11月8日午後、衆院本会議で特例公債法案の審議がようやく始まった。野田は国民生活に支障が出るのを避けるため速やかに法案が成立するよう野党に協力を求めた。自民は法案処理が大幅に遅れた責任は政府・民主にあると主張、年内の解散・総選挙を改めて迫る。ある意味では無意味なやり取りと言えないこともないが、これは国会での審議開始に際しての儀式のようなもので、それ以上でもなければ、それ以下でもない。しかし、この日を境に再び回りだした歯車は一気に加速しながら進みだす。
9日の朝日新聞朝刊は1面トップ記事に「公債法案、成立見通し」の大見出しをつけて衆院を15日に通過させることで3党合意が成立したことを伝えた。また3面では野党の要求を呑み民主が予算委員会の開催にも応じる方針を決定したことを報じている。ただこの記事のリードでは「環境整備は進むが、会期末まで残り3週間。自公が求める年内解散へのハードルは、なお高い」と書き、結果論だが読みの甘さを露呈した。
しかも9日の夕刊では、また読者が混乱したであろう記事が1面トップを飾った。野田がTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉に参加する意向を固めたというのだ。その一方サブタイトルは「首相、年内解散も視野」とした。TPP交渉参加の意向はもともと野田は持っていた。が、民主が参加を一方的に決めたら野党が反発して審議はストップし、党内も分裂状態に陥ることくらい政治記者なら百も承知のはずだ。TPP交渉参加と年内解散は絶対に両立しえないテーマである。解散後の総選挙でのマニフェストに謳う意向を固めたという意味だったらあり得るが、今国会中に参加を決めたりしたら、何もかもぶち壊しになることぐらいわかりそうなものだが……。
このブログの③編で朝日新聞のお客様オフィスに10日の午後5時45分ごろ、私が今後の政局予測を申し上げ、実際ほぼその通りになったのは、些細な情報にとらわれず大局的要素以外は無視したからである。政局が最終的段階に入りつつある状況で、民主、自民ともども党内が割れているTPP交渉参加問題を野田が争点に持ち出すわけがない。朝日新聞の番記者は民主幹部に張り付いており、9日の夕刊で、TPP問題について枝野経産相が「次の選挙までに結論を出すべきだ」と個人的意見を述べたことは事実だろうし、前原国家戦略相が「TPPの交渉にも参加すべきだ。民主党が高らかにマニフェストに掲げて、選挙後の連携の一つの大きな軸にもなりうる」とやはり個人的見解を述べたことはたぶん事実だと思う。しかし、解散が近い状況になると、解散後の選挙を有利に運ぶため閣僚や閣僚級の党内実力者が、様々なアドバルーンを打ち上げ、マスコミや国民の反応をうかがおうとするのは有力政治家の常套手段である。その程度のことは政治ジャーナリストにとって常識である。政治ジャーナリストではない私ですら承知しているくらいだから……。
何度も書いてきたように野田が頑として譲ろうとしなかった「解散の3条件」は①特例公債(赤字国債)の発行②社会保障制度改革を国民の目に見える形で論じあう国民会議の設置③衆院議員数の0増5減で憲法違反状態を解消するだけでなく消費税増税という国民に大きな負担を求める以上国会議員も血を流すべきとして主張してきた比例定数の40削減(前回選挙でのマニフェストでは80削減だった)、の三つである。この三つのうち①と②は事実上合意に達しており、連立を組む公明に配慮して比例定数削減の先送りだけは頑として歩み寄りの姿勢を見せなかった自民との距離をどうやって縮めるかだけが残る段階まで漕ぎつけてきたのに、ここに来てすべてをぶち壊すような難問を持ち出すわけがないことぐらい、高校生とまでは言わないが大学生だったら容易に理解できるはずの話を、2日にわたって夕朝刊の1面トップ記事で扱った朝日新聞の政治センスが問われるべきである。
このあと書くが、まさか輿石に「最後の大逆転」を図るためのこんな手があったのかということは、私にとってまったく想定外だった)。いや私だけでなく、輿石にこんな「奥の手」が隠されていたとは、「専門家」であるはずの政治ジャーナリスト(マスコミの政治部記者を含む)や政治評論家にとっても想定外だったはずだ。というより、政治ジャーナリストとしては素人の私ですら「想定外」という認識を持ったのに、プロの政治記者がそういう認識すら持っていなかったということは、政治ジャーナリストとして「失格」の烙印を押されても仕方ないだろう。
もし私が朝日新聞のお客様オフィスにそういう意見を申し上げたら朝日新聞お客様オフィスの方はどうお答えになるだろうか。良心的な方だったら必ず「私もそう思う」とお答えになると思う。で、実際これから試してみる。実は今胸がドキドキしている。
電話に出られお客様オフィスの方は「私の意見は差し控えさせていただきます」と言われたので「皆さん、ご自分の考えを述べられますよ」とさらに迫った。その方は「お客様のご意見は今後の教訓として活かすべく担当部門に伝えさせていただきます」だった。非常に慎重な言い方だったが、事実上私の主張をお認めいただいたと思う。
さてなぜこういう手段を私がとったか。読売新聞読者センターの対応の卑劣さを改めて検証するためだった。すでにご承知の方も多いと思うが、8月15日に投稿したブログ記事『緊急告発!! オスプレイ事故件数を公表した米国防総省の打算と欺瞞』を書くに際し、読売新聞読者センターの方二人に私の考え方に盲点がないかどうかを確認すべく電話したのである。書く前に私の分析内容について聞いていただいたのは男性のスタッフ。声に聞き覚えがなかったので、春の異動で読者センターに配属された方ではないかと思う。その時の彼の発言をブログに書いてしまった(私の配慮がちょっと足りなかったことは認めるが…)。その個所を転記する。
