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第563回 愉快で楽しい日本語たち1

2024-02-16 | エッセイ
 身の回りには、愉快だったり楽しかったりする日本語が結構ある、というのを、「若干ちょっと気になるニホン語」(山口文憲 筑摩書房)で知りました。タイトル通り、日本語の乱れなども話題に取り上げられますが、私の関心は、もっぱら「愉快」「楽しい」日本語の方に向けられます。私なりのセレクトで、いくつかご紹介することにしました。どうぞお楽しみください。

★そこもっと★
 いきなりアブなそうな言葉ですが、ご安心ください。著者が家電量販店で、パナソニックの電動マッサージチェアを試そうと出かけました。同社の最新の製品です。

 そこには若いOL風の先客がいて、気持ち良さそうに使っています。そろそろ終わるかなと見ていると、手元のコントローラーのボタンを押すのです。「するとふたたび快感の大波が押し寄せてくるらしく、またもや四肢をつっぱらせ、背を弓なりにして悶絶する。」(同書から)
 散々待たされて、あの青くて丸い大きなボタンは一体何か、と見てみると、そこには「そこもっと」との表示。今、マッサージしてるところを、もっと強く、繰り返して、と指示するためのボタンだったんですね。著者もこのベタで分かりやすい表現には感心しきりでした。いかにも関西の家電メーカーらしいな、と同じ地域出身の私も大笑い。最新機種のパネルに「そこもっと」の表示があるかどうかは分かりませんが・・・・

★チョイあげ★
「株式会社わんわん」というドッグフードのメーカーがあるんだそうです。商品のネーミングが上手で、「犬日和」、「彩色犬美」、「ごほうび」なんて製品を送り出しているといいます。この会社が、犬用のビスケットなどおやつ系の4品目を出して、それに「チョイあげ」というシリーズ名をつけました。
 「チョイ」と「あげる」ためのお菓子、というネーミングに、近頃のペット愛好家への敬意と心配りが感じられます。私たちが子供の頃は、犬とか猫には「エサ」を「やる」ものでした。オス、メスなんて言い方も、愛好家の間では禁句なんですね。「お宅のワンちゃん、男の子さん?女の子さん?」なんて愛犬家同士の立ち話を小耳にはさんだりします。商品名にもペット業界と愛好家の人たちへの配慮が入ってくる時代になりました。

★持って帰り★
 ファーストフードの店ではごく普通の「持ち帰り」(「テイクアウト」とも)ですが、若い人たちを中心に、「持って帰り」という言い方が、普及しつつあるというのです。著者はこんな背景を推測しています。
 テレビバラエティなどで、芸能界の合コンが話題になることがあります。合コンが終わって、芸能人が(関係者が段取りすることもあるようですが)気に入った女の子を連れ出して、二人きりの時間を楽しむのを「お持ち帰り」と称するらしく、私もこの言葉、用法は聞いたことがあります。
 若い人たちは、この業界用語について回る「いかがわしさ」がイヤで、わざわざ「持って帰り」とするようです。なるほど~。若い人たちの潔癖さにちょっと拍手を送りたくなりました。

★「ラレシ」の謎★
 著者が夕方、店じまいしたばかりの様子の八百屋の前を通りかかった時のことです。ボール紙を短冊形に切った値札が落ちていました。そこには、「ラレシ 150円」と書いてあります。はてどんな野菜だろうとの疑問は翌日解けました。「ラレシ」の札の前に山積みになっていたのは、赤くて小さい「ラディッシュ」(日本名ではハツカダイコン)。
 「耳から英語」というのがありました。耳から聞こえたままを文字にしたもので、「アメリカン」が「メリケン」に聞こえて、波止場の名前になったりした例を思い出します。さしずめ「耳から野菜名」といったところでしょうか。
 その後も、この店をウォッチしていた著者が見つけたのが「モロヘアー」。お~っと、ずいぶんアブない野菜名になってますが、正解は、もちろんエジプト原産の「モロヘイヤ」です。
 おもちゃ屋ではこんな発見もしています。万華鏡(カレイドスコープ)なんですが、子供だと読めないと思ったのでしょうね、「まんげ鏡」との表示が。こちらもアブなさでは負けてませんね。

 お楽しみいただけましたか?もう少しネタがありますので、いずれ続編をお届けする予定です。それでは次回をお楽しみに。