小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

東京オリンピック――やるべきか、やらざるべきか?

2021-02-22 01:13:07 | Weblog
森喜朗・前組織委会長のジェンダー発言(女性蔑視)を契機にすったもんだした組織委会長職も、密室会議の結果、橋本聖子五輪相(当時)が就任することで政治決着がついた。
アスリートとしては歴史に名を残す実績を重ねた方だが、果たして組織委会長の重責を担えるか疑問視する向きもある。
オリンピック開催予定日まで、5か月を切った。果たしてそれまでにコロナ禍を終息させることができるだろうか。もちろん日本だけ終息しても、世界中がコロナとの闘いに勝っていなければオリンピックを開催する意味が問われること必至だ。
森前会長は「コロナがどういう事態であろうとも」と開催への強い意欲を示していたが、国体なら無観客開催もありうるだろうが、オリンピックは世界中から選手や競技関係者、報道陣が集まってくる。どうやってコロナを封じ込めることができるのか。

●今年の全豪オープンは4大大会の名にふさわしかったか?
テニスの4大大会の一つ、全豪オープンで優勝した大坂なおみ選手の功績にケチをつけるつもりは毛頭ないが、今年の大会は一流選手がほとんど出場していない。決勝相手も世界ランク24位の無名選手だ。
大坂選手はコロナ禍の中でうまくコンディション調整をして大会に臨めたが、多くの一流選手が練習の機会さえ奪われ、出場を断念した。
しかも全豪オープンは選手たちがオーストラリアに向かう飛行機の搭乗者の中からコロナ感染者が出たということで、選手全員が2週間の隔離を求められ、大会そのものも2週間延期になった。テニスという単競技だから、そういう対策が取れたが、国立競技場やプール会場をはじめ多くの競技施設はいろいろな競技日程が目白押しで組まれている。ある競技でそうした事故が起きた場合、どうするのか、組織委はまだIOCと打ち合わせもしていないと思う。
出場予定選手の一人、二人がたとえばけがをしたという場合、その選手のために競技日程を変えるといったことをする必要がないが、たとえばアメリカから来日した選手団の中に一人でも感染者が出た場合、その飛行機に搭乗していた米選手の全員がオリンピック出場できなくなる。放映権を持っている米NBCがOKするか。それとも、米選手が出場する競技日程を全豪オープン並みにすべてずらすのか。そんなことをしたら、オリンピックは年内に終わらないかもしれない。
そういう可能性もあるということを、組織委は考えているのだろうか。森前会長の「何が何でも」精神はもうろく爺さんのたわごとと一笑に付したとしても、現実的可能性にどう対処するのか、全豪オープンから学ぶべきことは多い。

●国内で1万人の医療従事者確保など夢のまた夢
さらにコロナが終息していなかった場合の医療体制である。
橋本氏は五輪相時代の1月26日、衆院予算委で新立憲の辻本清美議員の「いまの医療体制を考えたら、東京五輪をフルでやることは不可能ではないか」という質問に対して「1人5日間程度の勤務をお願いすることを前提に、1万人程度の方に依頼してスタッフ確保を図っている」と胸を張った。
緊急事態宣言真っ最中で、国内での医療崩壊の危機が叫ばれていた中で、本当に1万人の医療従事者がそんなバカげた要請に応じたのだろうか。
少なくとも、国内の感染症医療従事者を、国内の患者治療を放り出してかき集めようとしても、日本は中国やロシアのような国ではない。そんな要請に応じる医療従事者がいたとしたら、その人は二度と国内で医療行為に携わることはできなくなる。橋本氏は自分が医者の立場だったら、自分の患者を放り出してオリンピックのために協力するのか。そんな発想の人が組織委の会長になった。明治時代の家父長意識から抜け出せなかった森前会長より危険思想の持ち主と言わざるを得ない。
アスリートとしての橋本氏は、おそらく日本の名誉を背中に背負って競技に臨んできたという意識が強いせいかもしれないが、国家意識をあまり前面に出すと「先の戦争の申し子か」という目で見られかねない。

