しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

ブラックアウト オールクリア1・2 コニー・ウィリス著 大森望訳 早川書房

2017-09-10 | 海外SF
感想書く本がたまっていたこともあり(今もたまっていますが….)読む時間長い本がいいかなぁということもあり大長編である本作を手に取りました。

最近(21世紀)のSFは定番のSF作品を読了してから手に取ろうと思っているのであまり手に取らないようにしているのですが、本作は2010年刊行とばりばりの「21世紀SF」です。
‘12年ローカス誌21世紀ベスト長編16位、2011年のヒューゴー・ネピュラ・ローカス三賞受賞作です。

タイトルは「ブラックアウト」「オールクリア」と一応分けられていますが内容的には両方合わせて1編となっています。(賞も合せて取っています)

ウィリスのタイムマシンもの=オックスフォード史学部ものは「ドゥームズデイ・ブック」「犬は勘定に入れません」を読了していますが、本作はその後に起きた事件という設定です。
「続編」ではないので前二作を読まなくても楽しめと思いますが、エピソードやら登場人物やらの関係上読んでおいた方がより楽しめるとは思います。

前記長編2作に先立つ史学部ものの最初の作品「空襲警報(旧 訳名:「見張り」」という短編があり、本作で出てくる第二次世界大戦中のイギリスのセント・ポール大聖堂に降下しています。
こちらのエピソードは作中頻繁に引用されるので読んでおいた方が楽しめるかもしれません。(私は本作読了後に後付けで読みました)
内容的に本作で史学部ものはラストになるかと思いますので、起点に戻る感じで循環させてきれいにシリーズ終わらせているように思いました。

本作は現在どちらも最近ハヤカワで文庫化されていますが、「ブラックアウト」は文庫だと上下分割されているのでどうもかさばりそうなので、両作ともハヤカワSF版で入手しました。

「ブラックアウト」はブックオフで発見し購入。


「オールクリア1、2」はamazonで新品買いましたー。


とにかく....長い(笑)-「ブラックアウト」=737ページ「オールクリア」1=480ページ、2=485ページ すべて2段組みで1700ページですから...。

内容紹介(amazonより)
ブラックアウト
2060年、オックスフォード大学の史学生三人は、第二次大戦下のイギリスでの現地調査に送りだされた。メロピーは郊外の屋敷のメイドとして疎開児童を観察し、ポリーはデパートの売り子としてロンドン大空襲で灯火管制(ブラックアウト)のもとにある市民生活を体験し、マイクルはアメリカ人記者としてダンケルク撤退における民間人の英雄を探そうとしていた。ところが、現地に到着した三人はそれぞれ思いもよらぬ事態にまきこまれてしまう……続篇『オール・クリア』とともにヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞の三賞を受賞した、人気作家ウィリスの大作。

オールクリア1
2060年から、第二次大戦下のイギリスでの現地調査に送りだされた、オックスフォード大学の史学生三人--アメリカ人記者に扮してドーヴァーをめざしたマイク、ロンドンのデパートの売り子となったポリー、郊外にある領主館でメイドをしていたアイリーンことメロピーは、それぞれが未来に帰還するための降下点が使えなくなっていた。このままでは、過去に足止めされてしまう。ロンドンで再会した三人は、別の降下点を使うべく、同時代にいるはずの史学生ジェラルドを捜し出そうとするが……前篇『ブラックアウト』とともにヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞したウィリスの大作。

オールクリア2
第二次大戦下のイギリスで現地調査をするため、過去へとタイムトラベルしたオックスフォード大学の史学生三人--マイク、ポリー、メロピーは、未来に帰還するための降下点が使えないことを知り、べつの降下点を探そうとしていた。だが、新たな問題も発覚した。ポリーがすでに過去に来ていたため、その時点までに未来に帰還できないとたいへんなことになる。史学生が危機に陥ったときには救出しにくるはずのダンワージー教授、万一のときは助けにいくとポリーに約束したコリンは、はたしてやってくるのか……前作『ブラックアウト』とともにヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した二部作、ついに完結。


読後の感想、稀代のストーリーテーラー コニー・ウィリスの作品だけあり、とにかく先が気になる展開で寝る間も惜しむ勢いでぐいぐい読んでしまいました。

おかげで溜まった感想を書く時間をあまり与えてくれませんでした。(笑)

本作のネットでの感想を読むと「長くて途中であきらめた」人もけっこういて、確かに「ブラックアウト」前半の展開は遅く、どうどうめぐりな感もありちょっとつらいとは思います。
まぁこの作者の特徴ですが…。

ただそこを乗り越えれば素晴らしく楽しい時間と感動が味わえると思います。
どうどうめぐりも、ボドビン姉弟とアイリーン(=メロピー)との死闘(?)も後でちゃんと意味があることがわかりますのでそこはウィリスの作家としての力量を信じて読み続けることをお薦めします。

