迷宮映画館

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ワーニャ伯父さん

2010年09月28日 | ロシア映画シリーズ
前回の「カラマーゾフの兄弟」はお休みしてしまったので、お久しぶりのロシア映画でした。
チェーホフの代表作ということで、今回も中身はさっぱり知らず、お勉強しに参りました。

いつも唐突に始まる感のあるロシア映画なのですが、今回の物語は、時代を映そうとする手段というか、目に訴えるというか、素直にその時代を映し出そうとする当時の映像が印象的でした。

ロマノフ王朝の皇帝一家の様子や、ニコライ2世の姿。それに対して伐採された原野、貧しい人々の姿、難民を彷彿させる子供たちの様子・・。こういう時代にどう生きようとするか!という命題が、最初に示されてるような感じを受けました。

舞台はロシアの田舎。前世紀の遺物のような老教授。文学者としていっぱしの名を上げたのかもしれないけど、その威光にいつまでもしがみついている。若い後妻を愛で、存在をアピールしたいが、そろそろ隠居が似合っている。そのことを本人も自覚しつつあるが、慇懃な性格はそう簡単には治らない。

教授の元妻の兄がワーニャ伯父さん。教授の娘のソーニャから見ると、伯父さんだ。教授がほったらかしにした領地を守り、わずかな上がりを教授に送り、ソーニャと自分たちは爪に火をともすように暮らしてきた。自分を犠牲にして成り立ったのが教授の人生。

しかし、隠居して若い妻を連れて田舎に来た教授は、尊敬に値するものでは到底なかった。自分の半生を犠牲にし、娘と守ってきたこの領地を、二束三文で売ってしまうことをなんとも思わない教授。

ロシアの二極分化の世界をそのまま映しているようだ。

教授の若い妻に思いを寄せるワーニャ。若き妻のエレーナはワーニャの友人で、貧しい人々のために働いている医者のアーストロフに熱い思いを寄せる。しかし、アーストロフには、ソーニャも思いを寄せていた。どの思いも遂げられず、この田舎の領地を捨てていく教授。

何も変わらない。このロシアの荒野は何も変わらない・・・・。でも、自分たちは生きていかなければならない・・・。どんなことがあろうとも。

ということで、ロシアシリーズ第19弾はチェーホフの作品。この舞台となった1890年代というのは、革命のちょっと前。この30年前に学生運動などの改革運動が激しくなり、国家規模の大きな反動となったが、結局は鎮圧。運動は挫折し、若きころに運動に燃えていた人々が、この映画の主人公たちにあたる。

未来に夢をみれず、どうにも動かない世の中を忸怩たる思いで何とかしたいと思っても、どうしようもない焦燥感がある。この映画が作られたころの70年代をリンクしていくような・・・というのは、いつもの中村先生のお話だったが、いつの世でも、人の生きるこの世というのは、いかに生きにくいか・・・。それでも生きていく人間の強さとしたたかさを感じさせる作品だった。

「ワーニャ伯父さん」

原作 アントン・チェーホフ
脚本・監督 アンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー
出演 インノケンティ・スモクトゥノフスキー セルゲイ・ボンダルチュク イリーナ・クプチェンコ


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