迷宮映画館

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フェアウェル さらば,哀しみのスパイ

2010年09月28日 | は行 外国映画
舞台は1981年のソ連。大学生だった私は、無謀にも第二外国語の選択をロシア語にしてしまった。一応、一番楽に単位が取れるといううわさを信じての選択だった。

英語が超苦手だったもんで、なるべく負担を少なくしようという苦肉の策だったが、ロシア語を話せると、東北地方では有利だとか、いいしれないソ連の脅威はまだまだ健在で、おべっか使うのにもいい・・・などといういい加減なうわさもまことしやかに流れていた。

そう、ソ連の脅威はまだまだ現実的で、恐ろしいわけのわかんない国としては最強の存在だった。多分盤石とは言わないまでも、鉄のカーテンが取り除かれることは絶対にないだろうと思っていた。しかし、カーテンの向こうは、すでにずたぼろの世界になっていた。


KGBの大佐、グリゴリエフが行っていたのはソ連が得ていた西側のありとあらゆる情報を、われわれはこんだけのものを知っているということを西側にまた知らせること。大佐という立場から、かなりの情報を知りえているため、その重みはかなりだ。

渡す相手は、ごく普通のフランス人のエンジニア。情報を渡され、最初はこんな裏の世界に引きずりこまれていくのに戸惑いを感じるピエールだったが、その半端でないスリルの快感めいたもんに、徐々にのめりこんでいく。

時あたかも、フランスに左翼の星、ミッテランの政権が成立し、アメリカはぴりぴりと神経をとがらして、内政干渉に乗り出そうとしていた。ミッテランは、レーガンに知りえた情報を突きつけ、優位に立とうとする。愕然とするレーガン。

何のために情報を漏らすのか・・。金か?亡命か?それとも・・・。しかし、グリゴリエフにあるのは、誰よりも強い国家に対する愛情。この国を何とかしたいと思う純粋な愛国心。そんな意志を理解してくれる人など、ソ連のどこにもいない。愛する息子が将来生きていくこの国の未来を真摯に願った行動は、国家に対する計り知れない裏切りとなる。

ということで、とっても楽しみにしていた一本。エミール・クストリッツアが哀愁のスパイをやる・・ということでテンションは上がりっぱなしだが、題材がまた凄い。あのでっかいソ連をつぶしたのは、たった一人のスパイのせい・・・と言われてもおかしくはないくらいの出来事だ。

われわれはソ連という張子のトラの虚勢を見せられていたのだが、かつてのかの国がやっていたこととの周到さというか、卑劣さというか、なかなかのもんだ。まあ、アメリカも似たようなことをやっていたとは思うのだが、あの粘着体質はどこから来るのだろうか。

ココ2年くらい、ずっとロシア映画を見続けてきてわかったことは、ロシア人の故郷に対する断ち難い愛情、思慕の念、大地に対する郷愁・・・。それが根っこにあるということ。国家にどのように裏切られようと、ひどい目に遭おうと、捨て去ることが出来ない。

この映画でその思いが基本にあるとは言い切れないが、そんなことも感じながら見ていた。

圧倒的な存在感を誇るエミール・クストリッツアの哀愁をおびた表情と、ギョーム・カネのまっすぐな姿が絶妙だった。もっともっと劇的で派手な展開を期待した向きもあるのだが、実際のスパイなんてのは、とことん地味な毎日なはずで、そこがまたリアルだ。

「戦場のアリア」の面々が、ちょい役で顔を見せてるが、これはクリスチャン・カリオン組というまとまりみたいなもんが見えた。みなで作って行こうという気概だ。

当初、大佐役はニキータ・ミハルコフだったそうで、そっちの大佐もぜひ見たかったが、ちょっと残念。映画を完成するまで、さまざまな紆余曲折があったという話も、こういう映画ならではの逸話で、とっても興味深かったが、出来上がったのが何よりよかったと思うばかり。

◎◎◎◎

「フェアウェル さらば,哀しみのスパイ」

監督・脚本 クリスチャン・カリオン
出演 エミール・クストリッツァ ギヨーム・カネ アレクサンドラ・マリア・ララ インゲボルガ・ダプコウナイテ アレクセイ・ゴルブノフ ディナ・コルズン フィリップ・マニャン ニエル・アレストリュプ フレッド・ウォード デヴィッド・ソウル ウィレム・デフォー エフゲニー・カルラノフ ヴァレンチン・ヴァレツキー


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4 コメント

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Unknown (KLY)
2010-09-29 23:20:42
そう、実際のスパイなんてこんなもんなんでしょう。私は1週差ぐらいで「ソルト」みてコレ観たんで、エンタテインメントとしてのスパイ映画とリアルなスパイ映画と、同じスパイ映画でもこんなに差があるなんて面白いなぁと妙に感心してました。
クストリッツァ監督は『マラドーナ』で顔出ししてたんで顔は知ってましたが、あの時はドキュメンタリーだったんでお芝居を観るのは初めて。おっちゃんはまりすぎでんがな。^^;
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>KLYさま (sakurai)
2010-09-30 08:56:20
ほんとに地味でしたね。
みんながみんな、007みたいではない!というのはわかってるつもりですが、こうやって埋没しながらも、使命を全うする!!という思いで、毎日を過ごしてるんでしょうかね。
クストリッツア監督、演技させても一流です。
やっぱ見せどころ、勘所をわかりきってるなあと感心しました。
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こんにちは♪ (mezzotint)
2010-10-22 09:25:08
こういうゆっくり、じっくりな作品は
どうも眠気に襲われそうになりますね。
案の定、ピエールと大佐の絡みのシーン
でzzzzでした(笑)何となく
分かったような?後半は結構見据えて
見た!って感じですかね。
ダイアン・クルーガ―はそういう繋がり
だったのですね。単純にギョームの元妻
だからか!なんて。
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>mezzotintさま (sakurai)
2010-10-25 13:32:25
個人的には完全なるあたしのツボの話なんで、絶対大丈夫と、超疲れてるときに行ってしまったのがまずかったです。
過信してはいけませんでした・・・。反省。
そうは言っても、やはり見所十分な、興味深い話でした。
ダイアン・クルーガーはじめ、友情出演的な登場だったと思います。
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