しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

殺人は広告する ドロシー・L・セイヤーズ著 浅羽莢子訳 創元推理文庫

2016-06-07 | 海外ミステリ
死体をどうぞ」に続くピーター卿シリーズ第8長編です1933年刊行。

1990年英国推理作家協会ベスト22位、1995年アメリカ探偵作家協会ベスト56位にランクされている名作です。
こちらもAmazonで購入しました。

内容紹介(裏表紙記載)
広告主が訪れる火曜のピム社は賑わしい。特に厄介なのが金曜掲載の定期広告。こればかりは猛者揃いの文案部も鼻面を引き回される。変わり者の新人が入社してきたのは、その火曜のことだった。前任者の不審死について穿鑿を始めた彼は、社内を混乱の巷に導くが……。広告代理店の内実を闊達に描く本書は、真相に至るや見事な探偵小説へと変貌する。これぞセイヤーズの真骨頂。

「死体をどうぞ」で進展したように見えたハリエットとピーター卿の仲の方も気になるところなのですが本作中その件にはまったく触れられていません。

解説によると次作「ナインテイラーズ」の執筆が間に合わず、別建てで執筆していて出来上がりに満足していない本作を出版社との契約を守るためにいたしかたなく出版したらしいです、それが名作として評価されているのだからわからないものですね。
(といって「ナインテイラーズ」にもハリエットは登場していないのですが…。)

作者のセイヤーズはコピーライターとして広告会社に勤めていた経験があるらしくその経験を下敷きにしています。
執事のパンターもほとんど登場しないので本作の探偵は「ピーター卿」でなくても別に問題ないような気もしますが…コピーライターとしての才人ぶりと怪人として登場する場面のノリノリぶりはやはりピーター卿でないと無理かなぁ。

比較的オーソドックスに殺人が行われ謎解きが進行する前作までに比べ本作では、捜査対象である殺人がすでに行われてかなり経過した時点がスタートでなんの説明もなく、思いっきり広告業界に飛び込むので状況が把握できずかなり戸惑います。

その辺も広告業界のあわただしさを表現するためにわざとしたことなのかもしれませんね。

その他全般的に、殺人事件はほとんど脇に追いやられており、その背景にある事件の捜査メインに話は進むのですが主役は「犯罪」というよりも「広告業界」と当時の時代性、都市のあわただしさ、日人間性を浮き彫りにすることがメインのような展開になります。
そんなこんなの展開でミステリーーとしてどんな話だったかを記述するのは難しいのですが…。

「ミステリー」というよりも社会派サスペンスというところを狙って書かれた感もあるのでそれでいいんでしょうね。

「謎解き」メインのミステリーの可能性を拡げる実験作として1930年代に書かれた作品としては新鮮なものだったかもしれません。

ただし現代に生きる私としては素直に「新鮮味」は感じられなかったのは正直なところですが1930年代英国の近代性とピーター卿のテンションの高さが印象に残りました。

特に夜ダイアン・デ・モリーの前に現れるときのピーター卿のテンションの高さは素晴らしいかったです。

クリケットでムキになっているのもなかなか(笑)

でもラストで殺人事件の犯人をあのように処理しちゃうのはどうだか….。
人命に関する観念は少なくとも現代より薄かったんでしょうね。

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死体をどうぞ ドロシー・L・セイヤーズ 浅羽莢子訳 創元推理文庫

2016-04-16 | 海外ミステリ
ピーター卿シリーズ第7作です1932年刊行。

第6作「五匹の赤い鰊」を読んだのが一昨年の終わり頃ですからピーター卿シリーズを読むのも1年以上空いてしまった…。
直近SFを続いて読んでいて少し飽き気味でしたので手に取りました。

レッド・マーズ」を読んでいる途中で読みたくなり、現在絶版になっているためAmazonで古本を注文し入手。

前作「五匹の赤い鰊」からの長大路線を受け継ぎ600ページ以上の大作です。
今年(こそ)はピーター卿シリーズ(長編全11作)読了したいと思っていますが、全部読んでしまうのもなんだかさみしいような…。

内容紹介(裏表紙記載)
探偵作家のハリエットは、波打ち際に聳える岩の上で、喉を掻き切られた男の死体を発見した。そばには剃刀。見渡す限り、浜には一筋の足跡しか印されていない。やがて、満潮に乗って死体は海に消えるが……? さしものピーター卿も途方に暮れる怪事件。本書は探偵小説としての構成において、シリーズ一、二を争う雄編であり、遊戯精神においても卓越した輝きを誇る大作である。