実は昨夜読売新聞読者センターの方に私の考えを申し上げたところ、担当者は「うーん。……おっしゃる通りだと思います」とお答えになったので「読売さんの記者はまだ誰も米国防総省の計算と欺瞞性にお気づきではないようですね」と言いつのった。「そのようですね」とお答えになったので「つまり記者としては失格だということですね」とまで挑発してみたが、返ってきた答えは「その通りだと思います」だった。そこで私が米国防総省の欺瞞性を暴いてみることにしたというわけである
もう一人の方は何度も意見交換をしてきた女性の方で、ブログ記事を書き上げた後、再確認するため意見を伺った。私は名前を名乗って電話したわけではないが、その女性は「小林さんの主張は私もその通りだと思いますが、ちょっと気になった表現があります」とのご指摘を受けた。実は私もやや気にしていた個所だったが、米国防総省が仕掛けた罠とトリックにまんまと引っかかり、オスプレイの安全性を安易に認めてしまった森本防衛相に対し「アホな」という冠言葉をつけた個所だった。彼女は「小林さんの主張については私も同意しますが、森本さんは少なくとも一国の大臣ですよ。敬称まで付ける必要はないと思いますが、大臣に対して『アホな』はないでしょう。小林さんらしくないと思いますよ」と、手痛いご指摘だった
で、私はその個所を「森本のような論理的判断力を欠いた防衛相がたった一度オスプレイに試乗したくらいでオスプレイの安全性or危険性がわかるわけがない」と書き換えて投稿し、このブログ記事の原本(ワードで書いた原稿を貼り付け投稿したのがパソコンなどで読めるブログ記事です)をプリントして読者センターにFAXした。すべてではないが、今後の参考にしてもらいたいと思った記事は読者センターにFAXすることにしていた。いまは朝日新聞のお客様オフィスにそうしている。
ところが、読売新聞は驚くべきことに北朝鮮のような世界だった。言論の自由を声高に主張する日本最大の発行部数を誇る読売新聞の世界には言論の自由がないのである。私のブログ記事(原本)を読んだ読者センターの責任者は直ちに「犯人探し」を始めた。いわゆる内部調査である。そして「犯人」を突き止めた責任者は「お前、本当にそんなことを言ったのか」と詰問した。震え上がった「犯人」は「そんなこと言ってません」と否定した。北朝鮮のような世界で正直に答えたら、たちまち稚内あたりの支所に飛ばされてしまう。本当のことが言えるわけがない。で、たちまち私は「ウソつき」呼ばわりされることになった。あまつさえ「ねつ造した方ですね」とまで断言された。これで怒りを爆発させないようなお人好しでは私はない。「ねつ造なんか絶対にしていない」「証拠がある」「証拠とはなんですか」「録音だ」「では聞かせてほしい」「そんなことできるわけがない」……このやり取りを最後に私は読売新聞に対するコミットを遮断することにしたというわけだ。
それ以降私は読売新聞読者センターへの復讐を始めた。私が復讐するための手段はブログ記事で告発する方法しかない。弁護士に「名誉棄損で告訴できないか」と尋ねたこともあるが、「電話での二人だけのやり取りは告訴しても名誉棄損を問えない」と言われ、告訴は断念した。その代りの手段として読売新聞読者センターに私を名誉棄損で告訴させるため、さんざん挑発するブログを書いてきた。ブログは小なりといえど公な言論手段である。そのブログで事実に反する情報を公にして法人や個人の名誉を傷つけたら、間違いなく名誉棄損罪が成立する。対立が生じて以降、読売新聞読者センターは私のブログを毎日チェックしていたはずである。ひゃひゃしながら……。
①読売新聞読者センターはとうとう人間録音機集団になってしまった(8月25
日投稿)
②読売新聞読者センターはとうとう「やくざ集団」になってしまったのか?(8
月26日投稿)
③読売新聞読者センターの欺瞞的体質をついに暴いた!!(8月31日投稿)
我ながら多少執拗すぎたと思ってはいるが、そこまでやっても読売新聞読者センターは反撃してこない。「録音」という絶対的証拠があるのだから(でっち上げでない限り)、告訴すれば勝てるはずだし、勝てば私の社会的生命を抹殺できるのに、なぜ告訴しないのだろう。で、今度は読売新聞本体に攻撃の矢先を向けることにした。武器はやはりブログである。
④オスプレイ問題で米国防総省の有料広報誌に堕した読売新聞(9月21日投稿)
⑤頭の悪い奴でないと読売新聞社には入社できないぞ!!(9月23日投稿)
⑥読売新聞論説委員の国語能力を再び問う お前らアホか!(10月2日投稿)
⑦なぜ読売新聞論説委員は政府の「女性宮家」創設案に賛成したのか?(10月8
日投稿)
⑧読売新聞と共同通信は誤報の責任をどう取るつもりか?(10月19日投稿)
さすがにタフな私も疲れた。このブログ記事の原本を読売新聞社コンプライアンス委員会にメール便で送りつけて、とりあえず様子を見ることにする。たぶん読売新聞読者センターはてんやわんやの大騒ぎになると思う。最初からそうしていればよかったのだが、そういう方法があることを思いつかなかったため消耗なひとり相撲を取り続けてしまったというわけだ。
政局の話に戻る。いよいよ政局は最後のドラスチックな段階に突入していくが、この続きは明日(17日)書く。
さてこのブログ記事は文字実数ですでに3万5000字を超えた。これはワードが頼みもしないのに勝手に文字カウンター機能を付けたことで、ブログの制限以内に文字数を収めるのに非常に役立ち、私は重宝にしている。
最後のドラマが始まったのは10日である。自公の要求を呑んで政府が予算委員会を開いた日だ。「予算委員会」は衆参両院に設置されている常設機関である。本来の目的は政府が提出した予算案を審議することだが、予算は国政のあらゆる側面に直結しているため、法案が本会議に上程される前に争点整理を行う場として位置づけられ、予算委員会で承認されればほとんどの法案が本会議ではシャンシャン手拍子で可決される。ゼロから本会議で議論を始めると収拾がつかなくなることがしばしば生じるため、あらかじめ地ならしをしておくのが予算委員会の役割になっている。実際予算委員会の委員は各政党の有力議員が占め、予算委員会は、本会議についでNHKが予算委員会での重要法案の審議を中継することが多い。
