小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

総選挙を考える① 解散の大義はアベノミクスの継続のためか?

2014-11-21 07:54:47 | Weblog
 安倍総理は解散表明後の記者会見でこう述べた。「今回の選挙で自公が過半数を取れなければ、アベノミクスが国民から否定されたことを意味する。私は直ちに退陣する」と(18日)。つまり与党が過半数を獲得すればアベノミクスは国民から支持されたことになる、と言いたいようだ。
 その記者会見が行われた日の朝(つまり会見が行われる10時間ほど前)に私はブログでこう書いた。

 今日安倍総理は解散を宣言するようだ。「早まった」と後悔しているかもしれないが、ここまで来た解散風を止めることは総理にも出来まい。「争点なき選挙」と言われてきた12月総選挙だが、アベノミクスの総括が最大の争点になることは必至だ。野党間の立候補調整がうまくいけば大逆転もありうるが、野党が勝利しても所詮野合政権の再登場になるだけだ。アメリカと同様、何も決められない政治になることは必至だ。「争点は生じたが、選択肢がなくなった総選挙」と私は定義する。

 時間的余裕がなかったので、前回のブログの最後に上記の文章だけ書いた。多少、説明しておく必要があるかもしれない。すでにご理解されている方も少なくないとは思うが…。
 安倍総理が海外での主要会議に連続して出席している感に、永田町で解散風が唐突に吹き出した。政治評論家たちはこのときも「あとから解釈」に終始した。誰も年内解散の必然性を予測していなかったのだから「あとから解釈」にならざるを得ないのは当然だろう。かといって、私は予測していたなどと自慢するつもりは毛頭ない。私にとっても想定外だった。
 ただ、解散風が吹き出してから政治評論家やジャーナリストたちは一斉に「解散の大義はどこに?」と言った疑問をぶつけだした。野党もそうしたメディアのスタンスに同調し始めた。消費税増税を先延ばしするための解散、という見方もあったが、有識者会議の面々の多くは先延ばしに反対だったが、国民も野党も先延ばしを求めており、解散しても選挙の争点にはなりえない。だから「争点なき解散」であり、野党は「解散の大義はどこに」と声を張り上げた。
 通常、解散は失政や閣僚の不祥事が生じたときに野党側が与党を追及するための手段として「国民に信を問え」と迫る。与党が法案を成立させるためにあえて解散という伝家の宝刀を抜いたのは、小泉総理の「郵政解散」だけと言ってもいい。前の解散時も、与党・民主党の足並みの乱れを突いて自公が解散を迫り、野田総理が総選挙での敗北を承知の上で民自公の3党合意を取り付けたうえで解散し、支持率の高さによってではなく反自公勢力の四分五裂によってタナボタ的に大勝利を収めたのが安倍総裁率いる自民党だった。
 民自公の3党合意は大きく2点あった。一つは社会保障充実のための財源として消費税を2段階に分けて5%から10%まで引き上げること。もう一つは国民に痛みを強いる以上国会議員も痛みを分かち合うべきだとして定数の大幅削減を次期通常国会で実現すること。そのうち定数削減はいつの間にかどこかに吹き飛んでしまった。野田前総理は「だまされた私が悪いのか、だました方が悪いのか」と、血涙を絞る思いを国会でぶつけたが、勝ち誇った自公の前では犬の遠吠えほどの意味も持たなかった。
 その後最高裁でも、現在の小選挙区制は違憲状態にあるという判決が出た。単に倍率の問題だけでなく、最高裁は小選挙区制度に盛り込まれている47都道府県に割り当てられている一人別枠方式にもメスを入れた。異例の判決と言える。「民主主義とは何か」を最高裁が国民に問いかけた判決でもあった。
 確かに民主主義には多くの欠陥がある。その欠陥の最大要因は多数決主義にあることはだれでも分かっている。が、ほかによりベターな政治決定システムがないため、消去法として存続してきた政治システムだ。だが、国民全体からみると少数だが、地方の民意も国政に反映すべきだとして一人別枠方式が維持されてきた。地方に強いとされる自民党にとっての党利党略という要素を抜きにしても、一理ある議論ではある。