●大多数の国民が「中止」もしくは「延期」を望む理由
あと5か月を切った中でも国民の大多数は東京オリンピックについて「中止」もしくは「延期」を望んでいる。オリンピックの開催自体に反対しているわけではなく、コロナ禍が終息する見通しがまったく立たない中で今年の開催は「無理だ」と考えているのだ。
おそらく森前会長も水面下でIOCバッハ会長と「中止」あるいは「延期」について何度もやり取りをしてきたはずだ。していなかったとしたら、論外の「無能」会長だったということになる。
が、24年はパリ、28年はロスと開催都市が決まっており、すでにパリは施設の建設など24年開催の準備を進めているはずで、もしパリ大会を先送りにするとなると莫大な補償問題が生じる。現実的な「延期」策は、まだ施設などは計画段階のロスに先送りをお願いするしかないが、そうなるとすでに完成済みの東京オリンピック用の施設をどう維持するかという難問が生じる。
オリンピック後も使用予定の施設は活用してオリンピック開催時には中古施設でやるという選択肢はあるが、選手村はどうする。まさか当初の計画通り分譲マンションとして売却し、オリンピック期間中だけ引っ越してもらって買い主から賃貸するなどという方法は取れない。考えられる唯一の方法は7年先のオリンピックまでと期限を切って賃貸マンションとして活用することだが、個人相手の賃貸はリスクが大きすぎるから、大企業に借り上げ社宅として活用してもらうしかない。
その場合は、すでに売買契約が成立している飼い主には手付金の倍返しで契約解除してもらうことになるが、その場合も膨大な損失が出る。まさに東京オリンピックは「前門の虎、後門の狼」という状態にあるのだ。

●東京オリンピックを予定通りに開催するための唯一の方法
そういう状況の中で、どうしても東京オリンピックを今年、日程通りに開催するというなら、それを可能にする方法はたった一つしかない。
まずIOC及び参加国に対して、参加選手および関係者、観客のコロナ感染対策は参加国で行ってもらうことを参加条件にすること。つまり、入国者数に応じた医療団の同行を参加条件として義務付けることだ。たとえ日本に入国後にコロナ感染しても、日本は一切医療対策はとれません、とはっきり明言しておくこと。
 「日本は冷たい」という国際評価が定着して、コロナ後のインバウンドに大きな影響が出たとしても、それはこういう状況下でオリンピック開催という選択を強行した政府と組織委の責任である。
 ただし、最低限の対策として、感染者や濃厚接触者を完全隔離するために、日本国内はもとより海外からも大型クルーズ船を数隻チャーターしておくこと。隔離中の食事はコンビニ弁当程度の簡易なものしか用意できないから、選手村のような待遇を希望する場合は、母国から食材や料理人を連れてくることを参加国に事前通告しておく必要がある。
 どうしても今年、日程通りに東京オリンピックを開催するというなら、そのくらいの体制でやるしかない。ただし、オリンピック史上最低の大会になることだけは間違いない。

●東京オリンピックには欧米の一流プロ選手は参加しない理由
 というのは、全豪オープンで明らかになったように、プロ・スポーツが発達している競技では、おそらく日本を除いて海外からは一流選手はまず来てくれない。オリンピックで活躍することは名誉ではあっても「カネを稼ぐ」場ではないからだ。
 だから陸上や水泳などのプール競技。ソフトボールや柔道、卓球などプロ化が進んでいない競技は、オリンピックでメダルを取ることが、そのスポーツ分野で将来にわたって生活手段を獲得できるチャンスだから、コロナ・リスクを冒してでも日本に来るだろうが、野球やサッカー、テニス、バスケットなどプロ競技は発達している分野は一流のプロ選手はまず来ない。
 日本の場合は、プロ選手でも「カネには代えられない」何か(例えば名誉)を求めるという精神的規範があるため、将来のことを考えずに、その一瞬にすべてをかけるといった考え方を持っている人が多いが、欧米人は日本人とはかけ離れた合理的精神の持ち主が多い。そういう意識の違いは、どっちの方がいいとか悪いとか、正しいとか間違っているとか、そういった基準では測ることができない要素だ。
 たとえばIOC会長の山下氏は世界を席巻した柔道選手だったが、肉離れを起こしながらオリンピックで優勝し、男泣きした。テレビで見ていた私も涙した。そういう感動を大切にする日本と、その後の選手生活を考えて試合を棄権する欧米選手との違いは、合理性より精神性を重視する日本人には理解できない要素があるようだ。
 例えば高校野球で大谷を超える逸材と言われた岩手県立大船渡高校の佐々木朗希投手。2019年の夏の大会の岩手県選出を目指した岩手大会の準決勝で完封勝利を収めたが、決勝戦では国保陽平監督が故障を心配して佐々木投手を登板させなかった。野球評論家を含め、国保監督の采配に批判が殺到したが、アメリカだったら問題にならなかっただろう。ただ、私はどうせ決勝戦で休ませるくらいなら、準決勝で佐々木を温存して決勝戦に備えるべきだったのではないかという疑問は持っている。大船渡高校の野球部は佐々木一人のためにあるわけではないから。
 そういう意味で、私は精神主義の塊のような橋本聖子会長に一抹の不安を持っている。精神主義では、オリンピックを成功させることはできないからだ。
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