当然自公が予算委員会で野田の約束違反(「近いうち解散」の事実上の撤回)を追求してくることは目に見えており、当初民主は予算委員会開催の前に党首会談などで与野党の隔たりをできるだけ解消したうえで予算員会を開きたいとの意向を示し、「密室政治」の継続による争点整理にこだわっていた。
しかし安倍が民主への歩み寄り路線を鮮明にしたこと、またマスコミ各社による世論調査で野田内閣の支持率が急落し、このままいくと解散後の総選挙で大敗しかねないと、野田がようやく重い腰を上げて予算委員会が開かれることになった。この時点で野田の年内解散の腹が完全に固まったと言えよう。だから、予算委員会での野田の答弁はかつてなかったほど腹の座った堂々たるものだった。NHKの中継を見ていた私ですらそう感じたくらいだから、現場で取材に当たっていた記者たちがいかに鈍感だったか、朝日新聞の政局問題の扱い方にも表れている。10日夕刊の1面トップは「うまいコメ列島激戦…北海産・九州産からトップ3」であり、片隅に「首相『TPP、公約に書く』」と、政局には何の影響もない記事を載せ、11日朝刊の1面トップ記事は「延命治療せず6割経験…救命センター、搬送の高齢者に」と、これまた政局に無関係な記事を持ってきていた(10,11日は土日で予算委員会も休会ではあったが)。
が、12日の朝刊1面トップに、前日の11日夜から幕を開けたドラスチックな政局ドラマの開始を告げる記事が載った。記事の大見出しは、横書きの黒べた白抜きという最大級の扱いで「首相、年内解散の意向」とあった。サブ見出しも二つに分け、一つは大見出しに相当するくらいの大きな文字で(大見出しは通常ゴシック体の文字を使うが、この見出しは大見出しとの違いを明確にするため明朝体の文字を使っていた)「輿石氏に伝える」とあり、さらに二つ目のサブ見出しで「懸案見極め判断」と記していた。記事のリードは以下の通り。
野田佳彦首相は年内の衆院解散に踏み切る意向を固めた。民主党の輿石東幹事長と11日夜、首相公邸で会談して伝えた。特例公債法案や選挙制度改革法案、社会保障国民会議設置の三つの課題の進捗状況を見極め、環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加表明時期を探ったうえで(※TPP問題には触れていないはず。もし触れていたのなら、解散表明の時、安倍総裁に「TPPへの交渉参加にも前向きに取り組むことを約束していただきたい」と協力要請をしていたはず。朝日新聞は民主の有力議員がTPP交渉参加のアドバルーンを上げたことを大きく取り上げてしまった尻拭いをするため、こういう姑息なでっち上げをするのか!)、最終判断する。課題の処理のため、年内に解散しても選挙は年明けになる(※この予測も見事に外れた。政局の読み方を知らないための結果である)。
さらに本文でも、その日の午前中に開かれた予算委員会で、石破幹事長の質問に答えた野田の決定的な発言を無視した。朝日新聞の記者はこう書いている。
野田首相は(中略)「近いうち」とした衆院解散の時期について「自分の言葉は重たいとの自覚は持っている」と強調。一方で「特定の時期を明示するつもりはない」と述べた。
このやり取りがあったことは事実である。だが、そうした類いの発言は今に始まってのことではなく、まして本文の冒頭を飾るようなやり取りでもない。野田が12月16日解散を表明した時、自民執行部を動かすことにつながったに違いない極めて重要な発言を朝日新聞は無視した。それは石破が「所費税増税について、8月8日の党首会談で3党合意が成立していなかったら、野田総理はどうされていましたか」という質問をした時、野田が何と答えたかである。野田はこう答えた。「私は、議員を辞職するつもりでした」と。この発言を機に、自公の野田に対して解散時期の表明を求める攻勢は止まった。野田の政治人生の中で最も重い言葉になっただろう。その言葉の重みに気付かなかった記者はやはり政治ジャーナリストとして失格だと言わざるを得ない。小泉純一郎が国民の圧倒的支持を得た一言「自民党が変わらなければ、私が自民党をぶっ壊す」と同じくらい重たい言葉だったのに…。
野田が輿石に年内解散の意向を伝えたことで、輿石が私の(だけでなく、すべてのマスコミの)想定外の行動に出た。13日、常任幹部会の招集を急きょ行ったのである。政局を論じながら恥ずかしい限りだが、民主党に(民主だけではないかもしれないが)常任幹部会という名の、両院議員総会に次ぐ党の意思決定機関(実態は長老会議。つまりかつての実力者たちが党運営への影響力を維持するために設けた機関)があることをまったく知らなかった。この会議を招集した輿石の意図は言うまでもなく明らかである。長老たちの力を借り、年内解散を阻止すべく最後のあがきに出たのである。そして長老たちを説得するため、今まで主張してきた「まだ今国会で処理しなければならない重要法案が残っている」といったきれいごとではなく、ついに本音で勝負に出たのだ。
「今解散すれば、総選挙で惨敗する」
というのが、長老たちに対する本音の殺し文句だった。このあとは私の推測だが、「今解散・総選挙に突入すれば、党は四分五裂するだろう」とか「今解散したら1年生議員(その大半は小沢チルドレン)が小沢の『国民の生活が第一』に流れてしまう」などと言ったかもしれない。こうしたレトリック手法は日教組や連合で鍛えたのだろう、長老たちはコロッと輿石の手のひらに乗ってしまった。「年内解散は、党の総意として反対する」という「総意」を常任幹事会で取り付けてしまったのである。輿石はこの「総意」を野田にぶつけ、年内解散の翻意を迫った。窮地に陥った野田はついに「伝家の宝刀」を抜かざるを得なくなったのだ。
野田が抜いた「伝家の宝刀」とは何か。
総理だけが有する専権事項である「解散権」の行使であった。