毒をくらわば」で登場したハリエット・ヴェイン再登場です。
ピーター卿から熱烈なプロポーズを受けているようですが、事件後人気探偵作家となっているハリエットはピーター卿を憎からず思いながらも「助けられた」という意識もあり素直に受け入れることができません。

推理小説とはいいながら、そんなピーター卿とハリエットの微妙なやりとりと心の動きが全編にわたって繰り広げられます。

そうはいってもピーター卿シリーズですのでストレートな恋愛小説とはならずに、ハリエットが探偵小説作家であるという設定を利用してのメタフィクション的な展開やら、謎解きをめぐるハリエットとピーター卿のやり取りの場面の描写にはあれこれ工夫が施されており楽しめます。
時にはとてもユニークに時には真剣に。

海辺を二手に分かれて証拠を探す場面などいかにもセイヤーズが楽しんで書いていそうです。
とはいっても二人で協力して暗号を解く場面辺りはあまりにマニアック過ぎて飛ばしましたが....。

推理小説としてはピーター卿の推理が何度もひっくり返されながら、事実に近づいていく展開になっていてモヤモヤさせるわけですが、中盤くらいには「メイントリックはこうだろうなぁ」というのは現代の刑事ドラマなど見慣れている人には想像がついてしまうのではないかと思います。
「謎」そのものよりももっともらしい「仮説」もいかにあやふやなものかというのを楽しむ作品と思います。
ある意味誰が犯人でもいいような書き方で推理小説に詳しくないのでいい加減ですが「パズラーではあるけれどもフーダニットではない」という分類になるのでしょうか?
解説でも「この時期から単なる犯人当てでない推理小説が書かれてきた」というようなことが書いてありました。
様式としても前半は「死体なき殺人」的展開で(私中盤まではこっち側がメイントリックかなぁと思ってしまっていました)暗号解読やアリバイ崩しにいろいろ盛りだくさんにアイディアが詰め込まれています。

謎解き以外では被害者をめぐる様々な人間模様が描かれていて端役にいたるまで人物のキャラが立っていて楽しめました。
みんなどこか浮世離れした感があって不思議な感じなのがこのシリーズの魅力でしょうかねぇ。

個人的には被害者と歳の差婚をしようとしていたフローラ・ウェルドン嬢の息子ヘンリーとピーター卿の正反対ぶりが一番興味深かったです。
浮世離れしていて才能あふれながらもどこか自信なさげなピーター卿に対し、浮世の苦労をいろいろしょい込んでいてまったく解決できていないながらも自信満々なヘンリー。
どりらもハリエットにアプローチするわけですが、ハリエット的にはどちらも微妙なような…。(笑)

ちょっとしか出てこない劇場主(?)のシェイクスピア論などもなかなか楽しめました

そんなこんなで600ページ全編にわたり楽しく読むことができます。

最後の謎解きの場面は前述のとおり意外感はなかったのですが、ところどころキチンと伏線をも貼ってあったのを改めて気づき、推理小説慣れしていない私としては「なるほどねぇ」という納得感もありました。

ただハリエットの行動・心の動きの方が強く印象に残っていて、ピーター卿の印象が薄かったかなぁ…。(笑)

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五匹の赤い鰊 ドロシー・L・セイヤーズ 浅羽莢子訳 創元推理文庫

2015-01-02 | 海外ミステリ
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

本作含め4作は去年読んだものですが今年ボチボチ記事化していきます。

ピーター卿シリーズ第6作です、1931年発刊。
全10作あるピーター卿シリーズの長編もいよいよ後半戦に入ります。

前作「毒をくらわば」が347ページでしたが本作は483ページと分量も大幅に増えていますし本作から本格的にシリーズ後半戦ということなんでしょうね。
(本作以降は1-5作目までと異なり分厚くなります。)

前作でシリーズヒロインであるハリエット嬢が登場したのですが、本作では残念ながら登場しません。
本作はシリーズ中で一番のいわゆるパズルミステリーとされているらしく、シリーズ的には外伝的な話とされているようです。

なお残念ながら本作現在絶版のようです。
というわけで….でもないのですが(笑)本書もブックオフで購入。


内容紹介(裏表紙記載)
スコットランドの長閑な田舎町で嫌われ者の画家の死体が発見された。画業に夢中になって崖から転落したとおぼしき状況だったが、ピーター卿はこれが巧妙な擬装殺人であることを看破する。怪しげな六人の容疑者から貴族探偵が名指すのは誰? 大家の風格を帯び始めたミステリの女王が縦横無尽に紡ぎ出す本格探偵小説の醍醐味。後期の劈頭をなす、英国黄金時代の薫り豊かな第六弾!


