テッカ(湯田伸一)の中学受験伴走記

私立・国立中学受験生を応援し続けて35年。
中学受験『エデュコ』を主宰するテッカ(湯田伸一)の応援メッセージ。

入試問題をじっくり研究することこそ、体系的知識と解答スキルを蓄える秘訣です

2016-12-15 22:47:49 | 中学受験


 エデュコ24期生の過去問研究も2巡目となり、確かな手ごたえを感じている子が増えてきました。
 このように言えば、「過去問と同じ問題が出るわけでもなく、さらに言えば、2度も手掛けるなんて何の意味があるのだろう」という声が聞こえてくる時があります。エデュコが「過去問研究こそ最上の受験準備法」と考える理由を、改めて確認しておきましょう。

 この時期になれば、「要領のいい知識獲得学習」として、テキストや語句暗記集などの読み込みを重ねることと考える方は少なくないようです。確かに、例えば、公開テストでの偏差値が40未満にとどまり、そもそも最低限の知識整理ができておらず、これを平均点レベルに近づける目的ならば、幾らかの改善は認められることでしょう。
 これに対して、既に平均的な得点力はあるもののさらに優位な得点力を積み増そうとすれば、実践的な問題に取り組まない限り、知識の精緻化も望めないのが実情と言えます。つまり、入試問題は、テキストや語句暗記集のような「~は、…である」という問いかけではなく、多様な文脈、複合的な設問を擁して出題されるものであり、論理づけられた理解が伴わない限り、正答まで辿りつけないものと言えます。

 一例を見てみましょう。次の問題は、平成28年度の豊島岡女子学園中入試、社会科問題の一部です。
1番 問1
下線部ア(=国会:湯田注)について説明した次の文のうち、正しいものを一つ選び、番号で答えなさい。
1.国会議員のみが法案を提出でき、先に衆議院に提出しなければならない。
2.法案は各議院において、まず委員会で審議・採決されてから本会議にかけられる。
3.衆議院で可決した法案が参議院で否決された場合、衆議院の総議員の3分の2以上で再可決すれば成立する。
4.法案の審議・採決以外にも、予算案を作成したり条約を結んだりする権限を持っている。
 いかがでしょうか。法律の制定過程を文脈づけて理解し、衆議院、参議院、内閣のそれぞれの権能を、比較対照的に理解する力量が求められているといえますね。

 このように、問題を解くことによって確かな理解に至り、知識が獲得され、確かな解答能力が備わっていくことは、社会科に限らず、すべての教科について言えることです。
 「他者の記述したテキストを、繰り返し読み込み、覚える」学習の効果は、きわめて限定的で、数日後の記憶テストには有効でも、入試には通用しない学習方法かもしれません。極端に言えば、参考書を隅々まで暗記したとしても、その理解が連鎖的・体系的でない限り、問題には答えられないということになります。
 これに対して、自分の解答過程を振り返り、改善を図ることは、エピソード記憶として留まり、知識の連鎖を作り上げ(精緻化)、確かな得点力を身に付けることと言えるでしょう。過去問演習の2巡目の目的は、過去問を覚えることではなく、1巡目の問題研究で発見した改善点を再確認することで、確かな連鎖的・体系的理解を強固にすることです。
 さらには、この連鎖的・体系的な理解を獲得することこそ、次年度の入試問題への対応策として最上のものであるに違いありません。

 上記の件は、常日頃「演習問題集」を手掛けることによって理解が深まり、連鎖的な知識が形成されるという主張と同じものです。4・5年生の方も、「問題に答える」という作業を知識の覚え確認としてではなく、理解の深化・知識の体系化という目的で行ってください。つまり、○・×をつけて何問正解ではなく、どのような理解が足りないのか、既有の知識とどう結びつけるのか、確認することを目的としましょう。

 ところで、「米アマゾン『教育 心理学部門』第1位」という帯のフレーズに惹かれて、この頃購入した『使える脳の鍛え方―成功する学習の科学』(ピーター・ブラウン、ヘンリー・ローディガー、マーク・マクダニエル著、依田卓巳訳、NTT出版、2016)(原題: Make It Stick : The Science of Successful Learning)に、「わが意を得たり」の感を得ました。
 具体的な事例をエビデンスとして結論付けた本書から、特に印象的な記述とすれば、以下の点を挙げることが出来ます。
・あらゆる分野の技術や知識を学ぶ手段として好んで用いられる「テキストの再読」と「集中練習」は、きわめて非効率だ。(略)テキスト再読と集中練習ですらすら答えが出てくると、身についた気になるが、本当に習得して記憶を持続させるには、こうした手法は時間の無駄でしかない。
・事実や概念や出来事を記憶から呼び出す「想起練習」が、テキスト再読で復習するより効果的な学習法だ。
・学習の間隔をあけて、少し忘れかけたころか、ほかの科目をいくつか挟んだあとにする。思い出すのがむずかしくなって効率が悪いように感じるが、その努力によって学習内容が持続し、あとで臨機応変に使えるものになる。
・テストを学習の手段として使うのだ。最もめざましい研究成果のひとつは、積極的な想起練習(テスト)で記憶が強化され、さらに、思い出すのがむずかしい練習ほど効果も高いということだ。
・あまり努力を要しない集中練習で学んだことは、脳の単純かつ貧弱な部分で処理されるが、多彩で普段より頭を使う練習で学んだことは、さまざまなことに対応できる柔軟な部分に組み込まれる。

 いかがでしょうか。「想起練習」を「問題演習」や通常の「ドジ問処理」、「学習の間隔」を1巡目と2巡目、あるいは、4.5年生の「季節休暇中に手掛けるドジ問」と言い換えれば、エデュコの学習スタイル(学習観)そのものということになります。
 問題演習やテストを「実力測定ツール」としてではなく、「学習ツール・理解ツール」として捉え、実力のつく学習を実行してまいりましょう。


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