テッカ(湯田伸一)の中学受験伴走記

私立・国立中学受験生を応援し続けて35年。
中学受験『エデュコ』を主宰するテッカ(湯田伸一)の応援メッセージ。

入試問題に映し出される私立学校(教師)の教育的見識

2012-03-01 16:31:20 | 中学受験


 2012年中学入試から1カ月が経過しようとしています。入試後、私を含むエデュコ・スタッフは、授業・面談・業務の合間を縫うように入試問題を確認しているところです。

 ところで、本欄においても2012年1月24日、時事問題への対応について、次のように述べました。

 定見を持つ専門家が出題する時事問題の狙いは、実際の出来事から、社会や理科の原理をどう考えるかということであり、瑣末な知識を問うものではありません。つまり、今の話題を切り口にして、「これまでに習得してきた知識や考え方」にどのように照合させるかということに他ならず、答えとすれば、「これまでに習得してきた知識や考え方」を問いただすものが圧倒的に多いといえます(瑣末な事案名や数値を答えさせる問題も散見されますが)。
 たとえば、昨年話題になった“TPP”は関税制度の問題であり、“TPP”を切り口にして、かつて国益保護のために行った「関税自主権の回復」や、現在直面する日本の「農業問題」(各産業の振興策)等を答えさせる問題として多く出題されるでしょう。
ようするに、時事問題を特殊なものとする必要はなく、これまでの学習に自信を持って、入試を迎えればよいわけです。
 (「エデュコ『時事問題特訓』の意義」 2012年1月24日)

 とりあえず、開成中学の例などで確認してみたいと思います。

<2012年開成中学社会>
 2011年3月11日に①東北地方の沖合の(1)海溝付近で起こった地震によって②大規模な津波が発生し、各地に大きな被害をもたらしました
(略)たとえば④八ッ場ダムは、巨額の(略)2011年夏の時点では、⑤ダム本体の建設工事が中断されています
 大きな議論になっている問題はほかにもあります。日本がTPPに加盟すべきかどうかも、そのひとつです。TPPは「(5)パートナーシップ協定」などと訳されています。加盟国間で⑦関税を撤廃したり、(略)⑨国内の農業関係者などからは加盟に反対する声が上がっています
 今、我々は、これからどのような社会を目指していくのかを決める、大きな別れ道に立っているのかもしれません。

問2下線部①に関連して、東北地方の沖合には、暖流と寒流が流れています。(略)海流を矢印(→)で書き込み、それぞれの海流の名称と、その海流が暖流か寒流かを(略)示しなさい。
問3下線部②に関連して、
(1)(略)この地図中に見られる海岸の地形は何と呼ばれるか、答えなさい。
(2)(略)この場所がわかめやかき等の養殖に適している理由を1つ答えなさい。
問5下線部④に関連して、八ッ場ダムの位置を次の地図中のア~カから選び記号で答えなさい。
問6下線部⑤に関連して、ダムの建設を管轄する官庁名を答えなさい。
問8下線部⑦に関連して、関税とはどのような税か、簡潔に答えなさい。
問10下線部⑨に関連して、農業関係者の団体がTPPに反対する理由を、説明しなさい。


 いかがでしょう。時事問題を切り口として、「日本の国土と自然」・「政治・行政」の基本的な知識や原理を問う作問意識は、社会科を「社会学」として位置づけ、入学してくる子どもたちを、今後、学問モードの学習に導いていく雰囲気を十分に感じさせてくれるものです。
 また、リード文の最後の件は、社会科教員としての定見がしっかりと伝わってくるようです。
 
 同様に、麻布中学は、「世界遺産」に登録された石見銀山に関連して、徳川家康による「朱印船」を用いた取引が行われていたこと、その希少性から「天領」とされたことなどや、世界遺産認定機関である「ユネスコ」を問う問題を出題しました。
 また、雙葉中学は、「昨年は、東北で大変な災害のあった年でした。」と、事実を述べたうえで、日本赤十字社等の救援活動の根拠規定である「災害対策基本法」を問う出題をしました。
このように、高く評価される私立学校の入試問題ほど、「教育」の見地に立ち作問されている傾向をかぎ取ることができます。

 これに対し、瑣末な事案名や固有名詞を答えさせる入試問題(学校)をみると、社会科を「あれを知っている、これを知っている」というような、「雑学知識」と変わらないものに貶めている気がしてなりません。
 いや、このような入試問題に見られる学校間の差異は、専門職としての見識・定見が映し出されたものと言って過言ではないでしょう。
 だとすれば、「あれが出るかも、これが出るかも」という不安に陥り、翻弄されるのではなく、受験する側が、自身の定見ともいえる学習観に合致する学校を選びとればよいわけです。
 
 本来、子どもたちに求められる学習は、雑学ではないはずです。社会科でいえば、自分の存在する現代社会を、「歴史」「地理」「政治」という、それぞれの側面から考察する訓練をしているといえます。
 真に「教育」的な見識(定見)をもって、子どもたちを施す学校を、受験する側が選別していきましょう。
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