野田は輿石の反乱を無意味なものにするため、14日安倍、山口、小沢の3氏に呼びかけ急きょ党首会談を持ちかけた。もちろん解散の意思表明のためだ。通常、党首会談を公開することはありえない。「党首会談」は密室で、国会運営が行き詰まった時に、事態を打開するため妥協点を探ろうと、党首同士が本音をさらけ出して丁々発止の真剣勝負をする場である。「密室政治」の典型であり、その場を国民の目にさらすということは、この時点で解散することの意味を国民に知らしめ、野田が政治改革にかけてきた執念を改めて国民に問うという捨て身の作戦であった。
内閣支持率の低下に歯止めがかからない状況の中で、「解散の3条件」にあくまでこだわり続けてきた野田が、輿石の大反乱に直面し、国民の目の前で野党党首の本音を引きずり出し、「わが信念の正当性」を来たるべき解散後の総選挙で問うために打った大芝居、とも言えよう。その様子を朝日新聞の「1問1答」記事で見てみよう(ただし記事中の敬称は略す)。野党党首に迫った野田の迫力がよくわかる。支持率は下がる一方で、「近いうち解散」の約束を反故にして野党からこれでもかこれでもかと追及され、その上輿石の大反乱でにっちもさっちもいかなくなった政治家とは思えないほど、逆に野党を追い詰めていく野田の真骨頂の一端が「一問一答」記事の行間に見て取れる。ただし朝日新聞の記事は党首間のやり取りをすべて掲載しているわけではない。
安倍 野田総理は確かに約束した。(消費増税の)法律が成立したあかつきには、近いうちに信を問うと。法律は成立した。約束の期限は大幅に過ぎている。
首相 私は小学生の時に家に通知表を持って帰った時に、とても成績が下がっていたので、おやじに怒られると思っていた。でも親父は頭をなでてくれた。生活態度の講評のところに「野田君は正直の上にバカが付く」と。それを見て喜んでくれた。数字にあらわせない大切なものがある。残念ながら、「トラスト・ミー」(※)という言葉が軽くなってしまったのか、信じてもらえていない。
※「トラスト・ミー」は1990年制作のアメリカ映画。妊娠して高校をド
ロップ・アウトした少女が、両親にそのことを告げると父親が激怒、妊
娠させた相手からも愛想を尽かされる。その彼女が偶然出会ったのが誠
実すぎて巧みな世渡りができず、仕事も転々としていた若い男性と知り
合い互いに惹かれあう。男性は彼女のために地道に働くことを決意する。
確かに感動的な映画だが、ここで使う言葉としてはあまり適切ではない。
むしろズバリ「正直者は馬鹿を見る」あるいはその逆を意味する「正直
者の頭に神宿る」という格言を使って安倍を牽制すべきだったと思う。
特例公債については3党合意ができた。今週中に成立できるように、尽力を頂ければと思う。1票の格差と定数是正の問題。1票の格差の問題は違憲状態だ。一刻も早く是正しないといけない。一方で定数削減は、2014年に消費税を引き上げる前に、まず我々が身を切る覚悟で具体的に削減を実現しなければいけない。それを約束して頂ければ、今日、近い将来(※当然この言葉はカギカッコでくくるべき)を、具体的に提示したい。
安倍 まずは0増5減。皆さんが賛成すれば明日にも成立する。
首相 定数削減はやらなければならない。消費税を引き上げる前に、この国会で結論を出そう。どうしても定数削減で賛同してもらえない場合は、ここで国民の皆さんに約束をしてほしい。ここで定数削減は、来年の通常国会で必ずやり遂げる。それまでの間は議員歳費を削減すると。このご決断をいただければ、私は今週末の16日に解散をしても良いと思っている。
安倍 まずは0増5減、これは当然やるべきだ。来年の通常国会において、すでに私たちの選挙公約において、定数の削減と選挙制度の改正を約束している。(※この党首会談での事実上の「公約」を安倍は党内の慎重論に押され、翌日あっさり撤回した。朝日新聞は15日の夕刊で「削減数、公約に記さず…安倍氏方針」という見出しで報じた。「ひとのことがよく言えたな」と言いたい)
首相 最悪の場合でも、必ず次の国会で定数削減をする。ともに責任を負う。それまでの間は、例えば議員歳費の削減等々、国民の皆さんの前に、身を切る覚悟をちゃんと示しながら、負担をお願いする。制度ができるまでそれを担保にする。そこをぜひ、約束して頂きたい。
安倍 皆さんが出している選挙制度、連用制はきわめてわかりにくい。憲法との関係においても疑義がある。しかし16日に解散をして頂ければ、国民の皆さんに委ねようではないか。
首相 技術論ばかりだ。覚悟のない自民党に政権は戻さない。そのことで我々も頑張る。(中略)
山口 総理はこの16日にも解散をしてもいいと。
首相 16日解散、ぜひやり遂げたいと思うが、問題は1票の格差と定数削減だ。ぜひ協力を。
山口 連用性の提案は傾聴すべき点もあるが短い時間で合意を作り上げることは簡単ではない。
首相 16日までに決断できるよう、再考していただきたい。定数削減は必ずやらなければいけない。かつて山口代表は議員歳費の2割削減を主張された。削減できるまでは、せめて身を切る努力をすることを約束いただけないか。(※些細なことと言われるかもしれないが、これまでは「頂く」と書いていたのにこの首相発言では「いただく」と漢字を開いている。記者の国語能力の低さもさることながら、チェックで見逃した校閲担当の社員も「給料泥棒」と言われても仕方あるまい。私の場合、手書きで原稿を書いていた時代はこういうミスは絶対しなかった。ワードで書くようになり誤変換を見落とすことがたびたびあるが、書くのも推敲も校閲も一人でやらなければならなくなりミスを完全に防止することが不可能になったが、そういうミスをチェックする体制を新聞社は取っている。「恥」を知ってほしい)
山口 おお、いいでしょう。定数削減、これも選挙制度の内容とともに議論を進めよう。3党合意に基づいて、消費税の制度設計、命を守るための防災対策、そういう道を共に歩もう。