題名が「赤い鰊」で釣り好きが集まる田舎町が舞台なのでてっきり魚の鰊がそのうち出てくるんだろうと思っていましたが…。
ミステリの世界では「赤い鰊」=「レッド・ヘリング」=「偽の手がかり」というのは常識のようです。
「詳しくない」のはしょうがないですねぇ…。
シリーズ一番のパズルミステリーということで、前作までの「謎解きは勢いでやっつけて、登場人物のキャラで勝負」という展開(?)と大きく違ってきます。
(本作以降の傾向は未読なのでわかりませんが…。)

そんなこんなで「ピーター卿シリーズ」としては「違和感を感じ苦手」という人もいるようです。
確かにまったく地理のわからないスコットランドの田舎町でのこみいった時刻表やアリバイトリックはかなりややこしく、私は途中から謎をちゃんと追いかけようという気がなくなりました….。

序盤でいきなり「読者への挑戦状」的な謎が出てきて最後の方まで明かされないので、これもなにやら気になってしまいます…..。

でもまぁ「わからなくてもいいや」と割り切って読みだしたら、殺害された嫌われ者の画家とその画家を殺害しそうな理由を持ちアリバイの怪しい画家が六人という突飛なシチュエーションと容疑者や地元の警察官の絶妙なキャラを結構楽しめました。

地元の警察官の捜査状況や入手した証拠・証言を細かく丁寧に書いているのがこれまでと違うところでその分ページ数も増えていますが基本的シチュエーションは前作までと同じです。
ページ数も増えていますがそれでも登場人物がキャラ立ちしており、冗長にならず読ませているところは「さすがセイヤーズ」という所でしょうかねぇ。

最後の方で警察長や警部やら巡査がそれぞれ自分の推理を展開した後、ピーター卿がそれをあっさりひっくり返し謎解きをする場面や殺人事件の捜査とは思えないノリノリでの事件再現場面などはピーター卿シリーズらしいとがった展開で楽しめました。
(謎解きの方は最初の「読者への挑戦状」の謎がキーだったりします、容疑者6人の所在が明らかになったところで犯人の検討はついたりしますが…。)

でもその他の部分はいわゆる「普通の謎解きミステリー」という感じが強く、というかこのシリーズならではのピーター卿の活躍(と苦悩)の部分は薄目でなにか物足りないような気もしてしまいました。

前述しましたが好みの分かれる作品のようですが、私の好みではないかなぁ。

でも普通に「1931年のミステリーを読む」と思えばこの時代の作品にしてはテンポもよく現代的な作品で楽しめるとは思います。
あと自転車好きにもいいかもしれない(笑)

次作以降は本作と毛色が違った展開のようなので期待して読みたいです。

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毒を食らわば ドロシー・L・セイヤーズ著 浅羽莢子訳 創元推理文庫

2014-11-01 | 海外ミステリ
ピーター卿シリーズ第5作、いよいよシリーズのヒロインかつ後にピーター卿の生涯の伴侶となるハリエット女史が登場します。

前作「ベローナ・クラブの不愉快な事件」の2年後の
1930年発刊。
これまたブックオフで見かけて購入していました。

1990年英国推理作家協会ベスト67位、1995年アメリカ探偵作家協会ベスト36位にランクインしておりシリーズの中でも評価の高い作品です。

前作辺りからミステリーを書くことに飽き飽きしていたセイヤーズは本作でハリエットを登場させピーター卿と結婚させてしまいシリーズを終わらせようとしていたというのは有名な話らしいです。
結局は終わらなかったわけですが…。

内容(裏表紙記載)
裁判官による説示。被告人ハリエット・ヴェインは恋人の態度に激昂、袂を分かった。最後の会見も不調に終わったが、直後恋人が激しい嘔吐に見舞われ、帰らぬ人となる。医師の見立ては急性胃炎。だが解剖の結果、遺体からは砒素が検出された。被告人は偽名で砒素を購入しており、動機と機会の両面から起訴されるに至る・・・・・・。ピーター卿が圧倒的な不利を覆さんと立ち上がる第五弾。

