つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

失踪してみました

2006-03-14 22:06:48 | ミステリ+ホラー
さて、長らく読んでいなかったが、の第469回は、

タイトル:失踪HOLIDAY
著者:乙一
文庫名:角川スニーカー文庫

であります。

短編と中編を一つずつ収録した、乙一の作品集。
どちらかと言うと、白乙一(専門用語?)は苦手なのですが、これは面白かった。
それぞれ分けて感想を述べます。


『しあわせは子猫のかたち』

他人と接することが苦手で、孤独を愛する主人公。
彼は、叔父の所有する旧家を借りて念願の一人暮らしを始めた。
空き家と思いきや、中には家具が揃っており、生活臭が漂っていた。

前の住人はつい最近亡くなったのだと叔父は言う。
家具と一緒に、家主面した猫が一匹、家の中をうろついていた。
そして、しばらくすると周囲に奇妙な現象が起こり始めた――。

光を嫌う主人公が、かすかな光に惹かれていくという……切ない系(?)の話。
メインは主人公と前の住人の接触ですが、ミステリ要素も入っています。
『未来予報 あした、晴れればいい』『CALLING YOU』に雰囲気がよく似ており、あちらが好きな方にはオススメ。

ただ……このタイプの話が好きな方には悪いのだけど、私にはピンときません。
いつものように、綺麗だけど、それだけかなって印象です。
多分、感動するところがちょっとズレているのでしょう、御容赦下さい。


『失踪HOLIDAY』

母が再婚したことで、少しばかり羽振りのいい家の子になったナオ。
しかし、わずか二年で母は病死してしまう。
まだ八歳のナオは、血のつながりのない人々に囲まれて怯えていた。

六年が過ぎても、ナオはまだ不安だった……父が再婚したのである。
再婚相手と笑顔で火花を散らしたが、状況は全く好転しない。
さらに、自分のいない間に誰かが部屋に侵入していることを知り、犯人は再婚相手に違いないと断定した時、ナオは決めた――家出してやるっ!

主人公のナオが素晴らしいです。
ジャイアンに匹敵する我が儘な部分と、他人の心に過敏に反応してしまう繊細な部分が見事に同居しており、見てるだけで楽しい。
計算高いかと思いきや、妙に抜けたところもあって、かなりいいキャラに仕上がっています。

あと、忘れてはならないのが、彼女の一時的な保護者となる使用人・クニコさん。
ちょっととぼけた感じで、気の弱いタイプ……に見えるのですが、なかなかどうして、要所要所で結構図太いところを見せてくれます。(笑)
位置的には優しいお母さん役、といったところですが……実は(真相に触れるので削除)、それでも物凄~くいい人なのは間違いないけど。

ストーリー的には、善人しか出てこないドタバタ喜劇といったところ。
居心地のいいクニコの部屋に居座るうちに、当初の目的を忘れて自分で状況を悪化させていくナオの姿は滑稽……いや、微笑ましいです。
自分の部屋に入ったのは誰なのか、家族は本当に自分を心配しているのか、父親は自分のためにどこまでしてくれるのか、確認作業の果てに迎える結末は――。

ミステリとしてはイマイチかも知れませんが、コメディとしては一級。
ナオの成長物語としてもかなりいいデキです。
何よりオチが素晴らしい……というか、個人的には『しあわせは子猫のかたち』よりこっちの方が綺麗だと思う。


白乙一が好きな方なら、文句なしにオススメの作品集です。
黒乙一が好きな人には合わない、とは言いませんが……。



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