うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

きりきり舞い

2012年10月15日 | 諸田玲子
 2009年9月発行

 酒浸りで奇人の父親を持った事から悩みが絶えず、自らの婚期も逃しつつあり、焦りながらも玉の輿を夢見る十返舎一九の娘・舞と、葛飾北斎の娘・お栄らによる痛快人情コメディ。

奇人がいっぱい
ああ、大晦日!
よりにもよって
くたびれ儲け
飛んで火に入る
逃した魚
毒を食らわば 長編

 小町娘と褒めそやされている舞だが、大酒呑みで奇人の父・十返舎一九に縁談をぶち壊さる事数度。今度こそはと意気込んだ仏具屋の若旦那との縁組みも、旗本の若様とのそれもしかり。しかも押し掛け弟子の浪人・今井尚武に至っては何時の間にやら舞の許嫁気取りである。
 それだけでも手一杯の舞の元に、婚家を飛び出した葛飾北斎の娘で、こちらも変人のお栄が転がり込んで…。
 
 長編と位置づけたが、短編集としても良いと思える。
 破天荒な父の一九を反面教師に、まっとうな幸せを掴みたい舞と、相反し、変人の北斎に劣らぬ変人ぶりのお栄。全く持っておかしな友情がある。
 何と言っても、お栄の一挙手一投足に笑わされる。勿論、こんな人が身近に居たらたまらないのだが。
 お栄が、絵を描くのに邪魔になった小袖の袖も襦袢の袖も引きちぎり、袖無しの小袖姿になった件のシーンは大笑い。そんな姿でかつ風邪を引いた為に天狗のように真っ赤な顔で走る姿が目に浮かぶようである。
 そして、いけずうずうしい、自称一句の弟子・今井尚武。人の良い、明け透けな浪人像が浮かぶ。
 そして、楽しいだけでは終わらせずに、舞は、一九の過去を知り、これ程に縁組に頑な姿勢を取った父と心を通わせるなどのスパイスも盛り込んでいるのだ。
 それにしてもまあ、ハチャメチャな家族であり、表題どおりに舞の「きりきり舞い」振りが楽しいライトタッチの小説である。

主要登場人物
 舞...十返舎一九の娘
 十返舎一九(駿河屋藤兵衛、与七、幾五郎、重田貞一)...戯作者
 えつ...一九の4番目の女房
 お栄(葛飾応為)...葛飾北斎の娘、浮世絵師
 葛飾北斎...浮世絵師
 こと...北斎の2番目の女房
 南沢等明...お栄の亭主、絵師
 今井尚武...駿府の浪人、旗本小田切家元家臣
 蔦屋重三郎...地本問屋耕書堂の主
 森屋治兵衛...地本問屋錦森堂の主
 野上市之助...旗本の嫡男
 勘弥...藤間流の踊りの師匠



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