うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

きずな~時代小説親子情話~

2012年10月21日 | ほか作家、アンソロジーなど
宮部みゆき、池波正太郎、高田郁、山本周五郎、平岩弓枝

 2011年9月発行

 血の繋がり、または共に歩んだ年月。細谷正充選による、5人の作家が描いた、切っても切れぬ親子の絆のアンソロジー集。

鬼子母火 宮部みゆき
この父その子 池波正太郎
漆喰くい 高田郁
糸車 山本周五朗
親なし子なし 平岩弓枝 計5編のアンソロジー

鬼子母火 宮部みゆき
 酒問屋伊丹屋の神棚から火が出た。幸いに番頭の藤兵衛が直ぐに気が付き、大事には至らなかったが、焼け残った注連縄から髪の毛が見付かる。
 母親から我が子への、強い愛情を感じる一編。

主要登場人物
 藤兵衛...酒問屋伊丹屋の番頭
 おとよ...伊丹屋の女中頭
 おかつ...伊丹屋の女中

この父その子 池波正太郎
 多額の借財を抱え、自ら質素倹約に務める松代藩藩主(当初は齢五十にして跡目)の半生を描く。藩主跡目とは名ばかりの余りの苦役に、御用達商人の三倉屋忠蔵が気晴らしに誘い出す。
 血の繋がりよりも、各々の資質を唱った作品。心持ちの善し悪しを問う。
 信弘の生活振りがほろ苦い。

主要登場人物
 真田蔵人(後伊豆守)信弘...信濃国松代藩藩主
 三倉屋徳兵衛...松代藩御用達商人
 三倉屋忠蔵(後徳兵衛)...徳兵衛の跡取り
 駒井理右衛門...松代藩江戸留守居役
 大沢源七郎...忠蔵の親

漆喰くい 高田郁
 重い病いのふちにある母親が、うわ言の用に呟く「豆腐」なる食べ物を、せめて一口食べさえたいと、ふみは思うが、折しも倹約令の真っ最中。百姓が豆腐を食する事は御法度とされていた。
 母を思う娘の智恵と、それを助ける大人たち。「渡る世間に鬼はなし」を思わせる作品。物語に悪人は出てこず、誰もが情の深い良い人であった。
 代官の鷹揚な裁で幕を閉じるが、最後のひと言は余計なのでは…。

主要登場人物
 ふみ...中落村の百姓娘
 いね...ふみの母親
 久左衛門...中落村の庄屋
 お才...内藤新宿豆腐屋の女将
 大河内八郎左衛門...中落村の代官

糸車 山本周五朗
 貧しい養家で病いの養父と幼い義弟との暮らしの為に内職をする高。実家が豊かになった事から、実父母が引き取りたい胸を申し出た。
 血よりも濃いものがあった。養父・啓七郎の思いと、高の判断には、さらさらとした身体を清めるような涙がほろり。
 収録中、最も好きな作品である。

主要登場人物
 依田高...啓七郎の義娘
 依田啓七郎...信濃国松代藩士
 依田松之助...お高の義弟、啓七郎の嫡子
 西村金太夫...信濃国松本藩士、高の実父
 西村梶...金太夫の妻、高の実母

親なし子なし 平岩弓枝
 望まれて大店に嫁いだ志乃であったが、亭主の吉兵衛は情に薄く、また成さぬながらも生まれ落ちてから手塩に掛けて育てた市太郎は、いっぱしの遊び人となり、金の無心で志乃を悩ませる。
 人とは、氏育ちではなく、本人次第。志乃とは全く正反対の母親ながら子は立派に育ったおさき・幸吉とを対比させながら、事件が起きるが、奉行の鷹揚な裁決が下る。ラストはほっと胸を撫で下ろす事が出来た。

主要登場人物
 三河屋吉兵衛...日本橋本石町呉服商
 志乃...三河屋の内儀
 市太郎...志乃の義息子、遊び人
 幸吉...仕立職
 おさき...幸吉の母親、水茶屋女給
 


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