つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

未来が見える?

2005-10-25 18:56:25 | 小説全般
さて、再び乙一な第329回は、

タイトル:さみしさの周波数
著者:乙一
文庫名:角川スニーカー

であります。

お馴染み(私だけか?)、乙一の短編集です。
色々なカラーを使い分ける方ですが、果たして今回は?
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『未来予報 あした、晴れればいい』……さほど親しくはないが、家が近いことで何となく関わりがあった少女。偶然知り合った同級生に「お前ら、いつか結婚するぜ」と予言されてから、主人公と彼女はぎくしゃくし始める――。『Calling You』と同じく、綺麗だけどオチが簡単に読めるのでイマイチ乗れなかった作品。単純に好みが合わないのだろう。あと、一人称の小説すべてに言えることかも知れないが、主人公の心情に説得力がないと読んでて疑問符が付いてしまう。特にラストに至るまでの納得の仕方はかなり不自然だった。

『手を握る泥棒の物語』……魔が刺して旅館の壁に小さな穴を開け、金品を盗み出そうとした主人公。しかし、彼の掴んだ物は――。犯罪を犯そうとしたものの、悪人になりきれない主人公がなかなか可愛い。緊張感があるんだかないんだかよく解らないメイン二人の会話も楽しく、コメディとしては良品。読了後、超有名な某古典映画を思い出したが、激しくネタバレになるので割愛。ところで、子供の頃の思い出の品ってみんなずっと持っているものなのだろうか? 私はとうに無くしてしまった(薄情とも言う)。

『フィルムの中の少女』……主人公が映研の部室で見つけた古いフィルム。そこに映っていたのは――。主人公の語り口調だけで書かれた短編。ホラーの手法としては王道だが、実はこれ、ホラーじゃなかったりする。一人で全部説明して、一人で勝手に納得して、一人でオチまで付けてしまう作品というのはかなり書くのが難しいと思うのだが、にしてもラストはやっぱり強引すぎる気がする。

『失はれた物語』……一押し。敢えて粗筋は書かない。異常状況における心境の変化を描くのは乙一の真骨頂だが、それが如実に表れた作品。自分だったら? と考えてしまうのは私だけではないはず。そして逆の立場だったら?

見事に評価が二つに割れましたが、一応オススメ……かな。
乙一作品では今のところ、――。『きみにしか聞こえない』収録の『華歌』が首位独走ですが、他読んだら評価変わるかも。



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