私は「オールクリア2」の終盤、新幹線の中で読んでいたのですが涙が滲んで止まらず困りました....。

と手放しに褒めているようですが、反面史学性三人が閉じ込められた理由のご都合主義と非理性的なところ、なにやら押しつけがましく感じた倫理観には戸惑いました。
また「感動」はするのですが....子どもの描き方やらなにやら紋切型かなぁとは感じました。
その分真正面から主題に当たっているともいえるのかもしれません。

本作は2001年9.11のアメリカ同時多発テロが原動力のひとつになってコニー・ウィリスが10年の歳月を費やして書いた作品とのことなのでその辺も影響あるのかなぁ…。

ということで最高のエンターテインメント作品だとは思うのですが小説としては「ドゥームズデイ・ブック」「犬は勘定に入れません」の方が「上かなあ」という感じです。

史学性たち三人が第二次世界大戦中のイギリスという空襲もあってかなり危険な時代に閉じ込められた理由は、途中から物語中最大の「謎」としてミステリー仕立てで展開されるのでとても明かす気になりませんが….。

本作で何回も出てきたアガサ・クリスティ、その中でも一番言及が多かったのが「オリエント急行殺人事件」(アメリカ版ではタイトル「カレー行特急殺人事件」らしく作中何回も出てきます)を本作読後に読んでなんとなく納得したのは「オリエント急行殺人事件」を読書中「うすうすそうかなぁ」と感じながらも「まさかそんなバカな謎ときミステリーでやらないだろうなぁ」というのを本作でも踏襲しているのでは?と感じました。

「手だれのウィリス」ですから主題をそのまま「謎」にするような書き方ではなくもっとぼやかした展開にもできたような気もするのですが…。
本作ではあえて真向勝負に来た感じです。

メインの謎以外にも1700ページの間、三人の主人公のさまざまな時での活躍がカットバックで描かれ、どこでどうつながっていくのか?どうなってしまうのか?気になる構造になっています。

3人の名前も違っていたり、どの「降下」時点の場面か説明一切ないのでかなりわかりづらいのでこれで挫折する人もいるかもしれません….。

とくにマイク(=マイケル)の活動はわかりにくかった....。

相当なネタバレですが...第二次世界大戦中のイギリスに2回降下しているのはポリーだけでマイクとアイリーンは1回のみです。

ポリー、マイクは八面六臂の活躍をするわけですが、最後まで読むとアイリーンの強さ・すごさがしみじみと伝わってきます。
(思い出しただけで涙腺が....)

脇役陣のサー・ゴドフリー、ボドビン姉弟(両者は脇役レベル超えていますが….)冒頭ではひどい書かれようのレイディ・キャロラインの後の活躍、なんといってもアガサ・クリスティ....みんなキラリと光る活躍をしています。
(これまた涙腺が....)

あまりに真正面かつベタすぎる「謎」「ラスト」は賛否わかれるところかと思いますが、「涙腺」にはよくない(笑)作品であることは間違いありません。

あとちょっと気が付いたところ。

時を超えたカットバックの多用とイギリス軍の諜報活動、ブレッチリー・パークやチューリングが出てくるところ等、ニール・スティーヴンスンの「クリプトノミコン」を意識しているのではと感じました。

邦訳での「オールクリア」「1」の切り方、絶妙すぎました...解説にもありましたが「1」と「2」の刊行2ケ月空いて待っていた人気が狂いそうだったんじゃないでしょうか。(笑)

サー・ゴドフリーお気に入りのシェイクスピアの戯曲「テンペスト」、これまた本作の後読んだハインラインの「大宇宙の少年」のラストでも引用されています。
「大宇宙の少年」ウィリスが初めて読んだSF作品らしくお気に入りのようです。
同様に一般人が「世界を救う」話ですので、オマージュ的な部分があるのかもしれません。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
長い・・・ (木曽のあばら屋)
2017-09-11 08:11:55
こんにちは。
長いですよね。
刊行に従って読んだので、次が出たときには前巻の内容を忘れていて、
かといって読み返すのも大変で・・・困りました。

戦争を肯定的というか、前向きにとらえているのがいかにもアメリカ人ですね。
「悪い敵と戦うぞ!」で迷いなく突き進むんですね。
「反戦」という思想がどこにも出てこないのが、ある意味衝撃でもありました。
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Re:長い・・・ (しろくま)
2017-09-11 18:52:20
木曽のあばらや様 
こんにちは。

たしかに長い…ですね。(笑)
「反戦」の発想もないですが...。
「善悪を超越的な意思レベルで決めつけてしまう」のに違和感がありました。(ネタバレですが)まぁハインライン的というかアメリカ的なんですかね~。
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