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第605回 面白「そうな」本たち−4

2024-12-06 | エッセイ
 シリーズ最終回となる第4弾のお届けです。今回も「HONZが選んだノンフィクション」(成毛眞 中央公論新社)から、3冊を取り上げます(未読本もありますので「そうな」となっています)。著者は、ノンフィクション本の書評、紹介サイト「HONZ」の主宰者で、お仲間とともに数多くの作品を紹介してこられました。さっそく本題に入ります。最後までお付き合いください。

★「弱くても勝てます」(高橋秀実 新潮文庫)★

「開成高校野球部のセオリー」と副題にあります。バリバリの進学校にして、都の大会でベスト16まで勝ち上がった実績もある同校野球部の強さの秘密(?)を探ろうという試みです。
 著者・高橋氏が、初めて開成高校の練習を見に行った際の感想「下手なのである。それも異常に」に魅きこまれます。「内野は打者に近いから怖い、外野は遠いから安心」という外野手、「球を投げるのは得意だが、補るのが(苦手じゃなく)下手」と語るショート、など、いかにもの選手たちの言葉が紹介されます。キャッチボールでもエラーがあるので、「危なくて気の抜けない取材」だった、との氏の言葉が笑えました。
 監督が、そんな選手たちのポジションを決める基準です。1.ピッチャーは投げ方が安定していること 2.内野手はそこそこ投げ方が安定していること 3.外野手はそれ以外、というもの。
 さて、試合の戦術です。送りバントやスクイズはありません。サインもありません。指示は監督が大きな声で出します。小技でチマチマと点を取っても、大量点を取られればパァーですから。
 打順は、1番から6番まで、とにかく強い球を打てる選手を並べます。そして、下位から始まる回がチャンスだといいます。下位打線に打たれて動揺している相手チームにつけ込んで得点する、というユニークな作戦です。
 監督の言葉が引用されています。「チームに貢献するなんていうのは人間の本能じゃないと思います」「思い切り振って球を遠くに飛ばす。それが一番楽しいはずなんです。生徒たちはグラウンドで本能的に大胆にやっていいのに、それを押し殺しているのを見ると、僕は本能的に我慢できない。たとえミスしてもワーッと元気よくやっていれば、怒れませんよ。のびやかに自由に暴れまくってほしい。野球は「俺が、俺が」でいいんです」
 成毛氏は、この本の読了後、同校野球部の部員たちをすっかり好きになった、と書いています。  
 私もこの本は読みました。勝利至上主義、厳しい練習などに疑問を感じていましたから、読後の爽やかな気分を思い出し、氏と大いに思いを共有しました。

★「翻訳できない世界の言葉」(エラ・サンダース 前田まゆみ訳(創元社))★

 言葉って、その言葉を話す人たちの文化、社会、習俗と密接に結びついています。なので、私たちには「翻訳できない」言葉があっても当然です。世界の様々な国で暮らした経験を持つこの本の著者が選んだ言葉のいくつかを成毛氏が紹介しています。
 長さ、重さなどを測る「単位」。フィンランド語には、「poronkusema(ポロンクセマ)」という単位があります。「トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離」を指します。私たちには見当もつきませんが、約7.5kmになるそう。いかにも北欧的です。
 マレー語の「pisang zapra(ピサンザプラ)」というのは、「「バナナを食べる時の所要時間」だ。人によって、バナナの大きさによっても違うでしょ、と氏。全く同感です。
 ドイツ語の「Drachenfutter(ドラッフェンフッター)」は、直訳すると「龍のえさ」。「夫が悪いふるまいを妻に許してもらうために贈るプレゼント」のことです。行為としてはよくある(?)ことですが、それを一語で表すのがドイツ流。妻を龍にたとえると「逆に怒りを買わないのかと思わず心配になる」との氏のコメントに頬が緩みました。

★「地面師」(森功 講談社)★
 2016年10月、東京・新橋の一角で、資産家の女性の白骨死体が発見されました。驚くべきことに、彼女の土地が何者かによって転売されていたのです。
 大手住宅メーカーなど不動産取引のプロを巻き込み、他人の土地を、55億5000万円で売り抜けた詐欺集団が、「地面師」と呼ばれる連中で、事件後、続々と逮捕されました。
 取引のプロを欺すために、彼らは、案件ごとに10人程度のチームを組みます。全体の絵を描くリーダー、パスポートや免許証など書類を偽造する「印刷屋」、振込口座を用意する「銀行屋」、そして地主になりすます「なりすまし役」です。
 とりわけ「なりすまし役」は重要ですから、年恰好もちろん、矛盾なく話ができるかなどを、リーダーが面接して選定します。時に認知症気味の人物を当てることもあるといいます。その上で何度も取引を重ねて、取引の実態を見えにくくするのも彼らの常套手段です。今回は殺人事件が絡んでいましたから、警察も本格捜査、逮捕に至りました。「大規模の土地を持っていなくても回り回って地面師と関わることもゼロではないのだ」との氏の言葉を(無縁とは思いつつ)肝に銘じました。

 いかがでしたか?過去分のリンクは<第523回><第543回><第555回>です。なお、HONZ<https://honz.jp/>は、2024年7月で記事の更新を終了していますが、アクセスは可能です。それでは次回をお楽しみに。
 
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