つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

相談者はあきらめが悪い?

2006-03-15 17:25:43 | ミステリ
さて、ミステリ三連発な第470回は、

タイトル:あきらめのよい相談者
著者:剣持鷹士
文庫名:創元推理文庫

であります。

買ってから後悔しました。
主人公は作者と同名の弁護士・剣持鷹士。
彼が自分の事務所に持ち込まれた奇妙な依頼について語り、友人の女王光輝がそれを読み解く、という流れのミステリ短編集です。

『あきらめのよい相談者』……ホテルのドアに頭をぶつけたので慰謝料を請求したい、という相談を、あちこちの事務所に持ち込む男。彼の目的は――。初手から、実にリアルな相談が登場。怪しげな相談者は避けるに限る、という、らしい描写もある。謎さえ解ければ後は興味ないというコーキ(光輝)のキャラクターも印象的。

『規則正しいエレベーター』……友人三人で飲んでいる最中、広瀬が妙な話を始めた。N階建のマンションで任意の階Kにエレベーターが停まっている確率を求めよ――。最初の数学パズルは面白かったのですが、それ以降はいまいち。関係ないけど、『やぎさんゆうびん』って歌の題名、初めて知りました。(爆)

『詳しすぎる陳述書』……楽に勝てると思っていた離婚訴訟。しかし、相手側が提出した陳述書には、思いもよらぬことが書かれていた――。これって、コーキが指摘するまで誰も気付かなかったんだろうか? というオチ。もっとも、書類というのはそういうものかも知れないとも思う。

『あきらめの悪い相談者』……朝のニュースを見て、剣持は仰天した。しばらくの間、しつこく相談を繰り返していた男が殺人を犯したというのだ。コーキは、今までの相談から殺害された人物を特定しようとする――。犯人当てではなく、被害者当て、という一風変わった趣向の作品。人が期待する弁護士像と実像の違いについて、鷹士がドライに語るのも興味深い。にしてもこの人、相談内容を喋りすぎじゃないか?

主人公を含む、登場人物の殆どが福岡弁(博多弁?)を話すのが特徴的。
ミステリとしては安楽椅子探偵物……かな、主人公は結構動き回りますが。
美人相手だと顔が緩むし、多少の偏見も持っている、妙な正義感に取り憑かれてはいないし、特に悪意があるわけでもない、普通の人々の物語です。

でも、顔見せ程度ならまだしも、作者が完全に主人公として登場するのはどうにかして欲しいです……描写もかなり生々しいし。
ミステリの一手法として伝統的に行われていることなのかも知れませんが、作中で大学時代の恋愛の思い出まで語り始めた日にはもう、呆れるしかない。
自己顕示欲が強いのは個人の勝手ですが、ほどほどにね。

一風変わった弁護士物を読みたい方にはいいかも知れません。
私は二度と読みたくないけど。