つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

読っめるっかな♪

2006-03-03 20:55:30 | 小説全般
さて、の○ぽさんは出てこないぞの第458回は、

タイトル:女學校
著者:岩井志麻子
出版社:中公文庫

であります。

ときは大正時代。
元官吏でいまは貿易会社の支配人をしている父と優しくも凛々しい母、そして進歩的な弁護士の夫を持つ花代子は、家の中で最も好きな西洋間で、ふたつ年下の友人である月絵とともに、お茶の時間を過ごしていた。

月絵は会社の経営者へ嫁いだけれど、未だに若く、少女のような容姿をした若妻。
いつも花代子に、通っていた女学校の話をせがむ、花代子にとってはかわいらしい年下の友達。
ふたりともに裕福な家に生まれ、素晴らしい夫のもとへ嫁いだ令夫人と若妻。

あるとき、花代子は月絵に、逆に話をするように言い寄る。
ふたつ上のお姉さんとして、どこか意地悪をするように。

そして月絵の口からはき出されたそれは、とても裕福な家で籠の中の小鳥のように育てられた女性とは思えないほどの野卑で、卑賤な者が使うような言葉。
それにおののきながらも、花代子は次第に月絵が語る、様々な女学校の物語に引き込まれていく。

と、ストーリーはこんな感じ。
短編連作で、最初の「うつくしき時」から、「なやましき時」「あやしき時」「さびしき時」「むなしき時」「かなしき時」「いとしき時」「おそろしき時」「なつかしき時」「けだかき時」と、すべて花代子と月絵の、たったふたりの登場人物で話は進んでいく。

なんかこれ、けっこう好き嫌いがはっきりしそう、ってのが最初に思った。
文章は花代子の一人称で、ふたりがいる西洋間の描写や、通っていた女学校を思い出すときの表現など、各章でおなじ、もしくは同等の表現が繰り返されている。
こうしたところは、うざい、くどいと思うか、ストーリー上で効果的と思うか、分かれるところだろう。

また、すらすら読めるほうかと言うと、全体的に文章がくどいほうだし、大正時代の令夫人らしい婉曲な表現は、取っつきにくいだろう。

だが、この作品の雰囲気、そういったものは特筆に値する。
初っぱなの「うつくしき時」から、ホラーか、これは、と思ったが、けっこうそろりと忍び寄ってくる怖さがある。
アメリカ映画や日本映画の「怖い」という感じではなく、ほんとうにそろりと這い上がってくるような怖さがある。

それから、ストーリーが進むに連れて語られる月絵の話。
それに引き込まれ、まるで体験しているように語る花代子の一人称。
こうしたものと文章によって、そこに表れるものは、官能であったり、淫靡であったり、頽廃であったり、恐怖であったり、妖艶であったり、する。

こうしたものが渾然一体となって、滴る血のような、とても濃密な作風を創り出している。
これはきっと、女性作家でなければ描けない類のものだろうと思う。

しかし、そのぶん、受け付けないひとにとっては、ダメだろうなぁ。
特に男にはこれは読めないかもしれない。
……と言うか、あんまり男性には勧められないな、これ。

読みにくい文章だけど、私は結構興味深く読めた。
いままでにこういう雰囲気の作品にほとんど出会ったことがなかったこともあってか、かなり新鮮だったし。
すごいおもしろい! と言うものではないけれど、各話から薫るぞくぞくするような雰囲気を味わいたいひとは、一度読んでみてもいいかもしれない。