結構期待して読んだのですが…。

前作までのピーター卿シリーズと基本的骨格は変わっておらずピーター卿の軽薄キャラも「基本的には」変わっていません。
ハリエットに対するプロポーズなど軽薄の極みです....。
(死刑になりそうで獄中に居る人間に突然プロポーズしてもねぇ)
ミステリーとしても動機は相変わらずのもので、トリックもかなり強引です。
トリックの方は犯人が捨て身なのがすごいところですが…。

そういう意味では本作は4作目までのシリーズ前半の流れかなぁと感じました。
とりあえずシリーズ前半(?)の長編を本作まで5作品読んだところでの私のベストは第2作「雲なす証言」ですねぇ。

本作の評価が世間的に高いのはひとえに作者セイヤーズの分身ともいわれるハリエットの登場作だからなような….。

そのハリエットは確かになかなか興味深いキャラではありますが本作では被告人の立場で拘置所におりあまり活躍できていません。

ただピーター卿はこれまでと若干の変化を見せています。
初老に差し掛かった自分に対する戸惑いや、これまで「超人」と自認していて自分の能力にも疑いを持ったりします。
「軽薄」の鎧をまとってごまかしていた自分の姿や人間関係に対して「果たしてこれでいいのか?」と自問しだしたりもします。
ピーター卿のキャラクターがこれから変化していきそうな兆しを感じます。

そんなピーター卿に対し、前作でも登場した女友達の彫塑家フェルプスからは「あなただけは変わらないでいて」と頼まれている。
「若さ」を想い「変わらない」ことを願う気持ちはよくわかりますが....。
時の流れとともに自分も周りもそして関係も変わっていかざるを得ないわけですよねぇ。
同じピーターでもピーター・パンではいられない。(笑)

シリーズ最初からの男友達である、フレディ爵子は第一作「誰の死体?」で出会った女性と結婚することになり、パーカー警部も「雲なす証言」で出会ったピーター卿の妹メアリとの仲も大きく進展します。
時の流れを感じシリーズ通して読んでいると感慨のようなものを感じます。
いろんな意味での「変化」を感じられます。

ということで本作ではいま一つ元気のないピーター卿に対して本作で大活躍するのはピーター卿の基で働くクリンプソン嬢とその配下マーチスン女史です。
クリンプソン嬢の方はピーター卿への恋愛感情というようなものはないでしょうが、マーチスン女史はピーター卿に対する憧れ的な感情があるように描かれています。

そんなマーチスン女史がピーター卿の片想い相手のハリエットの容疑を果たすためにかなり危ない橋を渡って働きます。
なんだかちょっと可哀そうな気がしました…。
マーチスン女史にも是非幸せが訪れてほしいです。
(私的にはハリッエットより感情移入してしまった。)

また「不自然な死」で大活躍していたクリンプソン嬢は本作でも圧巻の大活躍をします。
今回の事件解決への貢献度はピーター卿よりもクリンプソン嬢の方が間違いなく上です。
降霊会の場面は笑えました。
ウィリスの「犬は勘定に入れません」での降霊会シーンは間違いなくここから取ってるんでしょうねぇ。

女性二人の大活躍によりめでたく事件は解決し、パーカー警部とピーター卿の妹メアリはめでたく結ばれそうな展開になり、ピーター卿とハリエットも順調に進展しそうな感じの大団円な感じで終わるのですが...。
この後もピーター卿とハリエットの仲はなかなか進まずピーター卿シリーズはまだまだ続くようです。

本作はかなり期待して読んだので消化不良気味でしたが...。
まぁ次作以降期待ですね。

次作から本の厚みもぐんと厚くなってますし。

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ベローナ・クラブの不愉快な事件 ドロシー・L・セイヤーズ著 浅羽莢子訳 創元推理文庫

2014-10-19 | 海外ミステリ
不自然な死」に続きピーター卿シリーズ第4作である本作を読みました。

次作「毒を食らわば」以降はピータ卿の生涯の伴侶となるヒロインハリエット女史が出てきて様相が変わってくるようなのでシリーズ前期の最終作品ともいえる作品です。
「不自然な死」の1年後の1928年発刊。

本自体はこれもブックオフで見かけて購入済みでした。

内容(裏表紙記載)
休戦記念日の晩、ベローナ・クラブで古参会員の老将軍が頓死した。彼には資産家となった妹がおり、兄が自分より長生きしたなら遺産の大部分を兄に遺し、逆の場合には被後見人の娘に大半を渡すという遺言を作っていた。だが、その彼女が偶然同じ朝に亡くなっていたことから、将軍の死亡時刻を決定する必要が生じ……? ピーター卿第四弾。

