シリーズ第2弾をお届けします(文末に、前回へのリンクを貼っています)。読んでもいない本をあつかましく取り上げますので、遠慮して、タイトルには「そうな」を入れました。
HONZ(https://honz.jp)というノンフィクション本の紹介サイトを主宰する成毛眞氏の著作から、面白本をご紹介する企画です。今回は、氏の「面白い本」(岩波新書)から、5冊を選びました。いずれも興味深く、ユニークな内容ですので、どうか最後までお付き合いください。
<ウソかマコトか>
「鼻行類ー新しく発見された哺乳類の構造と生活」(ハラルト・シュテュンブケ 日高敏隆/羽田節子訳 平凡社ライブラリー)は、なんと鼻で歩く新しい哺乳類が発見されたというショッキングな内容の研究書です。豊富な図版もまじえ、1987年の発売当時は大きな反響を呼びました。ネットから拾って来た本書掲載の図版です。
でも、内容はすべてフィクションです。成毛は書きます。「これほど濃密な内容を空想だけで書くことができるのか、と思わせるほどのものが本書にはある。真実の衣装をまとった真っ赤なウソではあるが、まとっている真実の衣装が、ウソであるにはあまりに精巧なのだ。」(同書から)
時に虚実の疑わしい学説、情報が飛び交う学術世界への壮大な挑戦、パロディと割り切れば、よくできた、楽しめる本、と言えそうです。
<理不尽で滑稽な生>
作家・木谷恭介氏は唐突にも断食安楽死を決意します。その顛末を描いたのが「死にたい老人」(幻冬舎新書)です。動機は、78歳で妻と別れた後の82歳2ヶ月にして、女性とセックス出来なくなったこと。
その決意を多少は周囲の人に知らせはしました。「「枯れるように死ぬ」のだから、死に至る病などになるわけにいかない。持病の薬は用法用量を守ってきちんと服用する」(同)というのですから、なんとも理不尽で、人騒がせなことです。あれやこれやあったのでしょう、本書執筆時点で、断食は中断中とのこと。それは何より、と言っていいのかどうか・・・
<とかく政治家は・・・>
政治家の失言、妄言は日本に限らないようで、アメリカの元大統領ブッシュ氏(父親のほう)の場合は、「ブッシュ妄言録」(フガフガ・ラボ編 村井理子訳 ぺんぎん書房)という「立派な」本になっています。妄言もさりながら、訳者のツッコミ(「村井:」の部分)も楽しい。
イギリスから来た子どもに「ホワイトハウスはどんなところか」と質問されて、「「白いよ。(村井:たしかに・・・)」と答えた。」(同)
カナダのクレティエン首相訪問時のスペーチでは「「カナダとメキシコの国境関係が良好だったことはない。」(村井:その2国間に国境はございません)」(同)
9.11同時多発テロ後であるにもかかわらず「すべてをひっくるめて、素晴らしい1年だった」(同)と振り返る不思議な発言を連発し、世界を振り回しました。あまり他所(よそ)の国の政治家のことは言えない気もしますが・・・
<切腹作法教えます>
現代の生活ではまったく役にたたないけれど、興味をそそられる知識というのがあります。「武士マニュアル」(氏家幹人 メディアファクトリー新書)で披露されるのもそんな知識の数々。
庄内藩士の著書を引き合いに「住み慣れた我が家であっても、暗闇のなか、不用意に足を踏み入れてはならない」「人を殺傷した後は、モグラの皮で刀を拭い清めよ」(同)などが紹介されています。
極めつけは、切腹にける介錯の作法です。腹を裂いて苦しんでいる人間を一太刀で絶命させるための7つの「討ちどき」があるというのです。さらには、首の骨を断ち切るだけでなく、首の皮1枚を残すのが理想と述べられます。断ち切ると「切腹人(の首)がまばたきをしたり地面の石や砂にかみついたりするから」(同)だというのです。つくづく、武士の時代に生まれなくて良かったと感じます。
<ネズミに学ぶ言葉の仕組み>
「ハダカデバネズミ 女王・兵隊・ふとん係」(吉田重人/岡ノ谷一夫 岩波科学ライブラリー)の主人公は、タイトルのとおり、出っ歯で無毛のこんなネズミ。
で、何を研究するかというと、生物の言語能力の存在やその仕組み。なんと、彼らは「パピプペポ」を発音することができ、歌も唄うというのです。自分より上の階級のネズミには特定の鳴き声を多用し、まるで人間社会の上下関係を想起させます。
さらに、アリのように女王が統治し、兵隊もいます。女王のふとんになる係もいれば、ふらっと旅に出る冒険ネズミもいるといいます。確かに興味溢れる研究対象です。ひょっとして、人間の先祖はこのネズミだったのかも・・・さらに研究が進むことを期待します。