うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

理屈が通らねえ

2012年10月16日 | ほか作家、アンソロジーなど
岩井三四二

 2009年 7月発行

 苦労して解いた「十字環」に、上方の算法者が新しい解き方を示した事から、手に入れる筈だった名声を失った二文字厚助。
 この世の中で、算法にかかわることだけは、理屈を通さねば気がすまないとばかりに、件の算法者・安藤曲角を追って、仇討ちならぬ算法討ちの旅に出る。

山を測れば

算法合戦

賭けに勝つには

渡世人の算法

まるく、まるく

虫食い算を解く娘

ぶった切りの明日

水争い

十字環の謎 計9編の短編集

山を測れば
 算法の指南を受けたいと聞き及んだ鵜ノ宮村だったが、厚助が訪った時は、鷹爪山の境界を巡って、中貫村と一触即発の真っ最中。早々厚助は、山の測定をし、均等割を考案するも…。

舞台
 常陸国猿島郡
主要登場人物
 二文字厚助...江戸算法塾長谷部塾の高弟、旗本の三男
 茂左衛門...鵜ノ宮村の庄屋
 おたえ...庄屋の下女

算法合戦
 宿場での人場を助ける務めの助郷に、懸かった費用の算出を巡り、糸居村と金杉村が睨み合っていた。どちらの算出が正しいか仕合で決着を付けると言う。
 厚助の計算により、金杉村の間違いが明らかになったが、喜ばれるどころか、間が悪かった。

舞台
 下総国結城郡
主要登場人物
 二文字厚助...江戸算法塾長谷部塾の高弟、旗本の三男
 高品忠兵衛...糸居村の庄屋
 本庄半右衛門...金杉村の庄屋
 よし...忠兵衛の娘

賭けに勝つには
 寺の三男の梅吉が、博打の負けが込み、厚助へ救いを求めた。応じた厚助だが、木乃伊取りが木乃伊となり、すっからかん。そのまま寺にも戻れず…。
 
舞台
 常陸国新治郡
主要登場人物
 二文字厚助...江戸算法塾長谷部塾の高弟、旗本の三男
 梅吉...新郷村草本寺の三男


渡世人の算法
 草鞋を脱いだ宿の主・橘屋甚五郎が遺骸で見付かった。状況から下手人は、内部の者と思われる。一家の二大勢力である留吉と鉄蔵に挟まれ、厚助は下手人探しに頭を捻る。

舞台
 下総国銚子街道
主要登場人物
 二文字厚助...江戸算法塾長谷部塾の高弟、旗本の三男
 梅吉...常陸国新治郡新郷村草本寺の三男

 留吉...滑川村旅籠博打場主の橘屋甚五郎の手下
 鉄蔵...橘屋甚五郎の手下
 お梶...橘屋甚五郎の娘

まるく、まるく
 元番頭に商いを乗っ取られ、酒屋の株も渡した高沢仁右衛門の娘に、あろうことか、件の造り酒屋の元番頭の息子・善太郎が懸想している。善太郎の夜這を阻止した厚助は、思わぬ争いに巻き込まれる。

舞台
 下総国香取郡
主要登場人物
 二文字厚助...江戸算法塾長谷部塾の高弟、旗本の三男
 梅吉...常陸国新治郡新郷村草本寺の三男

 高沢仁右衛門...佐原新田の元造り酒屋の主
 いずみ...仁右衛門の娘
 善太郎...造り酒屋の嫡男

虫食い算を解く娘
 送り状に書かれた荷の数量と単価が滲んで読めなくなった事から、船への積み荷を巡り、大坂屋と泉州屋が大もめになっていた。代金総額から、双方の積み荷の数を算出して欲しいと頼まれた厚助。

舞台
 下総国香取郡
主要登場人物
 二文字厚助...江戸算法塾長谷部塾の高弟、旗本の三男
 梅吉...常陸国新治郡新郷村草本寺の三男

 大坂屋紋右衛門...小川宿河岸問屋の主
 三次...紋右衛門の嫡男
 お玉 紋右衛門の娘

ぶった切りの明日
 浜納屋仁右衛門の元に、目指す宿敵・安藤曲角の足跡を確認した厚助だったが、折しも網元と水主が前借りの利息を巡り大紛争の最中。聞けば、網元の不正を暴いたのは安藤曲角と。

舞台
 下総国銚子垣根河岸
主要登場人物
 二文字厚助...江戸算法塾長谷部塾の高弟、旗本の三男
 梅吉...常陸国新治郡新郷村草本寺の三男

 浜納屋仁右衛門 網元
 長次郎...江戸京橋太物問屋の嫡男(勘当)、干鰯問屋三河屋の奉公人

水争い
 泉谷の湧き水の分配を巡り、隣接する泉村、新田村、有明村が三つ巴になっていた。厚助の案で収まりが付くかと思われたが、それが関東公方家の家臣の末裔を名乗る高田衆の逆鱗に触れ、梅吉が攫われてしまう。
 
舞台
 上総国泉村
主要登場人物
 二文字厚助...江戸算法塾長谷部塾の高弟、旗本の三男
 梅吉...常陸国新治郡新郷村草本寺の三男

 儀右衛門...庄屋
 吉左衛門...百姓代


十字環の謎
 漸く安藤曲角の足取りを掴んだ厚助。早々に訪なうが、曲角に逃げられてしまった。ここで逃しては…。どいうやら曲角は、佐倉藩からの追ってと勘違いしていたようだ。二人は術式の試合に挑む。

舞台
 房州寒川村
主要登場人物
 二文字厚助...江戸算法塾長谷部塾の高弟、旗本の三男
 梅吉...常陸国新治郡新郷村草本寺の三男

 安藤曲角...上方の算法者

 二文字厚助は、全く持って濡れ衣で村を追い出されたり、危うい事に巻き込まれたり…。決して己から揉め事を起こす質ではないのだが、気が付けば渦中の中心に追いやられているといった具合の間の悪い主人公である。
 主人公は、ずんぐりむっくりの小太りで、丸い顔に円い鼻。容姿もぱっとしないばかりか、旗本の三男の冷や飯食い。養子先もなく、宛のない先行き。旅先で妙齢の美しい女性と出会っても、惚れられる事もない。
 時には自ら挑んだ博打ですっからかんになったりと、真に持って、言うなら貧乏籤を引き易いのだが、ただ、男気はある。梅吉始め、高田衆など、見捨てはしないのだ。それも、優しい素振りで如何にも良い人です。ではなく、凛として正義を貫く公平さである。
 「理屈が通らん」。村を離れながらこう思ってみたり、相手に対して話が通らなかったりと、散々な目に合いながらも、宿敵・安藤曲角を追うのだが、その足取りも、当初は陸奥辺りまでを念頭に入れていたにも関わらず、下総や房州、常陸を行ったり来たりで、一向に江戸からそう離れない辺りも、この主人公らしい。
 最もこれは、厚助のせいではなく、曲角の方の問題ではあるが…。
 算法の方程式を国語体で読むのは、骨が折れるが、これを書いた作者は骨が砕ける思いだっただろう。何せ、文章を書くのとは反対の脳まで、総動員なのだから。
 こちらも、右脳左脳を存分に働かせてはみたものの、難しくて理解出来ない算法、多々あり。
 それでも、その部分をさらりと読み流しても、主人公の奮闘と、理不尽さに憤慨する様子は面白い。
 最も、作者は算法の術式を読んで欲しいと思うが。




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