、腹黒い河内屋を暴こうとする同心の話だが、ぴんとくるものがなかった。
主要登場人物
藤木紋蔵...南町奉行所例繰方同心
三宅勝之進...南町奉行所吟味方下役同心
坂田源吾左衛門...南町奉行所吟味方与力
沢田六平...南町奉行年番方与力
お喜代...瓦町油問屋河内屋の娘
繁次郎...札差伊勢屋手代
余談だがカバーのイラストの女性。右の袂に片方だけの襷を掛けているが、襷の向きが逆。これでは何ら役にたたない。それとも左利き?
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2004年8月発行
菊池仁監修の、江戸情緒溢れる、人情捕物帳の傑作10編。
むかしの男(鬼平犯科帳シリーズ) 池波正太郎
鬼灯遊女(加田三七捕物帳シリーズ) 村上元三
七種粥(紅刷り江戸噂シリーズ) 松本清張
さいかち坂上の恋人(はやぶさ新八御用帳シリーズ) 平岩弓枝
蛇を刺す蛙 陣出達朗
絵師の死ぬとき 伊藤桂一
終りのない階段 北原亞以子
浮世絵の女 笹沢左保
からくり富(夢裡庵先生捕物帳シリーズ) 泡坂妻夫
落ちた玉いくつウ 佐藤雅美
むかしの男 池波正太郎
平蔵が江戸を留守にしている間に、妻の久栄の元へ、20年前に久栄の操を散らした近藤勘四郎からの文が届く。だが、勘四郎の狙いは久栄ではなく、お順を勾引す事にあった。
人気シリーズ「鬼平犯科帳」の余話的物語で、平蔵と久栄が夫婦になった経緯が描かれている。
主要登場人物
長谷川平蔵...前火付盗賊改方長官、現無役
久栄...平蔵の妻
辰蔵...平蔵の嫡男
近藤勘四郎...浪人
佐嶋忠介...付盗賊改方与力
酒井祐助...付盗賊改方同心
山田市太郎...付盗賊改方同心
お順...平蔵の養女、盗賊助次郎の娘
おすめ...茶見世の老婆
鬼灯遊女 村上元三
見世すががき
桃色の扱帯
女郎の達引
花魁道中
吉野屋佐兵衛に誘われ吉原に出向いた加田三七は、偶然にも花魁九重の自刃に関わり合う。だが、調べを続ける内に、明らかになる九重の死の謎。
絡繰りは単純だが、丁寧に死因を探り、吉原の仕組みや町並みが明確に記されている。
主要登場人物
加田三七...南町奉行所定廻り同心
お民...三七の妻
吉野屋佐兵衛...日本橋石町呉服問屋の主
清五郎...日本橋銀町の岡っ引き
幸助...本所石原町の岡っ引き
勘助...吉原大まがき大黒屋の主
治平...大黒屋の妓夫
大淀...大黒屋の花魁
七種粥 松本清張
七草粥を食べた大津屋では、主の庄兵衛始め奉公人まで、酷い吐き下しで、庄兵衛と番頭の友吉夫妻が命を落とす惨事に見舞われた。そして店はお千勢が仕切る事に。
後味の悪い、怖い話である。やはり男性が書いただけあり、忠助の残忍さには胆が冷える思いである。
サブに「人情捕物帳傑作選」とあるが、この作品は、岡っ引きが事件を解決しながらも、名もなく単に岡っ引きと記されており、捕り物話と言うより、ミステリー色が濃い。
主要登場人物
大津屋庄兵衛...日本橋堀留関東織物問屋
お千勢...庄兵衛の後妻
忠助...大津屋の手代→番頭
お絹...忠助の女房
丑六...人足
さいかち坂上の恋人 平岩弓枝
旗本石川八十之助が、家宝の短刀を札差に渡してしまい、取り戻す策はないかと持ち掛けられた根岸肥前守鎮衛。それを聞いて隼新八郎は、探索を進めるが、次第に札差の板倉屋、同じく大口屋と石川家の因縁が明らかになる。
タイトルの「さいかち坂上の恋人」は、若かりし頃の根岸肥前守鎮衛の思い人が住まっていた場であり、札差と旗本の因縁を探るうちに、その小町娘だった思い人が、とんでもない意地悪な婆さんになってしまっていた。
月日の流れを感じさせる話で締め括っているが、わざわざ根岸肥前守鎮衛を持ち出すなら、「耳袋」に触れても良かったのではないだろうか。
主要登場人物
根岸肥前守鎮衛...南町奉行
隼新八郎...肥前守鎮衛の養子
お鯉...肥前守鎮衛の傍使え
石川八十之助...神田駿河台の旗本
板倉屋仁兵衛...蔵前札差の主
お道...仁兵衛の娘
大口屋新左衛門 蔵前札差の主
鈴木九太夫 旗本
大久保源太 南町奉行所定町廻り同心