 が、そうであるならば、今回の沖縄知事選で普天間基地の、辺野古を含めた県内移設反対派の代表である翁長氏が、仲井眞前知事に10万票の大差をつけて勝利したことを政治はどう受け止めるのか。菅官房長官は普天間基地移設問題は「すでに過去のこと」と切って捨てた。肝心の沖縄県民の意思が明確に示されたのにである。この問題は再び触れる。
 いま衆参両院で自公与党は圧倒的多数を占めている。大概の法案は与党が衆参両院で強引に多数決に持ち込めば成立してしまう。解散して総選挙を行えば、安倍内閣の支持率が低下傾向に入っている状況では、かえって与党の議席数を減らす可能性も十分考えられた。
 さらに安倍総理は海外で記者団に対して、解散時期は17日に発表される7~9月期の実質GDP(国内総生産)の数字を見てから判断すると答え続けていた。総理の帰国当日の朝公表された数値は、対前期比マイナス0.4%(年率換算マイナス1.6%)だった。前期(4~6月)の数値がマイナス1.9%(年率換算マイナス7.3%)だったから、2期連続のマイナス成長になった。事前のエコノミストたちの予想はプラス2%前後だったから、専門家の予想をはるかに上回る景気の足踏み状態が明らかになった。
 私は18日に投稿したブログで、総理は「早まった」と後悔しているかもしれないが、と書いたが、安倍総理はおおよその数字をかなり前から内閣府から知らされていたのではないだろうか。実際内閣府は以前から、消費の回復が遅れていることについて何度もアドバルーンを上げていた。GDPの6割は国内消費が占めている。その国内消費が実質賃下げ(賃金上昇率が物価上昇率に追いつかない状況)によって消費税増税後3か月たっても回復基調に入っていず、しかも円安によっても輸出企業の輸出数量は増えていないことはとっくに明らかになっていた。7~9月期のGDPがエコノミストたちの楽観的予測を裏切るだろうことは、内閣府からかなり早い段階で総理の耳に入っていた可能性はある。
 そう考えると、野党の足並みがそろわない内に解散総選挙に打って出て、とりあえず議席数を減らしても与党が過半数を占めることで今後もアベノミクスを強引に進めるための解散と考えるのが自然だろう。
 安倍総理は解散記者会見でこうも述べていた。
「消費税増税という国民生活にかかわる大きな税制改革は民意を問うべきだ。民主政権はマニフェストにうたっていなかった消費税増税をやろうとして失敗した」
 それが解散の大義だという。が、自民党単独政権時代の竹下総裁も橋本総裁も、消費税導入や増税をマニフェストでうたって総選挙を戦ったことはない。しかも普天間基地移設問題について、沖縄県民の民意が明確に示された沖縄知事選については「すでに過去のこと」と考慮に値しないことを菅官房長官は表明している。だったら3党合意による消費税増税も、今さら民意を問う必要はないのではないか。安倍総理が主張する大義は、いかにもしらじらしいとしか思えない。消費税導入時期を明確にしたのも、有識者会議の6割が「消費税増税を先延ばしすべきではない」という結論を出したことで、やむを得ず増税時期を明確にすることで国民の支持を何とか取り付けようという下心が透けて見える。
 が、アベノミクスの継続で、本当に1年半の先延ばしで消費税増税が可能になるような景気回復が実現するのだろうか。安倍さんや安倍さんの経済政策のブレーンとされるエコノミストたちは、いまだにケインズの景気循環論が有効だと考えているようだが、日本の産業構造にはもはやケインズ理論が当てはまらない状態になっていることにそろそろ気づいてもいいのではないだろうか。
 アベノミクスの勘違いは次回解明したい。(続く)

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