冒頭に老将軍が死亡していたのをクラブの人間誰もがしばらく気づかなかったというブラックな「おかしさ」(老将軍の息子がピーター卿とクラブで話していたのにねぇ)ちょうど同じころ資産家の老将軍の妹が死んでいて、内容紹介に書かれている通り死亡時刻が問題になる遺言が明らかになるまではとてもテンポよく展開されます。

ピーター卿が弁護士からこの事実を聞いた場面を読んだ瞬間には思わず吹き出しました。
(電車の中だったので恥ずかしかった…)

そこから老将軍の死亡時刻推理が始まります。

ベローナ・クラブでのドタバタやら、キャラ立ちした老将軍の息子兄弟とピーター卿のからみやら、こちらもかなりテンポよく話が展開するのはいいのですが…。
本書の半分ほどで死亡時刻が明らかになり「これって短編だったっけ?」と思ってしまいました。
「この作品この先どうするんだろう?」と心配になる中、後半が始まります。

一応新たな謎として老将軍殺害の犯人捜しが始まるのですが….。
(何か裏がありそうだなというのは前半でもわかりますし、鋭い人なら犯人もその時点で分かってしまうかもしれません)
犯人も後半始まったあたりでほぼ特定されてしまい、あとは共犯がいるかどうかを明らかにするぐらいしか謎はなくなってしまいます。

そこを謎解きというよりもピーター卿はじめ人物描写で読ませてしまいます。
それでもまぁ「面白い」のがさすがセイヤーズというところなんでしょうねぇ。

今回は様々な女性登場人物とそれらの人物と対するピーター卿とのからみや戸惑いがメインになっている感じで、これまでのある意味超然とした名探偵から次作以降は恋に悩む「人間」ピーター卿に変化していく伏線が感じられます。

ピーター卿の友人女性芸術家フェルプスとピーター卿の関係、老将軍の息子の弟の方ジョージと妻シーラの関係、個性的な容疑者アン・ドーランドの「女」を描く手際は女性作家であるセイヤーズならですね。

でも「男」の方もピーター卿と老将軍の息子の兄の方ロバート少佐とのなにげない会話なども印象に残りました。

この少佐も軍人らしくサバサバしてはいるのですが、弟宅から見つかったジギタリスを世間体やらを気にして隠そうとする少佐に対し、何も隠さずあくまでも真実を明らかにしていこうというピーター卿の姿勢には感銘を受けました。
ピーター卿いわく「隠さなければ何も恐れることはない」。
言葉でいうのは簡単ですが実際に貫き通すのは難しそうです…。
特に男は見栄やらなにやらでついつい無理してしまいますね。

ピーター卿は「軽薄」に描かれていますが、のこの辺の信念は時には悩みもしますがシリーズ通してぶれていない。
当たりはやわらかい人物設定ですがピーター卿、結構ハードボイルドな性格ですねぇ。

本作の犯人の動機もつきつめれば「見栄」やら「プライド」が原因な感じがしますし、人が死んでも「不愉快」な事件としか考えない当時のある程度の階級が集まる(男性中心)「クラブ」への批判も全編で感じました。

ジョージ夫妻の問題も、夫ジョージの「男はこうでなければ」という思い込みやら見栄やらから出てきているんでしょうしねぇ。

また、できるだけ正直・中立でありたいピーター卿でも「男」であり「金持ち」であることから完全には離れられない。
この辺自分でも気づいていてもそう簡単に治るものでもなく、葛藤があるところはピーター卿の人間的魅力かと思います。

でも作中のミステリ的設定の方は本作も前作「不自然な死」と犯人は同様の職業ですし、動機も同じく遺産がらみと結構マンネリ化している….。
次作「毒を食らわば」も現時点で読了していますがこちらも動機は遺産がらみ、犯人の職業はともかく方法は「また」毒殺です….。

セイヤーズは本作と次作「毒を食らわば」辺りでミステリーを書くのに飽き飽きしていて「もうやめようか」とも思っていたらしいです。
「謎解き」部分は結構手抜きしたのかもしれませんね。(笑)

本作、ミステリーとしては「短編」的に前半を楽しみ、後半は人間模様を楽しむ作品と感じました。

まぁ批判もしましたが読んで面白い作品ではありました。

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