16日午後の衆院本会議で衆院議長が「解散」を高らかに宣言した。各党各議員はいっせいに選挙活動に走り出した。
これで長文の政局記事を終える。これから編集作業に入る。
平成24年11月18日午前10時15分
9日の朝日新聞朝刊は1面トップ記事に「公債法案、成立見通し」の大見出しをつけて衆院を15日に通過させることで3党合意が成立したことを伝えた。また3面では野党の要求を呑み民主が予算委員会の開催にも応じる方針を決定したことを報じている。ただこの記事のリードでは「環境整備は進むが、会期末まで残り3週間。自公が求める年内解散へのハードルは、なお高い」と書き、結果論だが読みの甘さを露呈した。
しかも9日の夕刊では、また読者が混乱したであろう記事が1面トップを飾った。野田がTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉に参加する意向を固めたというのだ。その一方サブタイトルは「首相、年内解散も視野」とした。TPP交渉参加の意向はもともと野田は持っていた。が、民主が参加を一方的に決めたら野党が反発して審議はストップし、党内も分裂状態に陥ることくらい政治記者なら百も承知のはずだ。TPP交渉参加と年内解散は絶対に両立しえないテーマである。解散後の総選挙でのマニフェストに謳う意向を固めたという意味だったらあり得るが、今国会中に参加を決めたりしたら、何もかもぶち壊しになることぐらいわかりそうなものだが……。
このブログの③編で朝日新聞のお客様オフィスに10日の午後5時45分ごろ、私が今後の政局予測を申し上げ、実際ほぼその通りになったのは、些細な情報にとらわれず大局的要素以外は無視したからである。政局が最終的段階に入りつつある状況で、民主、自民ともども党内が割れているTPP交渉参加問題を野田が争点に持ち出すわけがない。朝日新聞の番記者は民主幹部に張り付いており、9日の夕刊で、TPP問題について枝野経産相が「次の選挙までに結論を出すべきだ」と個人的意見を述べたことは事実だろうし、前原国家戦略相が「TPPの交渉にも参加すべきだ。民主党が高らかにマニフェストに掲げて、選挙後の連携の一つの大きな軸にもなりうる」とやはり個人的見解を述べたことはたぶん事実だと思う。しかし、解散が近い状況になると、解散後の選挙を有利に運ぶため閣僚や閣僚級の党内実力者が、様々なアドバルーンを打ち上げ、マスコミや国民の反応をうかがおうとするのは有力政治家の常套手段である。その程度のことは政治ジャーナリストにとって常識である。政治ジャーナリストではない私ですら承知しているくらいだから……。
何度も書いてきたように野田が頑として譲ろうとしなかった「解散の3条件」は①特例公債(赤字国債)の発行②社会保障制度改革を国民の目に見える形で論じあう国民会議の設置③衆院議員数の0増5減で憲法違反状態を解消するだけでなく消費税増税という国民に大きな負担を求める以上国会議員も血を流すべきとして主張してきた比例定数の40削減(前回選挙でのマニフェストでは80削減だった)、の三つである。この三つのうち①と②は事実上合意に達しており、連立を組む公明に配慮して比例定数削減の先送りだけは頑として歩み寄りの姿勢を見せなかった自民との距離をどうやって縮めるかだけが残る段階まで漕ぎつけてきたのに、ここに来てすべてをぶち壊すような難問を持ち出すわけがないことぐらい、高校生とまでは言わないが大学生だったら容易に理解できるはずの話を、2日にわたって夕朝刊の1面トップ記事で扱った朝日新聞の政治センスが問われるべきである。
このあと書くが、まさか輿石に「最後の大逆転」を図るためのこんな手があったのかということは、私にとってまったく想定外だった)。いや私だけでなく、輿石にこんな「奥の手」が隠されていたとは、「専門家」であるはずの政治ジャーナリスト(マスコミの政治部記者を含む)や政治評論家にとっても想定外だったはずだ。というより、政治ジャーナリストとしては素人の私ですら「想定外」という認識を持ったのに、プロの政治記者がそういう認識すら持っていなかったということは、政治ジャーナリストとして「失格」の烙印を押されても仕方ないだろう。
もし私が朝日新聞のお客様オフィスにそういう意見を申し上げたら朝日新聞お客様オフィスの方はどうお答えになるだろうか。良心的な方だったら必ず「私もそう思う」とお答えになると思う。で、実際これから試してみる。実は今胸がドキドキしている。
電話に出られお客様オフィスの方は「私の意見は差し控えさせていただきます」と言われたので「皆さん、ご自分の考えを述べられますよ」とさらに迫った。その方は「お客様のご意見は今後の教訓として活かすべく担当部門に伝えさせていただきます」だった。非常に慎重な言い方だったが、事実上私の主張をお認めいただいたと思う。
さてなぜこういう手段を私がとったか。読売新聞読者センターの対応の卑劣さを改めて検証するためだった。すでにご承知の方も多いと思うが、8月15日に投稿したブログ記事『緊急告発!! オスプレイ事故件数を公表した米国防総省の打算と欺瞞』を書くに際し、読売新聞読者センターの方二人に私の考え方に盲点がないかどうかを確認すべく電話したのである。書く前に私の分析内容について聞いていただいたのは男性のスタッフ。声に聞き覚えがなかったので、春の異動で読者センターに配属された方ではないかと思う。その時の彼の発言をブログに書いてしまった(私の配慮がちょっと足りなかったことは認めるが…)。その個所を転記する。
実は昨夜読売新聞読者センターの方に私の考えを申し上げたところ、担当者は「うーん。……おっしゃる通りだと思います」とお答えになったので「読売さんの記者はまだ誰も米国防総省の計算と欺瞞性にお気づきではないようですね」と言いつのった。「そのようですね」とお答えになったので「つまり記者としては失格だということですね」とまで挑発してみたが、返ってきた答えは「その通りだと思います」だった。そこで私が米国防総省の欺瞞性を暴いてみることにしたというわけである