蛇を刺す蛙 陣出達朗
根津権現門前の岡場所大和田の女郎のおろくが、不忍池に上がった。岡っ引きの新五は、下手人は黒沢岩十郎であると目星を付ける。
気っ風の良い江戸の岡っ引き捕り物劇と言えるだろう。新五、長兵衛の岡っ引きコンビが粋で良い。
主要登場人物
銀次...魚屋
お艶...根津権現門前の岡場所大和田の女将
おつる...大和田の女郎
おみよ...おつるの妹
朝吉...建具職人
黒沢岩十郎(まむしの岩十郎)...南町奉行所同心
新五...駒形の岡っ引き、大場伝蔵の小者
長兵衛...花川戸の岡っ引き
絵師の死ぬとき 伊藤桂一
元は根津の浜吉とまで唄われたが、十手を返して風車売りを生業としている浜吉。そこに、朋友喜助の手下の留造が、絵師の玉村朱蝶殺しの手助けを求めやって来る。次第に岡っ引き魂に火の付く浜吉の見事な冴えが光る。
女流作家の場合、大方は推理が見事に犯人を誘き出すといった結末だが、伊藤桂一氏は、推理の裏を留造にきちんと取らせている。物語は淡々と進み、山場はないが、きっかりと人情も取り入れ、大人の作品と言えるだろう。
主要登場人物
浜吉...風車売り、元根津の岡っ引き
留造...岡っ引き小日向の喜助の手下
お時...浜吉の女房
松太郎...浜吉の息子
玉村朱蝶...浮世絵師
丹次、卯助...盗賊闇烏の一味
終りのない階段 北原亞以子
怠け者の父親や、男にだらしない出戻りの姉、身形に構わない母親。そんな暮らしから抜け出したいおつやは、おあきとの縁組みの決まっている正六を奪い取るのだった。
「終りのない階段」とは、正に女の飽くなき欲望を描いている。
主要登場人物
おつや...新銭座町の長屋の店子、縫子
おあき...新銭座町の長屋の店子、大工の娘
爽太...露月町の岡っ引き、鰻屋十三川の入り婿
正六...歯磨売り
浮世絵の女 笹沢左保
巷を賑わす浮世絵美人のお染の噂は引っ切りなしだが、伊勢屋に奉公するお秀から、店の娘がそのお染と恋仲であると、耳にした源太。その矢先にお袖が陵辱された惨たらしい屍となった。
同性愛からの意外な結末は斬新ではあるが、物語に関連性のない登場人物の多さと、その説明が曖昧で、読み下すの難義した。
主要登場人物
源太(音なしの源) 湯島居酒見世春駒の主、岡っ引き回向院の文次郎の手下
お小夜...源太の女房
お秀...大伝馬町太物問屋伊勢屋の女中
紅川玉幸...浮世絵師
お袖...佐野屋千之助の娘
お染(清三郎)...浮世絵のモデル、紅川玉幸の弟子
からくり富 泡坂妻夫
百両が当たる富突きに田誰もが夢中になっている。庄太も当たったなら、諸国を旅しながら俳句を読みたいと願っていた。
江戸時代の富突きを知る上では、申し分ない説明である。だが、やはり物語と直接関係ない人物が多く、前項の笹沢左保氏と良く似ている。
主要登場人物
俵助...東平野町料理屋青馬の主、岡っ引き
千代...俵助の娘
源七...俵助の手下
富士宇衛門(夢裡庵)...北町奉行所同心
文治...大工
お竹...文治の女房
庄太(蕉翁)...霊巌島石屋川喜多の息子
増蔵...鉾寺の僧侶
落ちた玉いくつウ 佐藤雅美
火事で両の親と店屋敷を失ってしまったお喜代。だが母親から生前に、古銭150両が地内に埋まっていると聞かされていた。その古銭と土地の価格を巡り、河内屋が
噛んでいると、藤木紋蔵は内状を探る。
正直、作者は何を言いたかったのだろう? 登場しなくても十分物語は成り立つに関わらず、名前だけの登場人物や、話の筋も純粋に生きるお喜代を助け、腹黒い河内屋を暴こうとする同心の話だが、ぴんとくるものがなかった。
主要登場人物
藤木紋蔵...南町奉行所例繰方同心
三宅勝之進...南町奉行所吟味方下役同心
坂田源吾左衛門...南町奉行所吟味方与力
沢田六平...南町奉行年番方与力
お喜代...瓦町油問屋河内屋の娘
繁次郎...札差伊勢屋手代
余談だがカバーのイラストの女性。右の袂に片方だけの襷を掛けているが、襷の向きが逆。これでは何ら役にたたない。それとも左利き?
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