『よい塾』とはどのような塾か、『合格実績』はどう読むか、このことについては、この頃、本欄や読売受験サポートで述べてきたとおりです。
このような折、エデュコ卒業生の保護者から、2月20日発売の『週刊ダイヤモンド:2月25日号』が「最強の塾&予備校」を特集としていることを知らされ、早速購入してみました。
「業界動向編」の記事には、「合従連衡」「囲い込み」「垂直・水平展開」等のキイ・ワードが目立ち、業界の覇権争いに着目する論調になっています。19社にのぼる学習塾が株式公開企業であることをふまえると、なるほど、学習塾の「業界動向」も社会の関心を引くのは当然であり、この視座における記事としては、業界動向をほぼ正確に紹介しているといっていいでしょう。
確かに学習塾といえども、ビジネスであり、各塾予備校の存亡から目が離せません。とはいえ、単なる物的な消費財の売り買いと異なり、「子どもをどのように育てるか」という、極めて、抽象的なテーマを有する需要・供給関係の上に成り立っているのが学習塾です。教育が、「人格の完成」を目的とする限り、この「人格の完成」に学習塾がどう寄与するか、という課題は忘れ去られてはならないでしょう。
個人的なことを言えば、私が講師(教室長)としてかつて所属していた学習塾は、東京23区に本部を置く学習塾として初めて株式公開を果たした塾です。株式公開のための資料である「市況分析」の作成にあたった記憶があります。株式公開後に待ち受ける「利益確保」という至上命令を考えた時、立ち向かう気力が起きず、その後、志木駅前にエデュコを開設し今日に至りました。
さて、記事の中では、経営者談も紹介されていますが、その中で、代々木ゼミナールの高宮敏郎氏の談「生徒を小学生から取り込む垂直統合といったような企業再編の戦略よりも、われわれがまず第一に考えているのは、それが生徒にとってためになることなのかどうかだ」(本誌37頁)には、一服の清涼感があります。不遜を承知でいえば、高宮氏は、原体験を有し、より子どもの立場を理解した経営者であると感じられます。
ひょっとすれば、高宮氏のような新しい世代の経営者には、「真の学習塾・予備校の価値」認識が備わっていることが期待できます。だとすれば、塾・予備校が、功利主義に基づいて評価される機関ではなく、真に、一人ひとりの子どもの「人格の完成」に寄与する機関として評価される日が来るかもしれません。
最後に、本誌「中学受験編」では、塾別の合格者数も取り上げていますが(石田達人氏作成)、52頁にある「塾別合格者のボリュームゾーン」では、学習塾の力量検証に迫る分析がされています。
個人的にいえば、常々申し上げるように、「何人の塾生が存在し、どの様な進学分布を示しているのか」にこそ塾の本質が表れると考えています。その意味で、エデュコでは毎年度「在籍者数」「合格者数」「進学者数」を公表しているのですが、業界ルールが存在するものではなく、このような観点で比較することは難しいといえます。
そのような中、石田氏の分析は、在籍者を分母としてはいないものの、全合格者を分母とし、難易度別の合格者数割合を求めるもので、各塾の指導レベルをある程度嗅ぎとることができる指標と言えるでしょう。石田氏はエデュコにも言及して下さっていますが、率直にいえば、このような、利害関係を持たない第三者によるより踏み込んだ分析評価は、意義があり、零細塾のエデュコの様な塾にとってもありがたいものです。
もちろん、客観的にも本分析は有意義であり、保護者に方々にとっても、塾選びの指標になるはずです。
(ただ、この分析にも留保がつきます。中学受験は、高校受験と異なり、実力相応校を受験しているとは限りません。進学意思の全くない学校を、練習や実力の確認として、幅広く受験することは高校受験の比ではないのが実情といえます。より真実を明らかにするものとして、個々の学習塾が、進学者分布を示してくれることを待ちます。)