つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

Fってなんだ?

2006-03-19 15:41:07 | 小説全般
さて、買ったあとに気になったの第474回は、

タイトル:ソラ色らせん
著者:森美樹
出版社:講談社F文庫

であります。

小さな水着姿でカメラの前で笑うマリはグラビア雑誌のモデルの仕事をしていた。
そんな仕事をしているのは、たったひとりのソラと言う男性のため。

ソラはマリが中学生のときに、北海道から来た転校生だった。
教室では一言も話さないふたりは、けれど転校してから1ヶ月もしないうちに付き合い始める。
誰にも知られないまま。

放課後、立ち入り禁止の校舎の屋上でただ過ごすだけの日常。
15歳の誕生日を迎えたマリ、まだ14歳のソラはいつものように屋上にいた。
プレゼントの赤いリボン。
風に飛ばされたそれを追いかけ、鉄柵の上に登ったソラは転落し、そのまま植物状態になってしまう。

それからずっと病院に通い続けるマリ。
8年間、23歳になったとき、ソラは奇跡的に目覚める。
あの誕生日のころの、14歳のソラのままに。

そのソラを引き取り、マリは一緒に暮らし始める。
14歳のままのソラと、14歳の自分しか見ていないソラと。
そんなマリとソラの現実を描いた作品。

……う~む、なんか作品がけっこう観念的、と言うか情動の部分にひどく入っていってるので作品紹介もなんか妙だな……。

さて、作品の評価だけど、この話はかなり男性にはつらいのではないかと思われる。
女性だと共感できるひとはすごいおもしろい、と言えるかもしれない。

それは、この作品がマリの一人称で語られてはいるのだが、内容が極めて情動的だからだろう。
情景描写と心理描写がごちゃまぜになっているだけでなく、心理描写に偏りすぎているきらいがある。
一人称の文章だから仕方がない面もないわけではないが、すべてのマリのフィルターを通したものになっているから、と言うほうが適切かもしれない。
そのせいで、情景を想像するのが困難なところが多々ある。
句読点の区切りも独特で、これも読みにくさを助長している。

文章のことを言うなら、はっきり言って、物書きならもっとよみやすさとか、考えて書いてくれ、と言いたくなるレベル。
ストーリー展開も、文章的な部分もあってひどく掴みづらいところもある。

しかし、作品そのものとしては、私はおもしろかった。
中学生のころのマリとソラ。
そして14歳のまま時間が止まってしまったソラに対する23歳のマリの姿……。
ただ不器用なマリの気持ちや行動など、とても切ない雰囲気がよく出ている。
読むひとによって、うざいと思えるキャラではあるのだが……。

また、手のひらや、自分の中にある海、らせん、空とソラ、マリービスケットの赤い箱などなど。
文章力はいかんともしがたいにもかかわらず、こうしたキーワードの扱い方はとても印象的。
作品にもよく合ってるし、マリの心理をうまく表現している。

ラストも劇的な終わり方というわけではないが、この作品に合ったラストになっている。
なので、文章が読みやすければもっとよかったんだけどねぇ。
これが残念なところ。