もう一人の方は何度も意見交換をしてきた女性の方で、ブログ記事を書き上げた後、再確認するため意見を伺った。私は名前を名乗って電話したわけではないが、その女性は「小林さんの主張は私もその通りだと思いますが、ちょっと気になった表現があります」とのご指摘を受けた。実は私もやや気にしていた個所だったが、米国防総省が仕掛けた罠とトリックにまんまと引っかかり、オスプレイの安全性を安易に認めてしまった森本防衛相に対し「アホな」という冠言葉をつけた個所だった。彼女は「小林さんの主張については私も同意しますが、森本さんは少なくとも一国の大臣ですよ。敬称まで付ける必要はないと思いますが、大臣に対して『アホな』はないでしょう。小林さんらしくないと思いますよ」と、手痛いご指摘だった
で、私はその個所を「森本のような論理的判断力を欠いた防衛相がたった一度オスプレイに試乗したくらいでオスプレイの安全性or危険性がわかるわけがない」と書き換えて投稿し、このブログ記事の原本(ワードで書いた原稿を貼り付け投稿したのがパソコンなどで読めるブログ記事です)をプリントして読者センターにFAXした。すべてではないが、今後の参考にしてもらいたいと思った記事は読者センターにFAXすることにしていた。いまは朝日新聞のお客様オフィスにそうしている。
ところが、読売新聞は驚くべきことに北朝鮮のような世界だった。言論の自由を声高に主張する日本最大の発行部数を誇る読売新聞の世界には言論の自由がないのである。私のブログ記事(原本)を読んだ読者センターの責任者は直ちに「犯人探し」を始めた。いわゆる内部調査である。そして「犯人」を突き止めた責任者は「お前、本当にそんなことを言ったのか」と詰問した。震え上がった「犯人」は「そんなこと言ってません」と否定した。北朝鮮のような世界で正直に答えたら、たちまち稚内あたりの支所に飛ばされてしまう。本当のことが言えるわけがない。で、たちまち私は「ウソつき」呼ばわりされることになった。あまつさえ「ねつ造した方ですね」とまで断言された。これで怒りを爆発させないようなお人好しでは私はない。「ねつ造なんか絶対にしていない」「証拠がある」「証拠とはなんですか」「録音だ」「では聞かせてほしい」「そんなことできるわけがない」……このやり取りを最後に私は読売新聞に対するコミットを遮断することにしたというわけだ。
それ以降私は読売新聞読者センターへの復讐を始めた。私が復讐するための手段はブログ記事で告発する方法しかない。弁護士に「名誉棄損で告訴できないか」と尋ねたこともあるが、「電話での二人だけのやり取りは告訴しても名誉棄損を問えない」と言われ、告訴は断念した。その代りの手段として読売新聞読者センターに私を名誉棄損で告訴させるため、さんざん挑発するブログを書いてきた。ブログは小なりといえど公な言論手段である。そのブログで事実に反する情報を公にして法人や個人の名誉を傷つけたら、間違いなく名誉棄損罪が成立する。対立が生じて以降、読売新聞読者センターは私のブログを毎日チェックしていたはずである。ひゃひゃしながら……。
①読売新聞読者センターはとうとう人間録音機集団になってしまった(8月25
日投稿)
②読売新聞読者センターはとうとう「やくざ集団」になってしまったのか?(8
月26日投稿)
③読売新聞読者センターの欺瞞的体質をついに暴いた!!(8月31日投稿)
我ながら多少執拗すぎたと思ってはいるが、そこまでやっても読売新聞読者センターは反撃してこない。「録音」という絶対的証拠があるのだから(でっち上げでない限り)、告訴すれば勝てるはずだし、勝てば私の社会的生命を抹殺できるのに、なぜ告訴しないのだろう。で、今度は読売新聞本体に攻撃の矢先を向けることにした。武器はやはりブログである。
④オスプレイ問題で米国防総省の有料広報誌に堕した読売新聞(9月21日投稿)
⑤頭の悪い奴でないと読売新聞社には入社できないぞ!!(9月23日投稿)
⑥読売新聞論説委員の国語能力を再び問う お前らアホか!(10月2日投稿)
⑦なぜ読売新聞論説委員は政府の「女性宮家」創設案に賛成したのか?(10月8
日投稿)
⑧読売新聞と共同通信は誤報の責任をどう取るつもりか?(10月19日投稿)
さすがにタフな私も疲れた。このブログ記事の原本を読売新聞社コンプライアンス委員会にメール便で送りつけて、とりあえず様子を見ることにする。たぶん読売新聞読者センターはてんやわんやの大騒ぎになると思う。最初からそうしていればよかったのだが、そういう方法があることを思いつかなかったため消耗なひとり相撲を取り続けてしまったというわけだ。
政局の話に戻る。いよいよ政局は最後のドラスチックな段階に突入していくが、この続きは明日(17日)書く。
さてこのブログ記事は文字実数ですでに3万5000字を超えた。これはワードが頼みもしないのに勝手に文字カウンター機能を付けたことで、ブログの制限以内に文字数を収めるのに非常に役立ち、私は重宝にしている。
最後のドラマが始まったのは10日である。自公の要求を呑んで政府が予算委員会を開いた日だ。「予算委員会」は衆参両院に設置されている常設機関である。本来の目的は政府が提出した予算案を審議することだが、予算は国政のあらゆる側面に直結しているため、法案が本会議に上程される前に争点整理を行う場として位置づけられ、予算委員会で承認されればほとんどの法案が本会議ではシャンシャン手拍子で可決される。ゼロから本会議で議論を始めると収拾がつかなくなることがしばしば生じるため、あらかじめ地ならしをしておくのが予算委員会の役割になっている。実際予算委員会の委員は各政党の有力議員が占め、予算委員会は、本会議についでNHKが予算委員会での重要法案の審議を中継することが多い。
当然自公が予算委員会で野田の約束違反(「近いうち解散」の事実上の撤回)を追求してくることは目に見えており、当初民主は予算委員会開催の前に党首会談などで与野党の隔たりをできるだけ解消したうえで予算員会を開きたいとの意向を示し、「密室政治」の継続による争点整理にこだわっていた。
しかし安倍が民主への歩み寄り路線を鮮明にしたこと、またマスコミ各社による世論調査で野田内閣の支持率が急落し、このままいくと解散後の総選挙で大敗しかねないと、野田がようやく重い腰を上げて予算委員会が開かれることになった。この時点で野田の年内解散の腹が完全に固まったと言えよう。だから、予算委員会での野田の答弁はかつてなかったほど腹の座った堂々たるものだった。NHKの中継を見ていた私ですらそう感じたくらいだから、現場で取材に当たっていた記者たちがいかに鈍感だったか、朝日新聞の政局問題の扱い方にも表れている。10日夕刊の1面トップは「うまいコメ列島激戦…北海産・九州産からトップ3」であり、片隅に「首相『TPP、公約に書く』」と、政局には何の影響もない記事を載せ、11日朝刊の1面トップ記事は「延命治療せず6割経験…救命センター、搬送の高齢者に」と、これまた政局に無関係な記事を持ってきていた(10,11日は土日で予算委員会も休会ではあったが)。
が、12日の朝刊1面トップに、前日の11日夜から幕を開けたドラスチックな政局ドラマの開始を告げる記事が載った。記事の大見出しは、横書きの黒べた白抜きという最大級の扱いで「首相、年内解散の意向」とあった。サブ見出しも二つに分け、一つは大見出しに相当するくらいの大きな文字で(大見出しは通常ゴシック体の文字を使うが、この見出しは大見出しとの違いを明確にするため明朝体の文字を使っていた)「輿石氏に伝える」とあり、さらに二つ目のサブ見出しで「懸案見極め判断」と記していた。記事のリードは以下の通り。
野田佳彦首相は年内の衆院解散に踏み切る意向を固めた。民主党の輿石東幹事長と11日夜、首相公邸で会談して伝えた。特例公債法案や選挙制度改革法案、社会保障国民会議設置の三つの課題の進捗状況を見極め、環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加表明時期を探ったうえで(※TPP問題には触れていないはず。もし触れていたのなら、解散表明の時、安倍総裁に「TPPへの交渉参加にも前向きに取り組むことを約束していただきたい」と協力要請をしていたはず。朝日新聞は民主の有力議員がTPP交渉参加のアドバルーンを上げたことを大きく取り上げてしまった尻拭いをするため、こういう姑息なでっち上げをするのか!)、最終判断する。課題の処理のため、年内に解散しても選挙は年明けになる(※この予測も見事に外れた。政局の読み方を知らないための結果である)。
さらに本文でも、その日の午前中に開かれた予算委員会で、石破幹事長の質問に答えた野田の決定的な発言を無視した。朝日新聞の記者はこう書いている。
野田首相は(中略)「近いうち」とした衆院解散の時期について「自分の言葉は重たいとの自覚は持っている」と強調。一方で「特定の時期を明示するつもりはない」と述べた。
このやり取りがあったことは事実である。だが、そうした類いの発言は今に始まってのことではなく、まして本文の冒頭を飾るようなやり取りでもない。野田が12月16日解散を表明した時、自民執行部を動かすことにつながったに違いない極めて重要な発言を朝日新聞は無視した。それは石破が「所費税増税について、8月8日の党首会談で3党合意が成立していなかったら、野田総理はどうされていましたか」という質問をした時、野田が何と答えたかである。野田はこう答えた。「私は、議員を辞職するつもりでした」と。この発言を機に、自公の野田に対して解散時期の表明を求める攻勢は止まった。野田の政治人生の中で最も重い言葉になっただろう。その言葉の重みに気付かなかった記者はやはり政治ジャーナリストとして失格だと言わざるを得ない。小泉純一郎が国民の圧倒的支持を得た一言「自民党が変わらなければ、私が自民党をぶっ壊す」と同じくらい重たい言葉だったのに…。
野田が輿石に年内解散の意向を伝えたことで、輿石が私の(だけでなく、すべてのマスコミの)想定外の行動に出た。13日、常任幹部会の招集を急きょ行ったのである。政局を論じながら恥ずかしい限りだが、民主党に(民主だけではないかもしれないが)常任幹部会という名の、両院議員総会に次ぐ党の意思決定機関(実態は長老会議。つまりかつての実力者たちが党運営への影響力を維持するために設けた機関)があることをまったく知らなかった。この会議を招集した輿石の意図は言うまでもなく明らかである。長老たちの力を借り、年内解散を阻止すべく最後のあがきに出たのである。そして長老たちを説得するため、今まで主張してきた「まだ今国会で処理しなければならない重要法案が残っている」といったきれいごとではなく、ついに本音で勝負に出たのだ。
「今解散すれば、総選挙で惨敗する」
というのが、長老たちに対する本音の殺し文句だった。このあとは私の推測だが、「今解散・総選挙に突入すれば、党は四分五裂するだろう」とか「今解散したら1年生議員(その大半は小沢チルドレン)が小沢の『国民の生活が第一』に流れてしまう」などと言ったかもしれない。こうしたレトリック手法は日教組や連合で鍛えたのだろう、長老たちはコロッと輿石の手のひらに乗ってしまった。「年内解散は、党の総意として反対する」という「総意」を常任幹事会で取り付けてしまったのである。輿石はこの「総意」を野田にぶつけ、年内解散の翻意を迫った。窮地に陥った野田はついに「伝家の宝刀」を抜かざるを得なくなったのだ。
野田が抜いた「伝家の宝刀」とは何か。
総理だけが有する専権事項である「解散権」の行使であった。
野田は輿石の反乱を無意味なものにするため、14日安倍、山口、小沢の3氏に呼びかけ急きょ党首会談を持ちかけた。もちろん解散の意思表明のためだ。通常、党首会談を公開することはありえない。「党首会談」は密室で、国会運営が行き詰まった時に、事態を打開するため妥協点を探ろうと、党首同士が本音をさらけ出して丁々発止の真剣勝負をする場である。「密室政治」の典型であり、その場を国民の目にさらすということは、この時点で解散することの意味を国民に知らしめ、野田が政治改革にかけてきた執念を改めて国民に問うという捨て身の作戦であった。
内閣支持率の低下に歯止めがかからない状況の中で、「解散の3条件」にあくまでこだわり続けてきた野田が、輿石の大反乱に直面し、国民の目の前で野党党首の本音を引きずり出し、「わが信念の正当性」を来たるべき解散後の総選挙で問うために打った大芝居、とも言えよう。その様子を朝日新聞の「1問1答」記事で見てみよう(ただし記事中の敬称は略す)。野党党首に迫った野田の迫力がよくわかる。支持率は下がる一方で、「近いうち解散」の約束を反故にして野党からこれでもかこれでもかと追及され、その上輿石の大反乱でにっちもさっちもいかなくなった政治家とは思えないほど、逆に野党を追い詰めていく野田の真骨頂の一端が「一問一答」記事の行間に見て取れる。ただし朝日新聞の記事は党首間のやり取りをすべて掲載しているわけではない。
安倍 野田総理は確かに約束した。(消費増税の)法律が成立したあかつきには、近いうちに信を問うと。法律は成立した。約束の期限は大幅に過ぎている。
首相 私は小学生の時に家に通知表を持って帰った時に、とても成績が下がっていたので、おやじに怒られると思っていた。でも親父は頭をなでてくれた。生活態度の講評のところに「野田君は正直の上にバカが付く」と。それを見て喜んでくれた。数字にあらわせない大切なものがある。残念ながら、「トラスト・ミー」(※)という言葉が軽くなってしまったのか、信じてもらえていない。
※「トラスト・ミー」は1990年制作のアメリカ映画。妊娠して高校をド
ロップ・アウトした少女が、両親にそのことを告げると父親が激怒、妊
娠させた相手からも愛想を尽かされる。その彼女が偶然出会ったのが誠
実すぎて巧みな世渡りができず、仕事も転々としていた若い男性と知り
合い互いに惹かれあう。男性は彼女のために地道に働くことを決意する。
確かに感動的な映画だが、ここで使う言葉としてはあまり適切ではない。
むしろズバリ「正直者は馬鹿を見る」あるいはその逆を意味する「正直
者の頭に神宿る」という格言を使って安倍を牽制すべきだったと思う。
特例公債については3党合意ができた。今週中に成立できるように、尽力を頂ければと思う。1票の格差と定数是正の問題。1票の格差の問題は違憲状態だ。一刻も早く是正しないといけない。一方で定数削減は、2014年に消費税を引き上げる前に、まず我々が身を切る覚悟で具体的に削減を実現しなければいけない。それを約束して頂ければ、今日、近い将来(※当然この言葉はカギカッコでくくるべき)を、具体的に提示したい。
安倍 まずは0増5減。皆さんが賛成すれば明日にも成立する。
首相 定数削減はやらなければならない。消費税を引き上げる前に、この国会で結論を出そう。どうしても定数削減で賛同してもらえない場合は、ここで国民の皆さんに約束をしてほしい。ここで定数削減は、来年の通常国会で必ずやり遂げる。それまでの間は議員歳費を削減すると。このご決断をいただければ、私は今週末の16日に解散をしても良いと思っている。
安倍 まずは0増5減、これは当然やるべきだ。来年の通常国会において、すでに私たちの選挙公約において、定数の削減と選挙制度の改正を約束している。(※この党首会談での事実上の「公約」を安倍は党内の慎重論に押され、翌日あっさり撤回した。朝日新聞は15日の夕刊で「削減数、公約に記さず…安倍氏方針」という見出しで報じた。「ひとのことがよく言えたな」と言いたい)
首相 最悪の場合でも、必ず次の国会で定数削減をする。ともに責任を負う。それまでの間は、例えば議員歳費の削減等々、国民の皆さんの前に、身を切る覚悟をちゃんと示しながら、負担をお願いする。制度ができるまでそれを担保にする。そこをぜひ、約束して頂きたい。
安倍 皆さんが出している選挙制度、連用制はきわめてわかりにくい。憲法との関係においても疑義がある。しかし16日に解散をして頂ければ、国民の皆さんに委ねようではないか。
首相 技術論ばかりだ。覚悟のない自民党に政権は戻さない。そのことで我々も頑張る。(中略)
山口 総理はこの16日にも解散をしてもいいと。
首相 16日解散、ぜひやり遂げたいと思うが、問題は1票の格差と定数削減だ。ぜひ協力を。
山口 連用性の提案は傾聴すべき点もあるが短い時間で合意を作り上げることは簡単ではない。
首相 16日までに決断できるよう、再考していただきたい。定数削減は必ずやらなければいけない。かつて山口代表は議員歳費の2割削減を主張された。削減できるまでは、せめて身を切る努力をすることを約束いただけないか。(※些細なことと言われるかもしれないが、これまでは「頂く」と書いていたのにこの首相発言では「いただく」と漢字を開いている。記者の国語能力の低さもさることながら、チェックで見逃した校閲担当の社員も「給料泥棒」と言われても仕方あるまい。私の場合、手書きで原稿を書いていた時代はこういうミスは絶対しなかった。ワードで書くようになり誤変換を見落とすことがたびたびあるが、書くのも推敲も校閲も一人でやらなければならなくなりミスを完全に防止することが不可能になったが、そういうミスをチェックする体制を新聞社は取っている。「恥」を知ってほしい)
山口 おお、いいでしょう。定数削減、これも選挙制度の内容とともに議論を進めよう。3党合意に基づいて、消費税の制度設計、命を守るための防災対策、そういう道を共に歩もう。
16日午後の衆院本会議で衆院議長が「解散」を高らかに宣言した。各党各議員はいっせいに選挙活動に走り出した。
これで長文の政局記事を終える。これから編集作業に入る。
平成24年11月18日午前10時15分
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます